表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の人生、色々普通じゃないらしい。  作者: 日菜月
第一章 高潔なる一族の三男坊
6/14

4.

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

受験は終わったのですが色々と忙しすぎて更新予定日を2週間も過ぎてしまいました。ごめんなさい。

 家の近くにある道場。

 そこで俺は鏡花姉様と向き合っていた。


「さ。準備運動も終わったことだし、軽く組手から始めようか。」


 清々しい笑顔でそう言い放つ鏡花姉様に俺はげんなりする。


「お手柔らかにお願いします……」

「はははっ!そりゃ約束できないな。もう玲於は七歳になったんだ。当然ながら、今までと同じというわけにはいかない。

 美雨も、女の子だから加減してもらえるとかそんなこと思うんじゃあないぞ。忍びは男女関係ないんだからな。ついでに言うと、女子の方が強くなる傾向があるんだ。諦めろ。」

「ひぇ……」


 基本負けず嫌いの美雨が悲鳴をあげるのなんて、鏡花姉様の訓練ぐらいだろうと思う。


 ストレッチ、短距離走、長距離走に腹筋、背筋、スクワット、腕立て等の筋トレ、それから木刀を使った素振りまでが鏡花姉様が準備運動と称すものなのだが、ここまでで結構疲労する。

 その後、休憩を挟んで手加減はしてるが情け容赦無しの素手での組手と木刀を使った手合わせをする……というのが、鏡花姉様の訓練だ。


「というわけで、今日からは少し強めに行こうと思う。」

「少し強めって……今までのでも十分痛かったのに!?」

「骨を折らないだけマシだろ?」


 ……今すっごく不穏な言葉が聞こえた。

 顔を引き攣らせる俺や美雨に構わずに鏡花姉様は話を続けた。


「私が現役時代に後輩を教えてた時は普通に骨の五、六本折ったよ。もちろん、回復系の能力を持ってた友人に付き添ってもらっていたからすぐに治したが……というか、その訓練に着いてこられる奴じゃなきゃ教えなかった。

 本当に死ぬギリギリまでしごいたこともあった。」


 無茶苦茶だと思ったし、実際美雨も「無茶苦茶だ」と言った。

 しかし、鏡花姉様は真剣な声で言った。


「何を言っている。必要な訓練なんだぞ。例えば、自分が唯一その戦場で動ける存在だとしたら?

 骨は折れて痛いけど、疲労で刀も持っていられないけど、目の前には敵がいる。自分の後ろには、瀕死の状態で動けなくなっている仲間がいる。

 そういう状況でも、きちんと冷静に戦えるようにするための訓練なんだよ。

 私はそういう状況に陥った時、自分が倒れることで仲間を見殺しにするような阿呆に教えたいとは思わなかった。

 その訓練で挫折するならそこまでの奴ってことだ。私はそんな腰抜けを育てたくはなかった。」


 鏡花姉様が言っていることは、一応筋が通っていた。


「とまあ、そんな訓練はもう少し大きくなってからするとして……」


 やるの決定なのか。

 というか、もう少し大きくなってからって何時だ。……案外すぐな気がする。


「とりあえず、組手だ。玲於からな。いつも通り、何してもいいからどっちかの背中がついたら負け。」


 結果は言うまでもないだろう。瞬殺だ。もちろん、美雨も。

 続いての手合わせは美雨からやったのだが、こちらも瞬殺。俺の番になる。




 ●




 木刀の切っ先が目の前に迫っていた。

 思わず目を瞑ると、鏡花姉様からの叱責が飛んできた。


「目を瞑るな、阿呆!何度言ったら分かる!」


 その切っ先は鼻の頭のところで見事に寸止めされていたが、その代わりに拳骨を食らわせられた。


「いっった……!!」


 あまりの痛みに蹲りそうになるが、それをやると更に叱られるのは分かりきっていることなので、何とかこらえる。


「目を瞑れば相手がどんな動きをしているかが分からなくなる!回避出来る攻撃も回避できなくなるのだぞ!」

「すみませんでした!」

「例えば素手での殴り合いになったとして。顔面に拳を叩き込まれたって、目を瞑ってはいけない。反射動作を身につけろ。恐怖に打ち勝て。一瞬が物をいう競り合いの中で視覚を自ら遮断するのは愚か者のやることだ。

 どんなに辛くても、苦しくても、怖くても、痛くても、それを我慢して一歩踏み出す。そうして戦う。例えばさっきも言った背後に瀕死の仲間がいる場合、そういう戦い方が出来る奴と出来ない奴とじゃ……どっちが長く持ちこたえられるか、考えなくとも分かるだろう?」


 鏡花姉様に問われて、頷く。


「あと美雨もだけど、もう少し腰を入れろ。腰を。腰が引けてちゃ、いい攻撃は繰り出せない。」


 それから、鏡花姉様にダメだったところの修正ともう少し長く持ちこたえられるようになるにはどうすれば良かったかを教えて貰い、実践する。


 理論と実践。そして、基礎を大切にすること。

 性格は違えども、広斗兄様と鏡花姉様の教え方は似通った点がある、と俺は思った。



「まあでも、二年前と比べたらまだいい方だよ。耐えられる時間が長くなってる。頑張ってるな。褒めてやる。」


「「わっ……!」」


 美雨と共にわしゃわしゃと頭を撫でられる。

 いきなりで驚いたが、それでも褒められて嬉しいのは変わらない。俺と美雨は顔を見合わせて笑った。




 ●




 いつもなら、この時点で終わりなのだが……今日はいつもとは違った。


「よし、じゃあ……今度はこれな。」


 そう言って、鏡花姉様は端の方に置いていた黒い布でできた何かを引っ張ってきて、それを広げた。

 そこにあったのは、武器だった。

 弓、槍、薙刀、拳銃、ライフル銃、投擲ナイフ…それから、暗器と言われる類のもの。

 それから、長さの異なる木刀が数本。

 というか、この世界……拳銃とかライフルとかあるんだ。てっきり、刀とか…あっても火縄銃くらいだと思ってた。


「これって……?」

「あ、安心しろ。本物じゃあないよ。」


 美雨の不安げな声を聞いた鏡花姉様はおもむろにナイフを手に取り、刃の部分を触った。すると、刃はぐにゃりと曲がる。本当に本物ではないらしい。


 「これは?」と、俺が聞くと、鏡花姉様は答えた。

 俺や美雨がどんな武器に適性を持つのか分からないが、扱い方を知っていればいずれきっと役に立つからこれからそれを教えるとのことだった。


「……そうだな。半年で全部扱えるようにさせてやるよ。その中で自分が一番扱いやすい武器を選べ。結局はそれが一番いい武器の選び方だ。

 まあ、実際は難しいがな。一口に刀と言っても、短刀、脇差、打刀、太刀、大太刀と長さによって違うし、一刀流か二刀流かでも違うんだ。

 それに武器の併用をする奴もいる。その点で言えば、暗器の扱いには慣れていた方がいいだろうな。

 まず、今日は弓からだ。神頭矢にしてるから安心しろ。」

「神頭矢って?」


 美雨が聞いた。


「簡単に言えば、刺さらない矢だ。それ以上のことは水月にでも聞け。私はあんまり長話が好きじゃない。」


 それって遠回しに水月姉様の話は長いと言っているようなものじゃ……と思ったが、俺は何も聞いていない。何も知らない。これが一番だ。


「さて、弓だが……普通の人がその弦を引こうとすると、重くて引けない。狙いもブレる。子供ともなれば尚更だ。

 だが、お前達は二年間私に鍛えられてきたことで筋力が上がっている。引くのは容易いだろう。」


 そう言って、弓を手に取ると、用意した的に向かって矢を射った。矢は真ん中に当たり、そのまま落ちた。


「とりあえず、やってみろ。話はそれからだ。」


 鏡花姉様から弓と矢を渡され、的に向かって弦を引き絞り、放つ。しかし、矢は真っ直ぐ飛ばず、しかも途中で落ちた。ヘナヘナもいいところだ。

 美雨はどうだろうか。きっと俺と同じだろう、と、隣を見る。そして、驚いた。


 ぴんと背筋を伸ばしてキリキリと弓弦を引き絞り、放つ。放たれた矢は俺のとは違って真っ直ぐ飛び、的に当たった。


「すごいじゃん、美雨!初めてなのに当てられるなんて!」

「鏡花姉様の動きを見て、それで……」

「そうか。でも、美雨のでは弓道だな。ここで教えるのは弓術。動きを止めるな。正確性も大事だが、同じくらい素早く射ることも大事なんだ。…そういえば、弓といえば水月が得意だったんだが……」


 鏡花姉様がそう呟くと、「お呼びになりましたか?姉様。」という声がした。振り向くと、道場の入口に水月姉様の姿が。


「水月!なんでいる?」

「なんでいるとは酷いですね。何やら楽しそうな声が聞こえてきましたので。ずるいではありませんか。弓を扱うのに、私抜きというのは。」


 にっこりと笑う水月姉様。後ろにはいつものどす黒いオーラ。俺と美雨はひっと小さく悲鳴をあげたが、鏡花姉様はそれを全く気にせずにただ笑って「悪かった」と言った。


「時間があるなら、お前も教えてやってくれ。」

「分かりました。」


 水月姉様はそう言うと、もう一つの弓を持って言った。


「では、お手本を見せて差し上げます。」


 水月姉様はそう言うと、弓を構えて矢を放つ。そこまでの流れが異様に速かった。ほとんど毎日鏡花姉様に鍛えられている俺でも目で追うのがやっとなくらい。

 そういえば、と。以前、莉優姉様に聞いたことを思い出す。水月姉様は射るスピードがとにかく速い、と。本当にその言葉の通りだった。

 構えてから矢を放つまで、矢を放ってから的を射るまでの矢のスピード……それが鏡花姉様の倍は速かった。


「これくらいの速さで射るのが理想でしょう。しかし、私程の速さで矢を射ることのできる者は現役忍びでは私の教え子の二人しかいません。ですので、まずは素早く正確に……」

「私にも出来るようになりますか?!」


 美雨が食い気味に言う。

 どうやら、水月姉様の弓矢の腕に憧れてしまったようだ。…最近分かってきたのだが、美雨はミーハーの気質があるようだ。


「……まぁ、努力次第でできるようになるだろうが、どのくらいかかるかはわからんぞ。それに、水月のようになりたいなら水月に教えを乞うことだな。」


 苦笑しながら、鏡花姉様はそう言った。

 水月姉様はそれに付け加える。


「残念ながら、私は才能ある者にしか教えません。元々武術の類は得意ではないのです。その才能を示しなさい。」


 美雨は頷いて、目を瞑る。そして、再び弓を構えて矢を放った。水月姉様には遠く及ばずとも先程よりも速い射撃だった。速さにこだわって正確性を失うということも無かった。端っこではあったが、的に当たっていた。


「……なるほど。美雨…貴女には才能があると認めましょう。しかし、私は忙しいので基礎的なことを鏡花姉様から教わって、私の求めるレベルに達したのなら教えて差し上げても良いです。……そうですね、五秒で一本射る程度になったら……ですかね。」

「また無茶を言う……」

「無茶ではありません。私の中の基準です。姉様にもあるでしょう?」

「それは認めるが……」


 五秒で一本は流石に無理だと思った。だが、美雨はやる気満々だった。

 メラメラとやる気の炎を燃やす美雨を苦笑しながら見ていると、


「あ、玲於は弓矢は諦めることですね。才能の欠片も感じません。もっと相性のいい武器を探すべきです。」


 水月姉様が俺の心を折りに来た。


「そんな心が折れるようなこと言わないでください……」


 さっきの一回で才能が無いのは自覚したというのに。美雨と比べれば雲泥の差だ。


「玲於は……アレだな。もう少し狙いは上。腕を目いっぱい伸ばしたところから、頬の横辺りまで弦を引けば…ちょっとは様になる。」


 指導を受けて、姿勢を修正してもう一度矢を放つと、今度は真っ直ぐ飛んだ。的には当たらない。


「上すぎるわ。あと数ミリ下よ。」


 水月姉様に矢の角度を調整してもらい、もう一度。……熱が入ってしまったのか、ずっと敬語の水月姉様の敬語が外れた。

 水月姉様の言う通りに射ると、今度は的のど真ん中に当たった。


「……才能があるのか無いのか分からないことしないでください。少し修正しただけでど真ん中射抜くなんて芸当、私の教え子にも出来ませんでしたよ……?」


 これまた珍しく水月姉様が動揺していた。…って、俺のせいか。


「ご、ごめん……?」

「まぐれ当たりの可能性もあるし、もう一度やってみろ。」


 鏡花姉様に言われてもう一度射ると、またど真ん中。美雨程の速さは無かったが、正確性は俺の方が上のようだった。


「やはり、正確性はありますが遅いですね。なんというか、二人で一人前…という感じです。」


 水月姉様はそう言って苦笑した。

 美雨は俺の方が正確に射撃できると知ってむくれ、「玲於には負けない!」という負けず嫌いらしい言葉を言ったのだった。


「ま、数打ちゃなんとかなるだろ。」

「我武者羅に乱射するのは厳禁ですが、やはりそれが一番でしょうね。」


 それから、姉様二人のスパルタが始まった。時折姿勢や角度の修正が入るが、段々と姉様達の指導に熱が入り檄が飛ぶ。


「遅い!動きを止めるなと何度言えばわかる!」

「狙いが雑になってきているわ。速さを求めるあまり狙いがブレるのは本末転倒よ。」

 

 滅茶苦茶キツくて最後の方は腕の感覚が無くなりかけていたが、そのスパルタ指導のおかげで俺も美雨も最初と比べたら随分上手くなった。

 美雨は十本中五本が的に当たるようになり、内二本が真ん中に近い位置を射抜くようになった。

 俺は十本中一本が的の真ん中に的中していたのが、十本中三本になり、速さは美雨に並ぶくらいになった。


 そういえば、美雨が恐れ知らずにも水月姉様の敬語が外れていることを聞いていた。

 それを盗み聞……否、聞いたところによると、水月姉様の敬語は現役を卒業してから身に付けたものだそうだ。なので、弓を教える際は現役時代を思い出してしまい、その時の口調になってしまうことがあるのかもしれないのだそう。

 ちなみに、全くの無自覚だった。


「私の口調が変わっていた、と?まさか、そんなはずがありません。」


 とは、美雨が口調のことを聞いた時の水月姉様の言葉だった。

 現役時代の口調が出ていると知った時の水月姉様の表情と言ったら……混乱と動揺が入り交じって表情筋が大渋滞だった。

 俺と同じくその話を聞いていた鏡花姉様が大笑いしていたのは言わずもがな。

 閑話休題。


 まあ、ともかく。今日の最大の成果は弓矢を扱えるようになったことだろう。

 鏡花姉様の訓練も毎日の鍛錬を怠らないことが宿題になり、終わる……と思ったのだが、武器の手入れ片付けまでしっかりやることまでが訓練なので二人に教わりながら、それもちゃんとやる。


 お陰ですっかり日が暮れた。


 姉様二人はすっかり時間を忘れてしまっていたようで、まずい、という表情をしていたが、俺は知らない。

 家に入った途端、鏡花姉様と水月姉様が青ざめたとか、母様が仁王立ちしていたとかも知らないのだ。


「鏡花、水月、そこにお座りなさい。」

「「はい、母様。」」


 どす黒いオーラを背後に背負った母様に睨まれた姉様達は最早無の境地に至ったようで無表情だった。


「美雨、玲於、ご飯の準備が出来ています。手を洗ってうがいをしてきなさい。」


 母様にそう言われ、手洗いとうがいをする為に裏庭の井戸に向かう途中……


「全く、貴女達は…何度同じことを言えば分かるのです! 忍びの子とはいえ、玲於も美雨もまだ七歳なのですよ?! 姉である貴女達がちゃんとしなくてはならないのに、 時間を忘れるとはどういうことですか!」

「「申し訳ありませんでした!」」


 母様の怒声と姉様達の情けない声が聞こえてきた。


 まあ、上には上がいるということで。

次回更新予定日→一ヶ月半後くらいに

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ