第2章3
フェリー乗り場から続く大通りは、半年前なら綺麗な街並みだったんだろうが、今じゃ、吹き曝されたゴミや、腐った落ち葉が路肩に溢れ、持ち主の居ねぇ乗用車が、朽ちかけの姿であっちこっちに止まってるから、スピード出しちゃ走れねぇ。
こんな状況じゃ、もう少しすると、アスファルトの継ぎ目から、ペンペン草が生えるかもしれねぇな。
そんなこと考えながら、オレは、久里浜の駅前を進んで行った。
けど、街中を走るってことは、どうしたってゾンビ野郎の関心を集めちまうのよ。
最初の予定じゃ、パワーの有る装甲六輪駆動トラックが先導して、ゾンビ野郎を打ちのめしながら、ズンズン進んでく予定だったが…。
そいつは早々と鉄屑になっちまったから、今は十トンロングボディのこいつだけが頼りだぜ。
正面から向かって来る野郎は、強化バンパーが何とかしてくれるが、横からの攻撃まで手が廻らねぇ。もしもの時は荷台に乗った奴らが、どうにかするしか無ぇだろう。
オレはトラックを転がしながら、無線機のスイッチを弄くって、荷台に乗ってる伊東の野郎に、さっきの状況を確認したのよ。
貨物船を攻撃してきた潜水艦は、艦橋の形からC国かロシア製のディーゼル潜水艦らしい。
…間違いねぇ。南の国の奴等がちょっかいを掛けてきたのに決まってる。
魚雷で攻撃された貨物船は、無線通信する暇もなく轟沈しちまったから、「乗ってる奴らは全員助からなかったろう」って話だ。
尤も、助かったところで、陸に上がったら同じことだから、そのまんま沈んじまった方が、乗ってる奴等にとっちゃ、良かったんだろう。
オレは、「帰りの船が無くなっちまったら、サルベージに行ったって無駄じゃねぇか」って肝心なことを、聞いたのよ。
伊東の野郎は、「衛星無線で救援を呼ぶつもりだから、このまま作戦を継続する」って答えてきた。
ただ、東京湾に南の国の潜水艦が入って来てるから、オレ達を回収してもらえる場所は別の所になるらしい。
…だらしねぇ話だぜ。
こっちにだって潜水艦ぐらい有るんだから、一発やっちまえば良いんだろうが、政府のお偉方の弱腰じゃ、いつまで経ったって埒があかねぇ…。
オレは、むかつく気分を、紛らわせるように、飛び出してきた一匹のゾンビ野郎へ、フロントタイヤを向けたのよ。
強化バンパーの鋼鉄エッジが、そいつの腹を切り裂いて、サイドウインドウの金網鉄筋に、内臓の切れっ端が絡み付きやがった。
未練がましいゾンビの破片を、吹き流しみてぇに靡かせながら、オレ達を乗せた十トントラックは、横浜-横須賀の高速道路に続く坂道を、力強く登って行ったんだ。
そんなオレ達が進んで行く、横-横線の高速道路も、放置車両も多かったが、十トントラックに装着した強化バンパーの威力は、ゾンビだけじゃねぇ、ポンコツ車の処理にも有効だぜ。
車両を押し退けながら、こっちが通れる隙間を作って行くんだから、普通のバンパーじゃ、すぐにヘン曲がっちまっただろうな。
そんな高速道路を暫く走ると、ホントなら六輪駆動の装甲トラックに乗るはずだった伊東の野郎が、トラックの助手席に乗り移るって言ってきた。
湾岸道路に向かうジャンクションの手前で、トラックを停車させたオレは、左右の林に注意しながら、自分の散弾銃の弾を補給して、一息ついたのよ。
アメちゃんと一緒に、トラックの助手席に乗り込んできた伊東は、「後ろの負傷者を治療するから、少し待ってろ」って、吐き捨てるように言いやがった。
三上って名前の「グレーネードランチャー」野郎が、足を怪我しちまったらしいんだ。
幸い、骨は折れちゃいねぇようだから、応急手当すりゃ何とかなるだろう。
しかし、上陸したばっかりで、四人も殺られちまったし、六輪駆動に乗せてあった予備の武器や弾薬も、パーになっちまったから、どうしたって心細いぜ…。
座席の後ろには、このトラックに乗る予定だったオレ達三人分の予備のタマは確保して有るが、あの調子でゾンビ野郎が押し寄せてきた日にゃ、どうなることか判らねぇ。
だからオレは、自動小銃の予備のマガジンをシートの後ろから取り出して、荷台に残った奴等に渡してやったのよ。
相変わらず中島のアホが、予備弾を受け取りながら、ブツクサ文句を垂れてやがった。
無理も無ぇ、板バネのサスペンション付けたトラックの荷台じゃ、ケツが痛くなっちまうのは、以前にも経験済みだからな…。
そんな荷台の上じゃ、自衛隊上がりのマシンガン野郎が、怪我人の応急手当てをやってたぜ。
太ももに刺さった六輪駆動車の破片で、苦痛の表情を浮かべる三上を介抱しながら、大男の平岡が、バックパックからファーストエイドキットを取り出してた。
…トラックが停車したこの辺りは、丘陵地帯で山ん中だから、見える範囲に人家は無ぇ。
こんな所をウロチョロしてる、ゾンビ野郎も少ねぇから、オレ達も、ちっとは安心できたんだ。




