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オヤジ2  作者: 矢島大佐
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第9章4

 パン…パン…パン…と、耳元で響くリボルバーの銃声は、セスナのドアから身を乗り出した、ロン毛野郎の援護射撃よ…。

 桐山の奴は「早くしろ」って叫んでるが、オレ達が軽飛行機のボディーを押しているから、滑走路に出るまでエンジンを始動出来ねぇらしい。

 それでも、押し寄せるゾンビの先陣隊が撃ち倒されて、どうにか余裕が出来たオレは、機体に体を押し付けて、滑走路までの最後の数メートルを力の限り押したのよ…。

 コンクリの路面に泥跡残し、セスナの機体が後退る。

 平たい路面に乗り出せば、取りあえずはこっちのモンなんだが、呻き声上げる死人野郎の軍団が、見る見る近づいて来やがるから、生きた心地もしねぇぜ。

 次の瞬間、軽いスターター音を響かせて、セスナのプロペラが回り始めた。

 メガネ猿が、一目散にコパイロット側のドアに飛び付くのと、機首の下側にあるマフラーから、ホワイトスモークが吐き出されるのが、ほとんど一緒だった。

 オレは、力強いエンジン音に小躍りしながら、軽自動車並に狭いセスナの後部座席に三上の野郎を押し上げた。

 リアのシートは、それで定員一杯になっちまったから、ロン毛野郎がツードアの車みてぇに折りたたまれた、前席のシートを元に戻してオレの座席を確保してる。

 バックパックを背負っている上に、日本刀の白鞘みてぇな長物が手荷物だから、オレが乗り込んだ座席はキチキチ状態よ。

 その上、ハンドルやレバーが、目の前の計器板から突き出してやがるから、大柄のオレじゃ、うっかり『伸び』も出来やしねぇ…。

 スロットルレバーを操作していた桐山が、ゾンビの少ねぇ方に機首を向けながら滑走を始めると、二匹の腐れ野郎が行く手を遮るように立ち塞がった。

 ラダーペダルの操作で何とか一匹は躱せたが、次の野郎がまっ正面に来てやがる。

 …高速回転するプロペラに吹き飛ばされたゾンビ野郎の片腕が、ゴリッと言う衝撃と共に、フロントスクリーンにぶち当たった。

 プロペラはどうやら大丈夫みてぇだが、やたらに草刈り機みてぇなことを続けてると、軸が折れちまうだろう…。

 罵声を上げた桐山は、更にスロットルを開いて機体を加速させていく。

 向かってくるゾンビの動きを予測しながら、セスナの方向を修正するのは大変だ。

 それに、整備されてねぇ滑走路上にゃ、吹き飛ばされてきたゴミ屑や、機体だか車両だか判らねぇ、機械の部品も転がっていやがるから、なおさら操縦が難しい。

 おまけに正面を見ると、焼けただれた垂直尾翼の残骸に、赤い色がどす黒く変色した、消防車両の鉄屑が座り込みしてやがるし、車両の脇を走り抜けようにもゾンビ小隊が邪魔してる。

 そんな中、フルスロットルのセスナは、滑走路のゴミ屑にバウンドしながら、消防車の残骸に突っ込むように加速を付けて行きやがる。

 オレは、目の前に迫って来る赤茶けたポンプ車を睨み付けながら「おぅおぅおぅおぅ」って無意識に叫んでた。

 …『突っ込む』と、思った瞬間『すぅっ』と機首が上を向き、ケツの下辺りに、ふわりとした感覚と、ゴツンと響く衝撃音が伝わってきた。

 滑走路のコンクリートが、斜めになって遠ざかり、空冷四気筒のエンジン音だけが響き渡るコックピットに、オレたち四人の、でけぇ溜め息が木霊した。

 …そんなこんなで、離陸寸前ポンコツ車両に接触しながらも、軽飛行機は何とか空に舞い上がったのよ。

 綺麗なトラフィックパターンで、上空を旋回するセスナの窓からは、綾瀬の市街地や西に延びる東名高速の六車線道路が見えてたぜ。

 きっと地上じゃ、恨めしそうな死人野郎が、汚ねぇ面して、こっちを見上げてるんだろう。

 オレは、そんな光景をまじまじと考えていたんだが、ふと思い出しちまった…。

 『どう考えてもここは、ダンプの運転席より高ぇ』ってことをよ…。

 てめぇのケツの穴が『ぎゅっ』と縮まって、そのうち膝が勝手に笑いやがる。

 情けねぇ。…オレは、ニョロニョロした長げぇモンと、高けぇ所が大嫌いなのよ。

 そんなオレのことは、お構いなしに、桐山の野郎が機体をバンクさせながら機首を西に向けやがる。

 高度は三百メートル程だから、眼下に見える風景は、箱庭みてぇに綺麗だが、こっちはそんな余裕なんぞは有りゃしねぇ。

 正面向いたまま、口を『へ』の字に結ぶだけよ。

 …コックピットの騒音で、何を言ってるのか判らねぇが、後部座席の中島メガネ猿は、ブツブツと愚痴をこぼし始めた頃、セスナは足柄の丘陵地帯に差し掛かった。


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