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オヤジ2  作者: 矢島大佐
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第1章3

 先生は、オレに例の酵素の注射しながら、「ゾンビ化は、止まった訳じゃ無ぇから、無理するな」ってポツリと言ってた。

 …判ってるんだ、覚悟は出来てる。

 武藤の旦那みてぇに綺麗に逝けりゃぁ、「かかあ」と「ボウズ」が三途の川の向こう側で、待っててくれるだろうがよ…。

 オレの腕を診察しながら、ふと遠い目をした学者先生は、暫く黙っていたが、「餞別をやろう」って言ってくれた。

 そいつがどんな物かと思ったら、厳重に鍵の掛かった金庫から、先生が取り出した物は、ゾンビ野郎の手首から先だったのよ。

 驚いて目を剥いたオレに向かって、学者先生が言ったのは、聞いたことも無ぇ話だった。

 一ヶ月ほど前、松前湾の沖で警戒監視してた漁船の網に、一匹のゾンビ野郎が引っ掛かった。

 そのゾンビは、船の上で暴れる前に、漁船の船長が散弾銃で素早く頭を吹っ飛ばしたんだが、見慣れねぇゾンビだったんで、ZDF(ゾンビ防衛部隊)に引き渡された。

 …その腐れ野郎、…体は人間なんだが、両手の他に背中から、もう一本「腕」が生えてたんだとよ。

 それで判ったんだ…。ゾンビってのは、頭を吹っ飛ばされると、動けなくはなるが、細胞は死なねぇってことがよ。

 破片が他のゾンビ野郎にくっ付けば、そっちに寄生するし、神経が繋がれば、筋肉を動かすことも出来るみてぇだ。

 学者先生は、オレの腕もそんな風になっちまってるから、「食い千切られて、無くなっちまった左手の小指を再生してやる」って言い出したのよ。

 ゾンビの指なんて、気味が悪かったんだが、熱心に勧める先生の話を、無下に断る訳にも行かねぇし、オレの腕だって、同じようなモンだから、恐る恐る左手を差し出した。

 先生は、メスで切り落とした標本の小指を、オレの小指の第二関節に押し付けると、糸で縫うなんて難しいことなんかしやしねぇ。

 「暫く押さえていれば、三時間ぐらいでくっ付く」って、真面目な顔して言い放ったから、開いた口が塞がらねぇ…。

 「流石にそれじゃ不便だろう」って包帯で保護してくれたが、「明日になったら、動くかどうか、経過を報告してくれ」って言ったのよ。

 …先生はホントに偉い人なんだが、…研究熱心過ぎるのが『玉に瑕』なのよ…。

 それからオレは、電車と地下鉄を乗り継いで真駒内に向かったぜ。

 物が無ぇ時代ってのは、辛いモンだ…。

 石油が輸入出来ねぇから、道路を走る車の数も減っちまって、空気が綺麗になったのは良いが、どこに行くのも、てめぇの足しか頼りにならねぇ…。

 指定された集合場所ってのは、真駒内の旧自衛隊基地なんだ。

 ゾンビ騒動からこっち、自衛隊の戦力が再編されて、陸、海、空軍は縮小、ゾンビ対策部隊って、新しい統合軍が出来たから、今じゃ真駒内はその司令部よ。

 ZDFの記章を付けた憲兵は、オレが自分の名前を言うと、先に立って敷地内を案内してくれた。

 雪解け水で濡れた敷地の道路には、トラック車両が行き来してたから、燃料だって有るところには有るんだろう。

 …案内された建物にゃ、七、八人の人相の悪そうな男が集まっていやがった。

 オレは、ガン付けてくる、そいつ等の間を割って歩くと、空いてる椅子に構わず腰を下ろしたのよ。

 タバコを出して、一服点けようと思ったら、隣のメガネ野郎が、話しかけて来やがったぜ。

 「オヤジ、…元気かよ」って呟く、そいつの顔をよく見たら、中島「メガネ猿」の野郎じゃねぇか。

 中島のアホは、「ZDFを退官して、ベンチャー企業を立ち上げた」って言ってたが、どこまでがホントだか判りゃしねぇ。

 「女の尻でも追いかけてて、部隊を放り出されたんだろう」って言ってやったら、渋い顔しやがったから、案外そうかも知れねぇな。

 そんな中島の野郎とタバコを吸いながら暫く待ってると、伊東って例の黒づくめが、アメちゃんらしい外国人を引き連れて、部屋ん中に入ってきた。

 奴は単刀直入に「今回のサルベージは、公式には日本国政府と無関係だ」って言いやがる。

 どうやら米軍に関係する仕事らしい…。

 簡単に言えば、横田の基地まで行って、アメちゃんが指示する(ぶつ)を取り戻してくるんだが、ゾンビ野郎の他に、チョッとした邪魔が入るかも知れねぇんだと…。

 そう、南の国のバカ野郎どもだよ。


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