第8章4
ホッとしたのは良いんだが、六輪駆動と俺たちの間にゃ、オリーブグリーンの作業服着た、アメちゃんゾンビの二人組が『通せんぼ』してやがる。
この状況で、自動小銃をぶっ放したら、流れ弾が軍用トラックに当たっちまう。
…けど考えてる暇なんか有りゃしねぇ。
舌なめずりするゾンビ野郎が、飛び掛かって来たモンで、焦った中島のアホはM16から一連射したのよ。
二匹の死人の頭蓋を突き抜けた、フルメタルジャケット強化弾は、軍用トラックの荷台の鉄板に当たって、派手な火花をあげやがる。
…こうなりゃ、メガネ猿の『まぐれ当たり』が無ぇことを祈るだけよ。
オレは、賺さず軍用トラックの運転席に飛び乗ると、左ハンドルのダッシュボードのスタータースイッチを捻ったぜ。
五トンの六輪駆動が、咳き込むように身震いして、ジーゼルの騒々しいエンジン音を奏でる頃にゃ、ロン毛やメガネ猿も、どうにかこうにか荷台の上に収まって、三上の野郎を引っ張り上げてた。
新手のお客さん方が格納庫の正面扉に現れる前に、何とかギアをリバースにぶち込んで、蹴飛ばすようにアクセルペダルを踏んづける。
ゾンビになっちまった右足だから、微妙なアクセル加減の調整なんか出来やしなかった。
…一瞬だけ回転の下がったエンジンは、次の瞬間、轟音立てて吹け上がり、トラックのボディが西部劇の暴れ馬みてぇに荒々しく飛び出した。
格納庫の正面扉を走り出ると、真っ赤に燃える春のお日様がポカポカと降り注いでたが、唸りを上げたジーゼルエンジンの回転計の針も、真っ赤なゾーンに達してた。
オレは、騒ぎを聞き付けて寄ってきた何匹かの死人野郎を後輪タイヤで轢き殺しながら、ギアを前進に切り替えようと、誘導路の中央付近で急ブレーキを掛けたのよ。
六輪から煙を吐きながら、急停止した軍用トラックに、数十匹ものゾンビ野郎が、四方八方から躙り寄る…。
車体が、まだ停止しきらねぇうちに、ギアを『D』に切り替えると、オートマチックのミッションが、悲鳴のような金切り音を上げやがる…。
オレが、力任せにセレクターレバーを操作していると、そのうち助手席の窓から、何かが飛び込んで来やがった。
…ゾンビ野郎かと思って、ブン殴ろうとしたんだが、よく見ると桐山の兄ちゃんじゃねぇか。
奴は「…あやうく振り落とされるところだったぜ!」って、叫び声を上げたが、こっちだって必死だ。
「タクシーじゃ無ぇんだから我慢しろ」って怒鳴ってやった。
…ゾンビ野郎が六輪駆動に群がる前に、やっとの思いで軍用トラックを発車させ、どうにかこうにか横田の滑走路を走り出した。
だけどよ。…巡航ミサイルを積んで先に行っちまった腹黒伊東の行方が判らなきゃ、どこに向かえばいいってんだ?。
それで、オレは「行く先はどこだ?」って聞いたのよ。
桐山の奴は、トラックの助手席の足下辺りを、何やらモゾモゾとやってたが、携帯ラジオに似た黒い装置を取り出した。
何でも、オレ達に支給されたバックパックには、発信器が仕掛けられてて、そいつで位置が特定できるらしい。
ロン毛野郎は、発信器の信号を頼りに相模原の補給廠までオレ達を追いかけて来たんだが、腹黒伊東に気付かれるのを恐れて、軍用トラックのシートの下に受信機だけを隠して置いたんだと。
オレ達から戦利品代わりに、バックパックを奪いやがった腹黒伊東の奴は、知らぬ間にテメェの居場所を発信してるって訳だ。
…桐山の奴が、地下の貨物エレベーターから脱出するとき、オレ達の装備全部を持ち出さなかったのにも、そういう理由があったのよ。
追跡装置の受信機を操作していた桐山は、「奴等のトラックは南に向かってる」って呟いた。
どうやら方向的には、八王子から相模原方面に向かってるみてぇだけど、距離的にオレ達の方が三、四十分遅れてる。
オレは、ロン毛の指示に従って、国道16号に乗り入れると、南に向かって走り出した。
トラックのエンジン音を聞きつけた腐れ野郎の馬鹿どもが、相変わらずの特攻攻撃を仕掛けてくるが、突進中の五トン軍用トラックに敵う者などあるものか。
そんなこんなで、オレ達を乗せた六輪駆動車は、奴等の破片を振りまきながら、福生の街を後にしたんだ。




