第9章3
この距離なら、自動小銃や拳銃で『カタ』を付けるのは難しくは無ぇが、静かに殺らなきゃ、後々面倒なことになっちまうだろ。
…そう思った瞬間、オレの横で、カシャ・カシャ・カシャとカメラのシャッター音が鳴り響いた。
そいつは、三上の野郎が構えるサイレンサー付きサブマシンガンの作動音よ…。
銃口から薄い硝煙を靡かせながら、MP5マシンガンを小脇に抱えて、三上の野郎が立ち上がる。
額を撃ち抜かれたゾンビ野郎は、赤松の大木の根本に、大の字になって折り重なったが、衝撃で目玉が吹き飛んだ眼窩から、ドロッとした液体を滲ませてやがるから、そいつ等は二度と、立ち上がらねぇだろう。
けどよ。…サイレンサーから漏れた音が、そこらに響いちまっただろ。
近くに他のゾンビ野郎が居たらたまらねぇ。それでオレ達は、物音立てねぇように、素早く場所を移動した。
チョッとでも物音がしようモンなら、即座に地面に這い蹲って、落ち葉の中に身を隠したぜ。
…それが功を奏したんだろう、東名高速の高架の下を潜り抜け、相鉄の線路の鉄橋までは、どうにか無事に辿り着いた。
目の前に、厚木街道の土手が見える辺りまでやって来ると、オレも少しはホッとした。どうやらその先が、広々とした厚木の飛行場らしいからよ…。
厚木街道の道路の上にゃ、乗用車やトラックの残骸が、数珠繋ぎになって止まってる。
オレ達は、そんな車両の陰を利用しながら、飛行場の滑走路に近づいていった。
フェンスで囲まれた基地の敷地は、厚木街道の土手の下、目と鼻の先よ。…百メートルほど南側のエスケープゾーンの草っ原に、青いラインの軽飛行機が見えてるぜ。
あれが、ロン毛野郎の乗ってきたセスナってヤツだろう。
そんな飛行機を見た桐山が「滑走路の真ん中に、ぶっ壊れたトラックが鎮座してやがるから、離陸距離はギリギリだろう」って、他人事みてぇに言いやがる。
それに、機体が滑走路を外れて、エスケープゾーンに突っ込んじまってるから、コンクリートの路面まで、人間様の力で押し出さなきゃならねぇらしい。
昨日からまったく、力仕事ばかりでうんざりだが、ここを脱出するためには「うだうだ」言っても仕方がねぇ…。
厚木街道の廃車の影から眺めると、航空基地の駐機場にゃ、ケシ粒みてぇなゴミ屑がフラフラと動き回っていやがるぜ。
どこもかしこも、腐れ野郎が溢れてる。
それでも、奴等が滑走路のこっち端まで来る頃にゃ、軽飛行機は雲の上って寸法よ。
それでオレ達は、五十メートルほど先に見える金網フェンスの破れ目に向かって前進した。
セスナで強行着陸した桐山の野郎が、ここを脱出するとき手榴弾で吹き飛ばした場所だろう。抉れた地面が直径50センチほどの穴を開けていやがるぜ。
幸い近くにゾンビ野郎の姿は見えねぇ。オレ達はそそくさと穴ボコを越えて、膝の高さほどの枯れた雑草が生い茂る、基地の敷地に踏み込んだ。
腰を屈めながら、オレの先を進むロン毛野郎は、ミサイルを乗せたトラックの行方を確認しようと追跡装置を操作してる。
…奴が舌打ちしたところを見ると、発信器はどうやら探知圏外になっちまったらしい。
「東名に乗ったのは間違いねぇから、高速沿いに飛べば奴等に追い着けるはずだ」って呟いてる。
腹黒伊東の逃げ道は、限られちゃいるが、こっちが道草食ってるうちに、どんどん先に行っちまう。
それでオレ達は、急いで軽飛行機の側に走り寄ったのよ。
逃げることしか考えてねぇ中島メガネ猿が「脱出だ。脱出だ」って、またまた騒ぎ出しやがる。
つべこべ言わずに、とっととセスナを押さねぇか。
オレは二、三日前の雨で、泥に埋まっちまったセスナの主脚を引っ張りながら、中島のアホを怒鳴りつけた…。
桐山の奴が、素早くコックピットに乗り込んで、エンジンの始動準備を始めると、途端に機体の反対側で、主翼の支柱を押していた三上の野郎が叫び声を上げやがる。
奴が指差す方向の西側の兵舎から、幽霊みてぇな人影が走り寄って来やがるぜ…。
チクショウ。…ゾンビ野郎に見つかった!。
焦ったオレは、車輪のカバーが半分ほど埋まったセスナを引く手に力を込めた。
オレの右足と左手は、ソンビ症候群を発症してるから、他人様より多少はパワーも有るんだが、それでも泥に足を取られちまって、思うように機体を動かせねぇ。
たった三十メートルを押し戻せば、コンクリートの路面だが、のろのろしちまったモンで、死人どもの歓喜の声が、直ぐそこに聞こえて来た…。




