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二度目の人生、色々普通じゃないらしい。  作者: 日菜月
第一章 高潔なる一族の三男坊
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閑話︎︎雛方花鳥の転生録

更新がかなり滞ってしまい、申し訳ありません。

またちょこちょこ更新していく予定ですのでよろしくお願いします。

 雛方花鳥(ひながたあとり)は戸惑っていた。自分はついさっき、確かに屋上から飛び降りたはずなのに、女王の謁見室と呼ばれている虚無の空間にいることに。

 大抵転生をする時は、記憶が消えて何も知らない赤ん坊として生まれる。若しくは、記憶を持っていても女王に謁見した際の意識はない。そういう話だったはずだ。けれど、自分の意識は未だある。こんなことは、基本的にはないはずだ。


「アンタが、(アタシ)に、何の用?」


 背後に感じた気配の持ち主に、花鳥は振り向き、不快感を滲ませながらそう言い放った。


「私も随分嫌われたものね。そんなに露骨に不愉快そうな顔をしないで。」


 いつか会った時と同じ飄々とした態度。それを見て花鳥は、チッと舌打ちをした。


「私はアンタが嫌いなの。人の運命弄ぶなんて悪趣味な女王様(アンタ)がね。」


 歯に衣着せぬ物言いにサーヤはクスクスと可笑しそうに笑った。


「知ってるわ。けれど、今はそんなことを話している場合ではないの。あなたが私のことを嫌っているだなんてことはどうだっていい。もう少し、生産性のある話をしましょう? 忍びの精鋭部隊…隠密の雛方花鳥。」


 花鳥はその言葉には答えずに、ただ真っ直ぐにサーヤを見つめた。サーヤはそれを了承と受け取り、再び口を開いた。


「あなたは何故、命を捨てたの?隠密によくある理由なの?"手を汚す"のが嫌になったから? 違うわね。」


 サーヤの問いかけに、花鳥はゆっくりと口を開いた。それは、少々…否、かなり身勝手な理由だった。


「死んでみたくなった。私は沢山の命を奪ってきたけれど、自分が死ぬ感覚は分からない。どうせ、隠密は隠密としてしか生きられぬのなら…その宿命に縛られるのなら……今死のうが、後で死のうが、そんなに大差ないでしょう?命ある者、必ずいつかは死ぬ。それがこの世の唯一普遍のルールでしょう?」

「あなたは…それほどまでに、生に関心が無いのね。全く、どこまでも変わらない人だわ。あなたに生きたいと思わせるにはどうしたらいいのかしらね?」

「それは、無理でしょ。私は、前のことは分からない。けれど、きっと今の私と同じでしょう?ならば、無理。今の私は、生きたいとは思っていないからね。というか、もう死んでる。そういう運命だったんでしょ?」

「いいえ、違う。あなたは死ぬ運命では無かった。」


 思いがけない否定の言葉に花鳥は戸惑い、「どういうこと?」と、聞き返す。


「運命が歪んだ……誰かが歪めた。結果、あなたは死んだ。しかも、一般人を巻き込んで。更に、その余波でエレミアは消滅してしまった。それにより、また別の事象が狂った。全く、こうなってくると、本当に負の連鎖よ。そうまでして私の意図を邪魔したいのかしらね。」

「エレミア……?まさか、そんなこと……」


 花鳥は混乱した。つい先日、会ったばかりの友の顔を思い浮かべた。やっと準備が整って、愛する者と一緒になれるのだ。と、本当に嬉しそうに話していた花鳥の唯一の友人である彼女が……死んだ?運命が歪んだせいで?

 彼女と自分ではあまりに違いすぎていたが、それでも花鳥にとっては大事な友人だったのだ。たった一人の。


「…原因は分かったの?」

「……えぇ、私達の方で処理したわ。彼奴らが許されざる禁忌を行ったのよ。」


 "彼奴ら"。女王がそう称するものに、花鳥は心当たりがあった。そもそも、そんなことを行う奴らの心当たりは一つしかなかった。

 "許されざる禁忌"。其は、神への冒涜。其は、神の創造物であるものが神に背くこと。其は、大罪。行ったならば、死のその後に輪廻に還ることは叶わず、悠久の炎に身を焼かれる。


「私は私の運命をあのクソ野郎共に狂わされたってこと。更にその影響で……エレミアが消滅した。」

「そういうことになるわね。」


 湧き上がってくる怒りで頭がどうにかなってしまいそうだと思った。


「ねえ。こんなことになったんだから、好きなところに転生させるくらいはしてくれるよね?」

「あなたがそれを望むなら。その代わり、これまで通り記憶は封じるわよ。」

「それでもいい。」

「何処に行きたいの?」

「降魔がいい。」


 花鳥は、かつて強い嫉妬と羨望を抱いた戦友のことを思い浮かべていた。始祖の血を色濃く受け継ぐその家系に連なることで、今生以上の力が得られるのではないかと考えたのだ。


「あなたは力を望むのね。」

「その通り。彼奴らをせめて一発殴るくらいは出来るようになりたい。今生の力量じゃ、無理だったことよ。でも、もしかしたら……」

「結論から言うと、出来るわね。力に貪欲なことはいいことだわ。それに、それなら私にも都合がいい。」

「そ。ならもう行きたいんだけど、構わないよね?」

「全く、せっかちだわね。まあいいわ。行ってらっしゃい。次の生はもう少し長く生きなさい。」

「まあ、彼奴らを一発殴るまでは死なないでおくよ。」


 こうして、雛方花鳥は今生の記憶と引き換えに強い力を宿す一族の系譜に連なるという名誉を得た。

 そして、彼女は降魔美雨となったのだ。

 昔の記憶を無くして。

 閑話休題。

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