表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オヤジ2  作者: 矢島大佐
45/52

第9章5

 軽飛行機だって、時速は二百キロ以上出るんだぜ。厚木から足柄までなら「あっ」と言う間に飛んじまう。

 そのうち、山の斜面に沿って機体を上昇させていたロン毛野郎が、ポツリと一言呟いた。どうやらセスナの燃料は、保っても残り二、三十分の飛行が限度らしい…。

 燃料計を気にしながら、ミミズの這い跡みてぇに蛇行する東名高速に沿って、足柄丘陵の山の上空を跳び続けていると、揺れる機体に悪態をつきながら、後部座席の三上の野郎が話しかけて来た。

 奴は「飛び上がったのは良いが、着陸はどうするんだ?」って気にしてやがる…。

 腹黒伊東と南の国のトラックに追い付いたは良いが、近場に飛行場が無けりゃ、あっさりと逃げられちまうだろ。

 そしたら桐山の野郎の言い種が「機体の幅があれば、どこだって降りてやる…。こいつに乗っちまったのが、運の尽きだから、おっさん方には地獄まで付き合ってもらうぜ」だとさ…。

 まったく野郎は、いいタマだ…。

 順調に飛行を続けるセスナの正面にゃ、雲一つ無ぇ綺麗な富士山が、くっきり写っていやがるが、オレはコクピットの中で、生きた心地もせずに、嫌な汗を額に滲ませてた…。

 「…居た!」

 眼下に足柄のサービスエリアが写り始めた頃、操縦桿を握りながら片手で追跡装置を操作していた桐山が、ホッと一息つくように呟いた。

 どうやら南の国のトラックが、探知圏内に入ったらしい。

 怖々と、サイドウインドウから眼下を覗き込んだオレは、上りの車線まで埋め尽くした乗用車や大型バスが、数珠繋ぎになって西を向いたまま、朽ちかけている光景が目に入った。

 半年前のゾンビ騒動で、首都圏を脱出した奴等の放置車両だが、良く見ると、そんな渋滞の間にも、押し出されたり踏み潰されたりした車両の跡が造る、通路らしき物が見えたのよ。

 サルベージが目当てでゾンビの国にやって来たヤクザ野郎の仕業だろうが、腹黒伊東達を乗せたトラックは、そいつを辿って西に向かっているんだろう。

 そのうち、ロン毛野郎が、南の国の軍用トラックを確認しようと、操縦桿のハンドルを押し込んでセスナを降下させたのよ。

 …山の裾野の森林が、目の前に迫って来て、機体が真っ逆さまに落っこちるみてぇで、オレは思わず目を瞑っちまったっけ。

 暫くして水平に戻ったセスナは、地上から五十メートル程の高度を保って、追跡装置が示す方向に、真っ直ぐ突き進んで行ったのよ。

 この高さだと放棄車両の間から、オレ達を見上げるゾンビ野郎の姿まではっきり見える。

 …丁度、軽飛行機が、御殿場インターの上空を通り過ぎた辺りだった。

 「トラックだ…。見えたぜ!」

 ロン毛野郎が、顎で前方を指しながら、上擦った声で話しかける。

 オレは軽飛行機の計器板に身を乗り出して、そいつを確認しようとした。

 …その時よ。

 ガン・ガン・ガンと、機体に何かがブチ当たり、オレの側のサイドウインドウが、ビシッと音を立てて弾け飛んだ。

 畜生め。…南の国の連中が、いきなりブッ放した小銃弾の洗礼を、まともに浴びちまったのよ。

 焦った桐山は、セスナを急旋回させるが、その間にも、更に何発かの銃弾が、機体のジュラルミンに食い込む音が響いてた。

 軽飛行機は攻撃を避けるため、急激に高度を落としながら、右へ旋回を始めた。

 だけどこっちは、シートベルトも締めてねぇ不安定な体勢だろ…。

 急降下の煽りを食らって、割れたウインドウのドアに、てめぇの体を、したたか打ち付けちまった。

 その上どうやら、さっきの小銃弾攻撃で、ドアのロック機構がぶっ壊れちまったんだろう。…気が付いたときオレは、機体の外で主脚のタイヤに、しがみ付いてたんだ。

 …フッ飛ばされて、機外に放り出されたオレは、正面から轟々と叩きつけてくる風に、体全体を煽られながら、強化プラスチック製のタイヤカバーを必死で抱え込んでいたって訳よ。

 咄嗟の急機動で飛行コースを替えたから、銃撃される恐れは無くなったが、死に物狂いで右の主脚にぶら下がるオレの顔に、そのうち何やら、ぬめっとした熱湯が飛び散って来やがった。

 …火傷しそうに熱いそいつは、機首のフェアリングの隙間から、ダラダラと滲み出してくるエンジンオイルだぜ。

 どうやらさっきの流れ弾が、エンジンの何処かに当たったらしい。

 漏れ出したオイルが、水平対向四気筒のマフラーに飛び散って、焦げ臭い臭いと、ブルースモークまで吐き出してるんだ。

 オレは、このまま墜落しちまうんじゃねぇかと、嫌な想像しちまって、こっちを助け上げようと、半開きのドアから身を乗り出してる三上の声さえ聞こえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ