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二度目の人生、色々普通じゃないらしい。  作者: 日菜月
第一章 高潔なる一族の三男坊
3/14

1.




 ──人の子よ。正義とは表裏一体の理なのだ。


 ──人の子よ。汝、義を貫こうとするならば我が力を貸し与えん。汝とその血を継ぐ全ての子に理を御する力を与えよう。


 ──人の子よ。生きとし生けるもの、全てを愛し、全てを守れ。



『始祖の女神の祝福』




 ●




 夢というのは、記憶を整理するために見るのだとはよく言うものだけど、その時の夢もそうだった。


 何かのきっかけで記憶の海に沈んでしまっていた記憶。普通なら、蘇るはずのない記憶。

 それが濁流となって、俺の頭の中を駆け巡る。


 それは、以前の俺の記憶。俺の前世の記憶。

 前世の俺は、日本に住む三十代独身童貞オタクという社会的地位低めの称号がずらりと並んだ社畜だった。そう、社畜だった。

 飛び降り自殺に巻き込まれるという中々にありえない事故であっさり死んでしまった俺は、女神によってこの世界に転生させられたのだ。


 ちなみに、この世界は当初の俺が想像したような西洋ファンタジーではなく、随分と和風テイストな世界だった。

 漢字や仮名文字を変形させたような独特な文字を使い、公用語は日本語。名前だって日本らしいものだ。

 建物や服装なども和風テイストだが、和と洋が入り交じったような感じのものも多い。

 閑話休題。


 ともかく、転生した記憶を思い出した直後、ゴンッという鈍い音と頭に走った鋭い痛みに目を覚ますと、重そうな大判の分厚い本を片手にニコニコと笑う姉…否、悪魔。

 しまった、と思ってももう遅い。


「私の講義中に、よくも寝てくれましたね。課題を十倍程度にして差しあげてもよろしいのですよ。」

「ご、ごめん。(すい)(げつ)姉さん。」

「ね・え・さ・ま。そう呼べと何度言ったら分かるのかしら?」


 スッと目が細められ、絶対零度の視線を向けられる。慌てて「水月姉様!」と言い直すと、水月姉様は満足気な笑みを浮かべて「よろしい」と言った。


「玲於ったら、起こしたのに起きないんだもん。」


 そう言って苦笑いをするのは、双子の妹の()()だ。


 前世社畜の俺が(ごう)()()()としてこの世界に生を受けてから、もう五年の月日が流れていた。


 由緒正しき陰陽師の流れを汲む家柄である降魔家の三男として、俺は生まれた。


 俺の家は近所では有名な力のある神社だった。


 降魔家当主である父…(りゅう)(えい)は、神社の神主だ。それ故、お祓いや祈祷、占い等が出来る。更に陰陽師の血を継いでいる為か普通の神主よりもその精度が高いらしい。

 人柄もよく、少々お人好しすぎるきらいがあるが、その性格故に近所の人にも慕われている。

 見目もよく、大人の男性という感じの雰囲気で切れ長の深青の瞳と瑠璃紺色の髪を持ち、高い鼻と薄めの唇。何事もスマートにこなし、仕事に対しての真摯な姿勢…それでいて家族サービスも忘れず、育児にも積極的に参加する姿は正に俺の憧れた理想の男性像そのものだった。……前世で叶うことは無かったが。

 ……話がズレた。


 母である(しら)(はね)は薬学に精通していて、薬草や香草等に詳しい。そのお陰で彼女もご近所の奥様方から頼りにされている。

 すっと通った鼻筋に優しげな目を持つ、幼げな印象さえ持たせるような女性だった。白銀の長い髪は三つ編みにしてひとつに纏められ、乳白色の陶磁器のような肌に翠の瞳とピンク色の唇がよく映える。しかし、見た目の印象とは裏腹に胸はそれなりに大きいのだ。合法ロリというやつだ。

 性格もそれなりに可愛くてなんというかキャピキャピしている。しかしながら、飴と鞭を上手く使い分けるいい母親だ。


 そんな二人には、俺も含めて八人の子供がいる。所謂大家族。

 十七個上の姉、(きょう)()。十四個上の姉、(すい)(げつ)。十一個上の兄、(ひろ)()。六個上の姉、()(ゆう)。莉優の双子の妹で同じく六個上の姉、(しら)(ゆき)。五個上の兄、()(とせ)。そして、双子の妹である()()


 長姉である鏡花は、気が強くて男勝りな性格だ。空手、柔道、合気道、剣道、居合、剣術、弓道、弓術等…ありとあらゆる武道に長けており、近所の子供達相手に道場を開いている。

 快活で明るい彼女は時に進んで憎まれ役を買ったりもする根はとても優しい姉だった。

 両親の血をしっかりと受け継ぎ、母譲りの銀髪に父譲りの切れ長の深青の瞳…と、見た目は整っていた。しかし、お洒落にあまり頓着しないので、二十三歳独身である。

 ちなみに、この世界の結婚適齢期は十七歳~二十五歳とされている。あと二年の間に良い人が見つかればいいと弟ながらに思っている。


 次姉の水月は、鏡花とは正反対で気が弱く大人しい性格だ。普段はとても淑やかで礼儀正しい。しかし、学者基質で何かを説明する時や何かを教える時はかなり熱が篭もる。それはもう引くぐらいに。ちなみに、その優秀な頭脳で大学を飛び級し、今はとある学院で教鞭をとっているらしい。

 母親譲りの豊かな銀髪と優しげな翠の瞳を持つ彼女は近所では有名な美人であった。所謂、高嶺の花というやつだ。そのお陰でこちらも独身。でも、今年二十歳だからまだチャンスは沢山ある。きっと良い人が見つかると思う。


 長兄、広斗は明るく快活で優しい兄だが、良い意味で飄々としている。秘密主義で何をしているのかあまり良く分からない。十七歳という年齢的に高等学校に通っているのだろうということは分かるが、それ以外がさっぱりなのだ。たまに父親の仕事を手伝っているのも知っているが、家にいたりいなかったりで謎が多い。

 父親譲りの瑠璃紺色の髪と深青の瞳を持ち、母親に似た顔の造りをしていることから、容姿端麗の四文字がぴったり似合う美男子だった。

 姉二人に逆らえないのが玉に瑕。


 三姉、莉優は活発で明るい。正義感が強く、嘘をついたり、人を騙したりすることが極端に苦手で考えていることが表情に出てしまうくらいの正直者でもある。苦手といえば、虫も苦手でゴの付くアイツが出た時なんかはもう凄まじい。

 母譲りの翠の瞳を持ち、父譲りの瑠璃紺色の髪をハーフアップにしている…こちらも中々の美少女だった。


 四姉、白雪は大人しい。とにかく物凄く大人しい。そして気分屋。更にかなりの本の虫。活字中毒と言っても過言ではない。そのお陰で物知りではあるのだが…なんというか、水月と同じ匂いがするのだ。白雪の上位互換が水月と言っても過言ではないほどに。

 莉優とは二卵性双生児らしいが、髪の色以外はそっくりである。白雪の髪は母譲りの白銀なのだ。


 次兄、千歳は物静かだが優しい。寡黙、と言った方がいいのだろうか。必要以上に物事を語らない。しかし、表情は豊かで笑顔が素敵な兄である。

 そして例に漏れることなく、母譲りの銀髪に父譲りの深青の瞳を持つ美少年である。


 双子の妹である美雨は基本的に優しくて殊勝な性格だが、勝気で負けず嫌いなところもあり、よく俺に張り合ってくる。

 俺と同じく今年五つの彼女は父親譲りの瑠璃紺色の髪と深青の瞳を持つ、可愛らしい少女である。


 これが、今生の俺の家族だ。

 それが当たり前だったから、特に気にはしていなかった。が、今思う。なんなんだこの家族の顔面偏差値の高さは、と。


 もちろん、俺も例に漏れることなくしっかり美形の血を継いでいて、顔立ちは母である白羽に似ている。似ているのだが……


 俺だけ、濡羽色の髪と黒の瞳なのだ。


 記憶が目覚めるまで、それが意味することが分からなかった。…否、何となく感づいてはいた。でも、記憶が目覚めて理解した。

 俺は恐らく、養子だ。

 どういう経緯かは分からないが、恐らくそうだろうと思った。


 そんなことを考えていると、再び雷が落ちた。誰のかって?そんなの決まっているだろう。


「玲於…貴方って人はどうしてそうやって……」

「ごめんってば!!」


 水月姉様はわざとらしく咳払いをし、「良いですか?」と誇張した声で言った。


「途中で玲於が夢の中に旅立ってしまったので、初めから話しますね。

 昔々のそのまた昔。膨大なマナの他に何も無かった混沌の時代。

 最初の女神が現れた。その名、語るを許されず…ただ始祖の女神や創造の女神なんて呼ばれている彼女は天地を創造し、自分の他に神を作った。

 牡羊座を司る夢と希望、光の神、アリエス。

 牡牛座を司る美と健康の神、シュティア。

 ふたご座を司る生と死、輪廻転生と生々流転の神、ツヴィとリング。

 蟹座を司る技術と炎の神、カルノス。

 獅子座を司る勇気と雷の神、レオン。

 乙女座を司る幸福と交流の女神、ユングフラウ。

 天秤座を司る裁きと統制の神、ジュゴリブス。

 蠍座を司る闇と真理の神、スコルピウス。

 射手座を司る知識と探究心の神、シュツェトクス。

 山羊座を司る恵みと風、大地の神、アイゴルニオ。

 水瓶座を司る時空と流れの神、アクアリウス。

 魚座を司る自由と癒し、海の女神、フィシェテュエ。

 この十二柱の神を上位十二神とし、それ以外を下位神とした。

 そして、女神は自分は正義と運命を司ることにした。

 更に同時に自分と神のための世界、天界も作り、神を統べる女王となった。」


 さっきはこの辺りで寝たんだったなとぼんやりと思う。

 この世界では多神教らしく、沢山の神がいる。ギリシャ神話や聖書神話に似た感じだ。


 というか。


「そこから始まるの?」


 水月姉様に問いかけると、姉様は「そうです。」と、呆れたような口調で言った。


「全く知らない状態から何か知識を得る時は、最初から説明するものでしょう?」


 水月姉様の主張はごもっともなので俺はそれ以上何も言わなかった。


 何故、俺がこんな講義を受けているのかというと、話は二時間程前に遡る。

 俺は昔から、前世の記憶が完全に甦っていなくても、なんとなく前世の記憶による知識が思い出されることがあった為、五歳児らしからぬ事を言って両親や姉、兄を驚かせることがしばしばあった。

 そして、その時。

 庭で美雨と遊んでいると、水月姉様が炎を出して弄んでいる所を偶然見た。

 それを見た俺は、この世界には魔法があるのかと狂喜し、水月姉様に聞いた。

 しかし、水月姉様は魔法ではないと言った。

 その力がなんであれ、なんとしても使えるようになりたいと思った俺は教えてくれと頼み込んだ。

 すると、水月姉様は俺に分かるはずがないと思ったのか、赤かった炎を青くしてから「何故炎が青くなったのか」を問うてきた。

 なんとしても使えるようになりたい一心で思いつくことを──前世の記憶による知識からだが──片っ端から口にした。必死だったから、炎が何故燃えるのかということから炎に酸素──もちろん、酸素のことは分からなかったので炎を燃やすためのエネルギーだと言った──を加えると温度が高くなって色が変化するということまで、本当に片っ端から。

 しかも、俺の傍らにいた美雨は俺が容量を得ずにベラベラと喋ったことを簡潔にまとめて結論を言うということに長けていて、その時も情報の整理をしてくれた。

 それを聞いた水月姉様はまさか答えられると思っていなかったのか驚いていたが、一度約束したことを違えることはなく、教えてくれることなったのだ。

 そういえば、あの時。前世の知識を無理矢理引っ張り出したから、記憶の蓋が空いて思い出したのかな、と、今になって思う。

 閑話休題。


 水月姉様の講義は続く。


「さて、最初に混沌から生まれいでた女神はとても退屈だったので、世界を創り、宇宙を創り、天地を創りました。

  天地を分かち、太陽と月で昼と夜を分け、水を集めて海と大地を分けられた。火が生まれ、風が生まれ、木々が生まれた。

 その過程で様々な神が生まれていきました。

 やがて、双子座の神ツヴィとリングから人間が生まれ、人間との神々の交流を通して更に新たな神々が生まれたと云われています。」


 暇だったのか。暇潰しで天地と生命創造したのか。等と頭の中で突っ込んでみる。

 水月は言葉を切って一息ついた。


「神々の仲はとても友好でした。しかし、同時に上位神になれなかった神から怒りを買うようになった。

 蛇使い座を司る暴虐と破滅の神、フューカス。

 蛇使いとして『天』に記されたフューカスは、元は人間だった。敬虔な信徒だったが、道半ばで命尽きたところを生前の行いによって女神に情けをかけられて神となった者だった。

 力を御する神であった。嫉妬に狂って、それは悪意と暴虐を生み、やがて破滅を招いた。力から生まれた悪意と暴虐は、人間の心にいつの間にか住み着いた。

 人々は裁きの統制を離れて、再び争いを始めた。悪意は善人を咎人へと変え、暴虐は人間に他の命を刈らせた。人間の中で増幅した悪意と暴虐の心は、フューカスの力を増大させた。

 悲しみにくれる女神を十二神達が説得し、やがて女神は十二神達と力を合わせて暴虐と悪意、力から生まれた七つの悪を封じた。

 そして、高潔で気高き魂を持つ人間に自らの持つ力を分け与え、地上で悪を監視し正義を以て粛清する…選ばれし存在を作った。」


 そこで、俺は話が始まる前に水月姉様から渡された、分厚い大判の本に目をやった。

 天から女神が降臨し、地上にいる人間に自らの血を分け与えている場面の挿絵。

 恐らく、この世界で言う勇者や英雄の類なのだろうとぼんやりと考えた。


「私たちはその血を継ぐ者。

 選ばれし者、"忍び"の血を継ぐ者なのです。

 力を分け与えられた一族のひとつ、降魔なのです。

 古の盟約により、義を貫くこと、全ての命を愛し守ることに命を賭けることが私たちの宿命。」


 次のページを捲るように言われ、捲ると、次のページには忍びのことについて書かれていた。

 勿論、前世の世界で言う忍者等ではない。

 "この世界を統治し、守護する者。女王の直接の配下であり、地上における女王の代行者である者達はこの世界の全人口の数万分の一くらいしか存在しないらしいが、その規模は数千~数万にも及ぶ。"というのは、この本に書かれている情報だ。

 ……勇者や英雄かと思ったが、それにしては数が多すぎる。最早一つの種族のようになっているのだろうか?


「忍びは十二歳までにその力が覚醒し、半不死身の存在となります。以降、十八になるまで力が増え続け、二十歳を超えると徐々に力が衰えていきます。

 故に、忍びが忍びとして活動できる期間は短く、一般に十二歳になる年にどこかの流派や派閥に属し、十八歳まで活動した後忍びを卒業して、以降は協力者となります。私もそうでした。」


 水月姉様はそう言って、パチンと指を鳴らした。すると、その指の先には青く燃える炎が出現していた。


「忍びの力は物語にあるような魔法ではありません。個々が個々に持つ異能であり、一般に一つの力しか持てず、どれだけ極めたとしても一属性分の力しか持てません。

 私は"炎を操る"力を持ち、その属性を極めました。

 さて、何故一属性しか持てないか、分かりますか?」


 水月姉様に問われて、考える。


「人は力を持つと、それを振りかざしてしまう人が一定数いるから…じゃないかな。」

「というと?」 

「いくら高潔で気高き魂を持った人に力を分け与えたとしても、その子供やそのまた子供…或いは、ずっと先の子孫にその力を悪用しようとする人が出るかもしれない。だったら最初から力を間違った方向に使えないようにしてしまえばいい。その為の一属性なのかなって。」

「そっか!悪用できるような属性を与えなければ、悪用なんて最初から出来ないもんね!」


 俺の話を聞いて、どういうことかを理解したらしい美雨が俺の言いたいことを簡潔にまとめあげると、水月姉様は歓喜したように「天才ッ!」と叫んだ。


「そうです!その通り!まさにその通りなのです。その時、始祖の女神が考えていたことは分かりかねますが、通説としてはそういうことになっているのです。勿論、その他色々な説がありますが、それが一番有力な説とされています。

 玲於…貴方って子は……なんて……っ!」


 歓喜したかと思うと、何かに気付いたのかさっと顔を青くした。

 そして、いきなり部屋を飛び出した。


「何事?」

「さあ?」


 俺と美雨は顔を見合わせ、水月姉様のあとを追いかけた。

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