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二度目の人生、色々普通じゃないらしい。  作者: 日菜月
第一章 高潔なる一族の三男坊
11/14

9.

遅くなりました。

 父様と話をしてから、俺はより一層訓練や講義に力を入れて真摯に取り組んだ。

 時に間違え、挫折し、放り出してしまいたいとも思った。

 それでも俺は学んだ。体術、術、知識。それらを少しずつ自分のものにしていった。


 その間に月日は経ち、季節は巡った。


 ──あっという間に三年が経った。




 ●




 この三年で変わったことは挙げ始めたらキリがない。


 まず、鏡花姉様が婚約した。

 お相手は行きつけの呉服屋の店主の息子。そう、三年前片思いしていた正にその人である。

 鏡花姉様の恋が実った形ではあるのだが、プロポーズされた時…鏡花姉様は俺と美雨を育て上げるまで結婚はできないと言ったらしい。もう大丈夫だと安心出来るまでは身を固めたくはないのだと。

 そんなわけで、呉服屋の店主の息子──面倒くさいからもう名前で呼ぶ──(たか)(しま)紅夜(こうや)さんは長くてあと二年は待つことになった。しかも、水月姉様そっくりのどす黒いオーラを背負った笑みを浮かべた母様に結婚するまで清い交際を続けることを要求されていた為……

 その、なんだ。男ならば、分かるだろう。紅夜さんが可哀想なことになった。しかも姉様は異性に対する免疫も危機感も何も無い。皆無だ。これだけで察してくれ。

 婚約者がいるとはいえ、二十七歳未だ独身の姉に最早呆れの感情しか起きないのである。

 とりあえず、紅夜さん。南無。

 ちなみに、紅夜さんは広斗兄様や父様には劣るとはいえ、結構顔は整っている。鳶色の髪とヘーゼルの瞳を持つ、俗に言うイケメンさんだ。


 次に水月姉様が結婚した。

 ノー交際で結婚した。しかも、デキ婚。というより、産んでやった婚。

 どういうことかというと、一夜の過ちの結果妊娠。それに全く気付かずに十月十日過ごし、検診も何もしないままに産まれた。そう。産まれたのだ。

 最初はただの腹痛かと思っていたら、破水してあろうことか頭が出てきててんやわんや。そのまま、麓に住む産婆さんを鏡花姉様が連れて──背負って──きて、赤ちゃんを取り上げた。

 母様が姉様を問い詰めると、十ヶ月前の過ちが判明。急いで相手に連絡を取ると、相手は凄く誠実な人で母様と父様に頭を下げ、責任は取りますと宣言してそのまま結婚。

 それが一昨年の秋…天秤の月の話である。

 お相手──(とう)()(ゆう)(すけ)さんは元忍びで水月姉様とは同期だったらしい。元々水月姉様のことが好きだったらしく、同窓会で再会して一夜の過ちを犯してしまったらしい。結構名の知れた忍びだったようで家族全員──俺と美雨除く──が、その名前を聞いて驚嘆していた。

 仕事は何してるかと言うと、何店舗かチェーン展開している雑貨や装飾品の店を経営しているのだとか。と言っても、経営は店の者にほぼ任せているから自由に動けるのだとか。

 今は降魔の血のこともあるので広斗兄様と美冬義姉様(ねえさま)夫婦が母屋に移ってきて、離れに暮らしてもらっている。

 あ、そうそう。たまに鏡花姉様や水月姉様と一緒になって教えてくれることもあるのだが、教え方がすごく丁寧で分かりやすい。尊敬と親しみを込めて、悠介義兄様(にいさま)と呼んでいる。

 顔面偏差値はそこそこ高い。広斗兄様と並んで見劣りしない程度。薄藍の髪と琥珀色の瞳を持つ美男子である。

 そうして産まれた息子は姉様の銀色の髪と悠介義兄様(にいさま)の金色の瞳を持っていた。それを見て、本当に琥珀みたいと呟いた美雨の言葉がそのまま採用されて、()(はく)と名付けられた。まあ、散々悩んで話し合った結果だとは思うが。

 今の水月姉様はというと、琥珀を傍らに置いて教壇に立っている。

 この人は本当にたくましいなあと弟ながらに思った。


 広斗兄様や美冬義姉様(ねえさま)は三年前とあまり変わっていないが、ひとつ変わったのが家族が増えたことである。

 三年前、美冬義姉様が身篭っていた赤ちゃんは順調に成長し、一昨年の牡牛の月に産声を上げた。

 唯一の唯と世界の世で(ただ)()と名付けられた男の子はすくすくと成長し、現在一歳と少し。ちなみに、これはちょっと自慢なのだが、俺が名付け親なのだ。

 そういえば、唯世と琥珀は同い年なのだ。春生まれの唯世と秋生まれの琥珀。約半年違いだが、同級生にあたる。いとこで同級生で男の子同士。うむ。これは近い将来騒がしくなりそうだ。…まあ、そこは水月姉様がしっかりしつけるのだろうが。

 あ、一つだけあった。子供の他に変わったこと。

 美冬義姉様(ねえさま)の趣味がバレた。広斗兄様は知っていたようだけど、美冬義姉様(ねえさま)は絶対に知られたくなかったらしくて物凄い取り乱していたが、最終的に莉優姉様と意気投合していた。莉優姉様も思考が腐っていたようだ。きっと知らない方がいいのだという用語が飛び交ったので、そっと美雨の耳を塞いでおいた。

 そして、それに便乗して莉優姉様は「実は私、両性愛者(バイセクシャル)なんだ。」といういらぬカミングアウトをした。理解するのに数分かかった。理解した途端、阿鼻叫喚だった。家族が差別主義者というわけではない。セクシャルマイノリティに対しての理解がない訳でもない。しかし、あまりに唐突のカミングアウトすぎて飲み込むまで時間がかかったのである。


 その莉優姉様はかなり変わった。どんな心境の変化があったのかは知らないが、虫が全然平気になってしまったのだ。いや、本当に。

 あろうことか、ゴから始まるあいつに触れるのだ。素手で。進歩どころではない成果に逆に怖くなる。

 今や、【(むし)(しず)めの巫女(みこ)】等という二つ名がついているらしい。

 いや本当に、何があった。しかも、この変化はこの数ヶ月でなのだ。困惑を通り越して混乱するしかなかった。

 莉優姉様のことに関してはこれに尽きるので詳細の言及は避けるが、ゴから始まるあいつを素手掴みして山に逃がした時は本当に肝が冷えた。夢でも見てるのかと思った。家族全員固まった。

 蜘蛛も手に乗せてた。頭おかしくなったんじゃないか、この姉様はと思った。


 白雪姉様は相変わらずとしか言い様がない。

 変わったことといえば、家に彼氏を連れてきたことくらいだろうか。……案外さらっと言うことでもなかった。率直に言うと、現役の時に恋人を連れてきた姉様兄様がいないので、家中大混乱だった。

 しかも、その報告が手紙の追記によってさらっとなされた為、最初誰もどういう事なのか理解出来なかった。意味を理解した途端、軽くパニックが起きた。

 そして、当日。連れてきたかと思えば、「私多分この人と結婚する。」なんて核爆弾を突如として放り投げた。

 この二年で性格的に大分協調性が出て、マイペースなところが落ち着いたと思っていたのだが、この姉様は本当にゴーイングマイウェイである。

 お相手は、最近名を上げてきた忍びの一族である(ふし)()家の(ふし)()(せっ)()さん。紫色の髪と唐紅の瞳が印象的なイケメンさんだった。うちの家族って顔面偏差値高いから相手にも同じスペック求めるのかな、それとも類は友を呼ぶのかな、あ両方か等と心の中で思ったのは内緒。

 雪加さんは暗器の扱いに優れていて、たまに俺や美雨も教えてもらう。現役忍びに教えてもらうのは素晴らしいなと思うのは、より実践的なことを教えて貰えることだ。


 千歳兄様はかなり忙しいようで最近あまり家に帰ってこない。

 しかし、意外と筆まめな人なので近況報告はちょくちょく届く。

 それによると、"檜の姫に扱き使われている"らしい。しかし、最近やっと一つの班のリーダーになったらしく、嬉しさが滲み出た文面の手紙が送られてきた。

 二ヶ月前に会った時は背が伸びて声も低くなって、すっかり美少年から美青年へと変化を遂げていた。顔立ちは母様似から、どことなく父様似に変わってきていて、同じくらいの時の広斗兄様にそっくりだった。どうやら、降魔家男子は成長するにつれて母様似から父様似へと変化していくようだ。

 色恋の話は無いのかと美雨や酔っ払った鏡花姉様につつかれていたが、そういう方面に気を回す暇がないのだそう。……お疲れ様です。


 美雨は段々と無鉄砲さが無くなってきて、大人っぽくなってきた。男子より女子の成長の方が早いというのは、本当にその通りだと俺は思う。

 同じくらいだった身長はいつの間にか美雨の方が少し高くなっていて、別の場所──妹だから別に他意はなく言うのだが──も少しずつ成長してきた。抱きつかれる時にたまに上半身に出現した小さな膨らみが当たることがある。

 もう一度言う。他意はない。無いのだが、当たるものは…仕方ない。仕方ないのだ。

 そういえば、三年前の水月姉様との弓の約束がどうなったかというと、見事クリアした。そして、水月姉様に扱かれたお陰で美雨は弓が一番得意な武器となった。ちなみに、二番目に得意なのはナイフだ。


 とまあ、こんな感じで主に姉様兄様の婚約者やら家族やらが増えて、家はすっかり賑やかになった。


 毎度毎度やらかしたり爆弾放り投げたりする子供──主に姉様──達の引き起こす行動に振り回されている父様母様は本当にすごいと思うので、俺や美雨がいつも労わっている。

 しかし、美雨も時たまにやらかすので、「まともなのが男の子だけって……」と、ある時母様が嘆いた。


 あぁ、そうだ。忘れてた。

 肝心の俺はというと、刀に適性があるようで刀ならば美雨よりも上手く扱うことが出来るし、得意だと言えるだろう。二番目に得意なのは、暗器だ。雪加さんに教えて貰っているからというのもあるが、刀の間合いではないところに攻撃を仕掛けられるというのは結構有難い。

 美雨程ではないが、俺も少しずつ外見的に成長してきている。少しずつ少しずつ背が伸びてきて、顔立ちは少しずつ家族からはかけ離れていく。それにどうしようもない寂しさを感じるが、これもまた仕方ないことだ。未だに母様の面影が消えないのだけが救いだろうか。きっと、本来の父親か母親が母様に似ているのだろう。ちょっとだけ感謝。


 これがこの三年で変わったことだ。

 家族が増えて賑やかになっても、変わらず俺は学んでいる。様々なことを出来るだけ沢山。




 ●



 ──ぷつん


 先端の針のような部分が耳朶を貫く。そのまま、残りの部分を押し込まれる。


「いったぁー!」

「気の所為、気の所為。」


 ニコニコ笑いながら、悠介義兄様(にいさま)はそう言った。

 気の所為とか言われても痛いものは痛い。痛みにある程度耐性はあるけどそれでも痛いものは痛い。ぎゅっと目を瞑る。

 その間にも作業は進み、痛みは過ぎ去って代わりに少しの異物感が残った。


「お、終わり?」

「いいや?反対側にもう一個。」

「えぇ…」


 もう一度、同じことが反対側で起こる。


「はい、終わり。」


 手鏡を手渡されて、耳朶を見てみると両耳にしっかりとピアスが付いていた。

 黒いキュービックジルコニアが付いたストレートバーベルピアス……らしい。その辺は前世でも縁が無かったのでよく分からないが。


 何故、ピアスを開けたのかというと、強くなってきた力を安定させる為である。

 前世…日本でもパワーストーンや宝石の持つ力等は結構有名だろうが、忍びの場合はその結び付きが強いのだ。

 意味を持つ天然石や宝石の付いた装飾品を身に付けることで体内のマナ量を安定させ、また体外のマナを操ることもよりやりやすくなるのだという。

 中でもピアスは力の弱い者はより強く、強い者の力はある程度制御するという役割を持つのだとか。

 そんなわけで降魔家では十歳になったら開けるというしきたりがあり、それに倣って開けたのだ。


 ちなみに、何故悠介義兄様(にいさま)なのかというと、店で装飾品を扱っていることからそういうことは得意なのだとか。自身も装飾品を身に付けるのが好きなようで、今も結構な量の装飾品を身に付けている。


 まあそういうわけで、俺や美雨も最近少しずつ装飾品を身に付けていたり、そのまま戦闘を行う訓練を鏡花姉様から受けていたりする。

 戦闘中に身に付けているのは危なくないかという話にもなるが、何故か狙われたりはしないのだと広斗兄様は言っていた。

 水月姉様曰く、急所に近い位置に装飾品があるからで、忍びに対してそれを狙うというのは急所を狙うのと同じことだから難しいのだそう。


 今はピアスの他に天然石で出来たブレスレットを身に付けているのだが、前世はアクセサリーの類には本当に縁が無かったので、まだ違和感があるのは仕方ないことだと思いたい。

 美雨は俺と似たような物の他にお団子に結い上げた髪に簪を刺しているくらいだが、あんまり違和感は感じないのだという。

 閑話休題。


 開けてもらう順番待ちをしていた美雨が「ねえ痛い?」と聞いてきた。


「痛い。結構痛い。今もじんじんする。」

「どのくらい?」

「えぇ……じんじんしてるのは治りかけの軽い火傷を軽くぶつけた時みたいな感じ。開ける時は矢が掠ったくらいかな。」

「結構痛いじゃん。」

「痛いって言ったじゃん。」


 そんな話を聞きながら、「気の所為だよ。」と言って笑う悠介義兄様(悪魔)

 美雨も涙目になりながら開けてもらう。開けた後、「玲於の例えより多少はマシかと思ってた。」と言った。正確な例えが出来たようでなにより。


「それにしても、痛みにはどうやったって慣れないよね。」


 先程俺が考えていたことと全く同じことを言う美雨。

 それを聞いて、悠介義兄様(にいさま)は笑った。


「そりゃあそうだよ。俺も昔はそんなこと思ったけど、寧ろ…痛みに慣れると、かえって危険なんだ。痛みは身体の危険信号だからね。

 まあ、それを感じても反射で逃げようとせずに一歩前に踏み出さなければならないのが忍びだけど。」


 悠介義兄様(にいさま)は明るい。明朗闊達とはこういう人のことをいうのかなと思うくらい。その上、面倒見がいい。


 そんな様子を見て、美雨が何気なくこんなことを聞いた。


「悠介義兄様(にいさま)って、教えるの上手いですよね。

 そういう仕事でもやってたことあるんですか?」


 すると、次の瞬間とてつもない衝撃事実が発覚した。


「あれ、言ってなかったか?

 俺、当麻。香沫流当麻一派の元当主だよ。」

「えぇっ!?」


 完全に初耳だった。


「ほ、本当に?」

「こんな下らない嘘吐いてどうする。」


 確かにその通りである。

 そうだが…そうなのだが!

 目の前にいるこの人がかつて派閥のトップだったとは、信じられないのだ。

 忍びの姫や女王に誓う前にまず忠誠を誓う人物。それが派閥の当主や姫である。そんな人が、元とはいえ目の前にいた。


 軽くパニックと思考の渋滞を起こしたが、ここで浮かぶひとつの疑問。


「でも、それなら水月姉様が琥珀を産んだ時、大変だったんじゃないですか?」


 気になって聞いてみると、なんでもないことのように悠介義兄様(にいさま)は「別に?」と言った。

 なんだか少し意外である。


「当麻は自由主義だし、それに親や親戚連中も基本的に放任だからさ。他の所みたいに当主の家系だからどうとか、力を持ちそうだから首輪つけるなんてことは無かった。」


 この話の中での力とは、姫や当主の資格を持つ者のみが得ることの出来るという"導き"の能力のことだ。

 "導き"は万物を操るといわれ、神にも準ずるその力を持つ者はどんなものでも操ることが出来る。普通一属性しか持たないはずなのに、この能力を持つと全属性を操れるというとんでもないチート能力だ。

 更に自らの庇護下にある者に対して、能力の底上げを行ったり力を分け与えたりもできるというそんな能力。


「当主崇高や純血主義が酷いところだと、近親婚は当たり前…力を持ちそうな子供は閉じ込めて常に監視下に置く……なんてこともするらしい。

 香沫だと薙切や紫陽、綺埼だと檜や柊が多いみたいだけどな。あとはそれぞれの派閥の創始者の家系とか。そういう奴らにとって、過去の話は地雷だから気をつけろ。

 まあその点、俺は本当に当麻の当主家系で良かったと思うよ。」


 そんな家もあるのか…と、頭の片隅に留めておく。


 というか、水月姉様はなんて人と一夜の過ちを犯したんだろうか。

 教師という安定職に就いて、順番は違えど名のある…しかも元派閥のトップ(当主)で現有名店のオーナーというハイスペックな男性と結婚して、子供産んで……水月姉様はある意味で一番理想的な人生を歩んでいる気がする。


 本当に、水月姉様は色んな意味でものすごくたくましい。


 水月姉様といえば思い出すのは講義のこと。

 これは水月姉様のものだけでは無いのだが、最近訓練の鬼畜度が数段増した。

 その話を少ししよう。

……明日また更新します。

次回更新予定→4/13 9時頃

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