表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二度目の人生、色々普通じゃないらしい。  作者: 日菜月
第一章 高潔なる一族の三男坊
4/14

2.

 意外と足の速い水月姉様にやっとの思いで追い付くと……


「母様、父様、鏡花姉様、広斗、莉優、白雪、千歳、聞いてください!玲於と美雨が……」


 なんと、水月姉様がたまたま居間に揃っていた両親と姉や兄達に俺と美雨のことを語っていた。主に、如何にすごいかを。

 一を教えたら十返ってきただの、洞察力が年齢不相応だの、物事の本質を見抜く力があるだの……聞いていて居心地の悪くなるようなことを列挙される。

 なんとも、こそばゆい。


「今のうちに色々と仕込んでおけば、将来きっと役に立つと思うのです!いいえ、下手をすれば役持ち幹部レベルまで育てられるかもしれません!」


 なんて鼻息荒く力説する水月姉様。後半から半分以上何言ってるか分からなくなったのは、まあいつものことだ。


「でも、だからといって…今から忍びのことを教えるのはちょっと早すぎやしないか?七つになってからでも構わないと思うのだが。」


 そう言ったのは、鏡花姉様だ。不愉快そうな深青の瞳が水月姉様を鋭く射竦める。

 気が弱い水月姉様は大抵気の強い鏡花姉様に負ける。

 …のだが、この時ばかりは違った。


「…いいえ。私は今すぐ始めた方がいいと思っています。それは譲れません。原石は早い内から磨いておきたいのです。」


 珍しく口答えしてきた水月姉様を鏡花姉様は鋭い瞳で見つめた。二人が睨み合うなんて、こんなことは滅多にない。


「水月、残念だけど…私は鏡花に賛成だ。」


 父様が静かな口調でそう言った。それに母様が続く。


「ごめんなさいね、水月。(わたくし)も反対よ。今の歳からやるのは危険すぎるわ。」


 滅多に怒ったり不機嫌になったりしない両親が、片や不愉快そうに眉をひそめ、片や悲しそうに笑っている。

 これも滅多にないことである。


 自分達のことで真剣に話してくれている…というのは、俺も美雨も理解していたが、何がどうなっているのかが分からず、ただ顔を見合わせて首を傾げた。


 少しの沈黙。そこで「あのさ」と声を上げたのは、長男の広斗兄さん。


「父様と母様が反対なのは分かるけど、俺は水月姉様に賛成したい。

 玲於の非凡なところは今まで散々見てきた。

 だからこそ…早熟してしまった結果、力が暴走する可能性だって十分に有り得る。

 なら、早い方がいいに越したことはないんじゃないかと思うんだけど。降魔で、突然変異が起こること(レアケース)は珍しいことじゃないと思うから。」


 広斗兄さんの言葉を聞いて、


「……あぁ、私としたことが。それを伝える為に来たのに、二人の優秀さがあまりに印象深くてここに来るまでに忘れてしまいました。」


 呑気にそう言ってのける水月姉様。がくっと崩れそうになるのを何とかこらえる。

 本当に…抜けているというか、なんというか。


「私は、水月姉様に賛成します。」


 話を聞いているのか聞いていないのか分からなかった白雪姉様が発言した。


「力の暴走が、何を引き起こすのか。私は身をもって体験しています。それを、弟か妹か、或いはその両方か……ともかく、同じ苦しみを味合わせたいとは思いません。」


 そう言って、白雪姉様は悲しげに目を伏せた。しかし、そのすぐ後に同意を求めるかのように莉優姉様に視線を向けた。莉優姉様は少し考えてから言った。


「私は……どっちがいいか分からない。知識不足で賛成反対を言っちゃダメなことくらい分かってるから何も言わない。」


 千歳兄様もその後に続く。


「僕も分からない。どうするのが最適か。答えられる程の経験も知識も、今はまだ持ち合わせていない。」


 三対三。 中立が二人。

 何の議論かは分からなかったが、真っ二つに意見が割れていることだけは分かった。


 緊急家族会議は平行線のまま、徐々に白熱していく。……主に、姉様二人が。


「何故反対するのです!姉様のわからず屋!危険が理解出来ない程、脳みそが筋肉なのですか!?」

「わからず屋は貴様だろう!理論ばかりではいけないということを言っているのだ!そもそも!美雨はともかく、教える必要があるのか?玲於は私達とは血が……」


 え……


 鏡花姉様が言いかけた何か。


「鏡花!なんてことを……!」


 父様が鏡花姉様を窘める言葉を発そうとした時、ぱしん、と、乾いた音が響いた。

 母様が鏡花姉様の頬を平手で叩いたのだ。

 鏡花姉様は今頃自分が何を言いかけたのか気づいたのか、さっと顔を青くして俺を見た。


「鏡花。貴女なら、言っていい言葉と言ってはいけない言葉の区別くらいつくでしょう。」

「……ごめんなさい。頭に血が上って、つい。」


 俯いて、唇を噛む鏡花姉様。そんな姿、姉様らしくもない。



「玲於、美雨、ちょっと散歩しようか。」



 そう言ったのは、広斗兄様だった。今この場に俺たちがいるのは良くないと判断したのだろう。にっこりと笑った兄様だったが、悲しげに見えたのは気のせいだろうか。


 美雨と顔を見合わせて、「うん。」と言って頷いた。




 ●




 広斗兄様と共に境内の方まで歩いてきて、拝殿に腰掛ける。


「玲於や美雨は小さい頃からそうだから、あまりよく分かっていないかもしれないけど……でも頭がいいから、なんとなくは分かってるよね?」


 兄様の問いかけに俺と美雨は声を揃えて「わかるよ」と言った。


「俺だけ、黒い髪と黒い目をしてる。兄様達や姉様達や美雨は父様か母様と同じ髪の色と目の色なのに、俺だけ違う。たまに、ほら、孤児院の子達が参拝に来るでしょ?だから、多分、そういうことなんだろうなとは思ってた。」

「あとね、近所の子が玲於のこと貰いっ子だって。馬鹿にしてた。違うって言ったけど、私不思議だった。なんで、玲於は髪の色と目の色が違うんだろうって。もしかして、って、思ったこともあったよ。」


 それを聞いて、俺は驚いた。俺は前世の記憶が甦ってから理解したとして、まさか美雨も感づいていたとは。記憶持ちの俺とは違って、美雨は普通の五歳児だ。分かってはいたけど、美雨は普通に頭がいい。と、そう思った。


 俺と美雨の返答を聞いて、広斗兄様は「そっか」と言って複雑そうな顔で笑った。


「分かってるとは思うけど、鏡花姉様がさっき言ったことは二人のことを本当に心配しているからこそ、出てしまった言葉なんだ。だから、怒らないであげてね。」

「うん、知ってる。だから、怒ってない。」

「姉様、美雨と玲於のこと大好きだもん。それくらいちゃんと分かるよ。」


 鏡花姉様は本来はすごく気を回す人なのだ。それが出来ないほど激昂した。

 そうなるのは、いつも大体家族の為。今回の場合は俺と美雨の為。

 それは、嬉しいことでもあった。怒るなんて、とんでもない。


「今はまだ早いけど、その内いつかきっと父様か母様が話してくれると思うから、それまで好奇心は我慢しててね。

 きっと、その頃には色々と学んで理解していると思うから。」



 それから、俺達は居間に戻った。すると、議論は決したようで、俺達に将来役に立つであろう様々なことを教えるという水月姉様の案にまとまっていた。


 将来役に立つ、というのは、忍びの知識だったようだ。

 実は家族全員漏れなく忍びのようで、俺と美雨が忍びになるのはほぼ決定事項らしかった。

 ちなみに、広斗兄様がほとんど家にいないのは忍びだから、らしい。よく分からない。

 その知識を今から教えるか、後に教えるかの違いで言い争っていたらしい。

 正直どうでもいいと思ったのは秘密だ。


 水月姉様からは忍びの歴史とこの世界の知識を、広斗兄様からは力の扱い方を、そして鏡花姉様からは……


「鏡花姉様は何を教えてくれるの?」


 と、聞いたのは美雨だ。


「暴力。」

「「えっ」」

「間違えた。武術。」

「「えっ」」

「あと身体の鍛え方とか、戦い方とか?まあやるからにゃ、全力でやってやるよ。」


 にかっと笑った鏡花姉様を水月姉様以下の面々が揃いも揃って天を仰いだ。

 そして、白雪姉様の「南無。」という呟きもばっちり聞こえてしまった。


 すがるような思いで両親を見ると、揃いも揃って苦笑い。



 何故この日緊急の家族会議が開かれたのか、何故あんなにも緊迫した空気が流れたのか、俺は近い未来、知ることとなる。




 ●




「姉様は昔からそうなのです。と、水月姉様から聞きました。」


 何故あの会議の時に揃いも揃って兄や姉が天を仰いだのかが気になって、数日後に莉優姉様に聞くと、彼女はそう答えた。


「でもでも、すっごく強い【(サムライ)】だったと聞きました。」


 そう言ったのは、莉優姉様の傍らで本を読んでいた白雪姉様だ。……いつの間にか、本を閉じてしまっている。と、思いきや。別の本を取り出して、俺に見せてきた。


「ちなみに、【侍】とは【役職(ジョブ)】のことで、【役職】は適性がある武器によって変わります。鏡花姉様は刀に適性があったので、【侍】になりました。しかも、一般に扱うのが難しいと言われる大太刀を使って、敵を薙ぎ払っていたそうです。」


 なんとも鏡花姉様らしい。と、俺は思った。あの人はそういう大胆な戦い方が似合う人だ。と。


「一方の水月姉様は弓を扱う【狙撃手(スナイパー)】で、曲射の腕が超一流だったそうです。射るスピードがとにかく速くて、そのスピードで敵を次々倒したそうですよ!」


 莉優姉様が白雪姉様の持っている本の【侍】の次のページに描かれている【狙撃手】の画を指さしながらそう言った。

 白雪姉様が次のページを捲る。


「広斗兄様は扱う武器は刀ですが、【結界師(けっかいし)】です。守りの要とも言えるその【役職】は、あまり人数がいないためにとても重用されているそうです。結界を生成する術を使って、相手の目をくらましたり、攻撃を通用しなくするという地味ですが、とても重要な【役職】です。」


 そこで俺は気になった。二人はどんな【役職】なのだろう、と。


「私達はまだに初級なので、【役職】は分かりません。」


 困ったように笑った莉優姉様の返答に首を傾げると、白雪姉様が教えてくれた。


「忍びには初級から始まり、特級まで…ランク付けがされています。忍びの能力が目覚める兆しがあれば、初級。ひとつでも能力が使えたなら、十級……それ以降は知識と経験、能力等総合的なものから判断され、ランク付けされていくのです。【役職】持ちになれるのは、九級以上の忍びです。」

「ちなみに言うと、特級はさらに細かく下はDから上はSまで五段階で格付けされています。しかし、Sランクの特級は本当に稀で英雄レベルとまで言われます。明確にいえば、更に上があるのですが、そこまで到達したのは史上一人しか存在していません。」

「一人?」


 そう聞き返した時、聞きたくなかった声が聞こえた。


()(ざき)(くすのき)一派の六十八代目姫、(すず)(なり)()()です。」


 ぎぎぎと油の切れたブリキの人形のように後ろを振り向くと、そこにいたのは満面の笑みを浮かべた水月姉様。見間違いだろうか?どす黒いオーラが見える。


「玲於〜?私の講義を忘れてこーんなところで油を売っているとは…」


 まずい。講義の前にちょこっと教えてもらうだけにしようと思っていたのだが、いつの間にか時間が過ぎていたようだ。

 莉優姉様と白雪姉様に助けを求めようとすると、既に逃げたあとだった。

 ……ずるい。


「そ、それより!姉様?きざきりゅう?とか、くすのきいっぱ?って、何なの?」


 俺は必死の思いでそう問いかけた。

 ここ数日でわかったのだが、水月姉様は学ぶ意欲を見せると、そちらに気を取られて怒りを忘れてしまうという節があった。

 それをしなければ、最悪鏡花姉様の訓練の方をきつくされてしまう。それだけは勘弁だ。上の姉様二人はこういう時だけやけに結束力が強いのだ。


「……ふむ。良いでしょう。今日はちょうど地理の話もするつもりでしたし、それに絡めて流派や派閥のことも教えて差し上げます。」


 なんとか講義の方に水月姉様の意識が向いたので、ほっと胸を撫で下ろす。が、しかし。そうは問屋が卸さなかった。


「ただし、宿題は倍です。」

「そんな!」

「当然です。私を困らせるだけではなく、美雨の貴重な時間を無駄にさせたのですから。」


 それを言われてしまっては返す言葉が無いというもの。美雨は優しいから気にしないでいてくれるだろうが、水月姉様はそれを良しとしなかったのだ。


「時は金なりなのですよ、玲於。」


 そう言ってにっこり笑う水月姉様。どす黒いオーラが見えたのは、やはり間違いではないだろう。







 恨みがましく水月姉様を睨む俺とそれを窘める美雨、全く気にもしない水月姉様……という構図で今日の講義が始まった。


「では、まずは渡した地図を見てください。」


 水月姉様に言われて、地図を見る。

 これがこの世界の地図だという。


「この世界には、【中央大陸】、【東の大陸】、【西の大陸】、【南の大陸】、【北の大陸】、そして【浮遊大陸】という六つの大陸があります。

 地図にはありませんが、【中央大陸】の真裏の位置に【浮遊大陸】がある、という構図です。【浮遊大陸】には神々の世界……【天界】に繋がる扉があるとされていますが、詳しいことはわかりません。

 そして、この世界は忍びの秘密を隠す為に女王様が創られた世界なのです。この地に住む者の中には【女王の理想郷(アルカディア)】と、呼ぶ者もいます。一般に忍びは【忍びの国】や単に【国】と呼んでいます。しかし、国とは違い、世界なのです。

 それぞれの大陸にそれぞれの文化が根付き、それぞれの国があり、平和であったり、争っていたり、します。

 忍びはこの世界の全てではないけれど、支配領域を持っています。それが、青で囲まれた範囲です。

 支配領域では、忍びは直接統治はしないものの、立場的には王侯貴族よりも上です。戦争には加担しないものの、いざとなればその権力を容赦なく振るいます。」


 中央大陸全域と東西南の大陸の約半分と北の大陸のが青で囲まれていた。……何やら線が手描きのようだが、まさか水月姉様が引いたのだろうか?

 というか、王侯貴族よりも立場が上……とは。随分と特別視されているようだ。


「そして、私達が住むこの場所……()(なぎ)(こく)は中央大陸のど真ん中に位置しています。名前と国境の位置を見てください。ど真ん中でしょう?」


 言われてみると、確かにど真ん中だ。

 すると、さらにもう一枚地図を渡される。それは、中央大陸の地図だった。


「もう一度言います。ど真ん中です。これが何を意味するか、分かりますか?」


 俺と美雨は揃って首を傾げた。

 水月姉様は苦笑して、教えてくれた。


「流石に分かりませんか。これはですね、忍びの支配領域のちょうど中心に位置している、ということなのですよ。」


 言われみれば、確かにそうだった。世界地図の青く塗られた領域の丁度ど真ん中の位置に和凪国があったのだった。


「この国だけは忍びが統治しています。と言っても、細かい区分があるので、それも説明しますね。」


 「以前渡した大判の本を開いてください。」と言われ、開く。指定されたページには、忍びの流派のことが書かれていた。


「忍びには五つの流派があります。()(ざき)(かざ)(まち)(いぬ)(がみ)(しん)()(むら)(くも)

 最古の流派が香沫です。私や鏡花姉様、それから父様が所属していた流派です。一番古くて歴史があり、悪意を監視する任に就いています。古い分、血筋にこだわります。そして、一番最古に近い血筋を好みます。しかし、古い流派で血筋にこだわった結果、力が弱くなりつつあります。呪いを受けている忍びが多くなったのです。更に仲間内ならば問題がなく、それで機能しているからいいのですが、選民思想が抜けきれていません。()(きり)当麻(とうま)香蘭(こうらん)紫陽(しゆう)という四つの派閥があります。以前は五つでしたが、一つは呪いにやられて散り散りになりました。」

「呪いって?」


 聞いたのは、俺だった。


「呪いというのは……そうですね。一言で説明するのは難しいです。しかし、大きくわけて二種類あります。

 一つは禁忌を冒したものに女王が制裁を加えるために行うもの。

 もう一つは悪意が淀み、そこにマナが加わることによって生まれる妖物(あやかしもの)や魔物と呼ばれる存在を倒すことで香沫は民を守っているのですが、その中でも高位の者…人の言葉を解す者が術者となって自身や仲間を倒した忍びを祟る場合があるのです。

 香沫が受ける呪いの九割は後者です。物語等でよくあるでしょう?末代まで祟ってくれよう、みたいなセリフを吐きながら息絶えて、実際呪ってしまう場合が。それです。」


 なるほど、わかりやすい。

 つまり、逆恨みか。


「次に出来たのが神羅。俗世から離れて自然と共に生きている流派です。峰土(ほうど)森和(しんわ)翔海(しょうかい)があります。彼らは他の忍びとも極力関わらないのでそれ以上のことは分かりません。しかし、どうやら精霊を守護しているようです。ちなみに精霊とはマナの集合体である精神生命体のことを指します。

 その次が狗神。こちらも結構な秘密主義ですが、唯一分かっていることが、全員が狼の血を継いでいて、その姿に変身できるということのみ。派閥は恐らく三つか四つではないかと言われています。彼らはその高い身体能力から忍びの切り札と言われています。

 更にその次に出来たのが今では最大の流派となった綺埼。彼らはここではない世界を拠点にして主に反義組織と戦っています。反義組織とは義に背く者達の組織の総称です。主に義に反した"忍び"で構成されています。」

「忍びで……?仲間なのに争うの?」


 美雨が不思議そうな顔でそう聞く。


「えぇ。そうです。

 しかも悲しいことに彼らも彼らなりの正義の元に動いているのです。それが如何に義に反していようと己が志を貫こうとしている。

 まあ、本当に闇堕ち忍びも多数いるんですけどね。こればかりは仕方ありません。綺埼の性です。

 綺埼が拠点を置く世界では忍びは認識されていません。如何に人間を守るために命懸けで戦おうと、それに人間達は気付きません。そのことに対して不満を持つ忍びが一定数いる、というだけのことです。」


 多分、俺達に教えるためだろうが、なんでもないことのように言い放った水月姉様はなんだか少し悲しそうだった。


「あぁ、反義組織が出たついでに言うと、群雲は元々反義組織だった者たちで結成された流派です。朱龍(あけたつ)白龍(はくたつ)蒼龍(そうたつ)…という龍の名を冠する派閥に分かれていて、それぞれ反義組織時代の踏襲派、自由派、改革派で別れているそうです。

 どうやら、女神の教えには従うが、味方になったり中立だったり色々ありの流派みたいですね。」


 そんなケースもあるのか。

 というか、それありなのか。


「さて、綺埼には(くすのき)(ひいらぎ)一つ花(ひとつばな)(たちばな)(すぎ)(つつじ)(ひのき)という七つの派閥があります。七つの派閥はそれぞれ得意とする事柄が違い、得意分野による分担を行っています。柊や檜は妖物との戦闘が得意です。橘は諜報活動と潜入。杉はーーその世界にはあまりいないのですがーー精霊を守護、使役します。一つ花は忍びの情報の秘匿。そして、楠と榴は対人戦闘。反義組織との戦闘は主に榴か楠が行っているようですね。あぁ、そういえば。楠には様々な忍びが集まるそうで怪異も多いらしいですよ。

 ちなみに、怪異とは物語等によく出てくる……人狼族や鬼族、人魚族(マーメイド)森精族(エルフ)、冷人族…ヴァンパイアや蛇族、鳥人族、雪人(せきじん)族、妖狐族、猫又族、龍神族……まあ、そのような人のようで人ではない者達を総称して指す言葉です。

 あぁ、物語に出てこないのでいうと、人喰(ひとくい)族ですね。まあ、彼らはその名の通りなのでそれ以上の説明は出来かねますが……」

「その名の通りって?」


 恐る恐る美雨が聞いた。


「喰らうんですよ。人を。そうすることでしか生きられない可哀想な種族です。」


 水月姉様の脅かすような声にひっと息を詰まらせる美雨。怖いなら聞かなきゃいいのに、と思う俺だが、そんな危険な種族を忍びは野放しにしておくのだろうかと疑問を持つ。


「あぁ、でも喰らうのは人の自殺体だけと決めているようなので脅威はありません。稀に人里を襲う奴らもいますが……そういうのは綺埼の管轄になっているので私は遭遇したことがありません。今度広斗にでも聞いてみると良いでしょう。広斗は綺埼のしかも楠ですからね。

 そのことで鏡花姉様は随分と怒ったのですよ。降魔は代々香沫だったから。」


 なるほど。自殺体しか狙わないから野放しにしていても問題ないのか。

 人里を襲う……とかは、広斗兄様に聞こう。


「って、うちの家って香沫なの?」

「えぇ、そうです。しかし、まあ先祖代々の決まりを守るのは現代忍びらしくはありませんね。

 現代の忍び…あ、もちろん特殊な神羅や狗神は除きますが…現代では自分の考え方に一番近い流派や派閥に入るのが良いとされています。例えば、派閥を纏める姫や当主が掲げる"こうしたい"という目標に惹かれる、だとか、姫や当主の人柄に惹かれる、とかでもいいのです。

 ただ、自分の考えに合う場所を自分で見つければ無用な衝突を生まないことにもつながります。

 もちろん、考えが合わなければ所属替えも出来ますし、所属しないという手もあります。後者の場合、姫や当主の庇護が受けられませんのでおすすめしませんが。」


 現代日本で言う就職に近いのかな。それで言うならば、選挙にも近いかも。清き一票を!みたいな。


「流派や派閥の話に戻りますね。今言ったように流派には流派を派閥には派閥を纏める者がいます。

 女ならば姫、男ならば当主という名称が使われていますが、男女差別に繋がりかねないという理由で香沫では当主で一貫されていますね。綺埼は何故か女しか当主にならないのでそのまま姫という呼称が使われています。

 例外として、神羅は族長という呼称を使うそうです。

 そして、忍びには忍びの姫がいます。全ての忍びを纏める者です。

 そうして、この和凪国にはその忍びの姫や流派の姫や当主の居城があります。そのことから、女王や神に一番近い場所として一種の聖地となっていて、どの流派の支配域にもなっていない……所謂共同主権ですね。」


 姉様はそこで言葉を切った。


「忍びは姫や当主達に従い、その庇護を受けることで忍びは忍びとしての活動をスムーズに行うことが出来ます。

 私はこれからあなた達に忍びとはなんたるか。流派や派閥とはどういうものでどの流派、派閥がどういう歴史を持っていて、どういう考え方なのか。また、今の姫はどういう人なのか。それらを教えていきます。自分が所属したいと思う流派や派閥を決めるお手伝いをします。しかし、決めるのはあなた達自身です。ゆっくりじっくり考えてくださいね。」


 そう言って、水月姉様はにっこり笑った。

 課題が出されて、この日の講義は終了。次の講義までに仕上げる課題の量に泣きたくなったのは、言うまでもない。

こんばんは。日菜月です。

作者受験生のため(受験期に何やってんだ)、

今のところは月1~2のローペース更新を予定しています。

引き続きよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ