第7章1
オレは、止まっちまったエレベーターから脱出しようと、三上の尻を押し上げながら、鉄骨の壁を這い上がったんだ。
先に昇って行った中島のアホに引き上げられて、三上の野郎はポッカリと口を開ける、地上部の床に辿り着いた。
次はオレの番よ。
コンクリートの床面に指を掛け、こっちの体を押し上げようとした瞬間、何かが右足に噛み付きやがった。
…いや、ゾンビ野郎に噛まれた訳じゃねぇ。
自動小銃の高速弾が、右大腿の外側を、突き抜けて行きやがったのよ。
衝撃で危うく手を放しかけちまったが、ここで落ちたら一巻の終わりだろ。
焼けた鉄杭を差し込まれたみてぇにジンジンして、何だか怪しくなっちまった右足を騙しながら、オレは這々の体で地上に逃げ延びたのよ。
迷彩服の右足が鮮血に染まるのを見て、三上の野郎は心配げに声を掛けてくれたが、今の状況じゃ、こっちの足よりロン毛野郎の方が気にかかる。
オレは傷口を押さえて転がりながら、二人に向かって「桐山の野郎を援護しろ」って怒鳴ったぜ。
畜生!。小銃弾が盲貫した右足は、包丁の刃を差し込まれたみてぇに痛みやがる。
三上や中島メガネ猿が連射するアサルトライフルの発射音さえ、傷口に響きやがる。
…それに、大腿の血管が潰れたのか、何時まで経っても出血が止まらねぇ。
そんな傷口を押さえていると、床面にでかい口開けるエレベーター穴からロン毛野郎が顔出した。
桐山は「逃げるぜ、オヤジさん」って言いやがったが、オレの状況を見ると、すぐさま肩を差し出して「手当てしてられねぇから、少し我慢しててくれ」って、ほざきやがる。
「構わず置いていけ」って口から出かかったんだが、オレの肩を担いだロン毛は、C国製の自動小銃片手に、建物の扉らしき所へ突進していったのよ。
…奴に引っ張られたオレは、足の痛みに気を失いそうになりながらも、白木の日本刀の鞘を杖がわりに、何とか扉に向かった。
建物の外じゃ、激しい銃撃音を聞いて集まってきた、腐れ野郎の呻き声が響いてる。
「前門の虎、後門の狼」とは、こういうことを言うんだろうが「窮鼠猫を噛む」って諺だってあるんだぜ。
…桐山の野郎は、鉄製の扉に付けられた磨りガラスの窓を、自動小銃の台座でブチ割ると、建物の外のゾンビ野郎を狙い撃ち始めやがった。
奴は、射撃しながら中島のアホに向かって、バックパックに詰め込まれてるはずの予備の手榴弾を取り出すように命令したのよ。
…中島メガネ猿が桐山のバックを探っている間は、三上が貨物エレベーターの非常用階段を見張りながら後方を警戒していたぜ。
グズグズしてたら、腹黒伊東や日本人民国の軍人がやって来て、こっちが血祭りにされちまうだろうが、足の出血と痛みで、頭がぼっとなっちまったオレにゃ、歯痒いかな何にも出来やしねぇんだ…。
それでも、メガネ猿が取り出した二発の破片型手榴弾は、地下の奴等が顔を見せねぇうちに、何とか桐山の手に渡された。
受け取った手榴弾を右手で一掴みしたロン毛野郎が、安全ピンを引き抜いて割れた窓から別々の方向に放り投る。
…爆発までの時間が、やけに長く感じたが、実際はほんの四、五秒だったろう。
コンクリの壁に寄りかかったオレには、爆音と同時に腐れ野郎の吹き飛ばされた破片が、建物の外壁にブチ当たるのが判ったぜ。
ロン毛野郎は、まるで戦闘マシンみぇに機敏な動きをしてやがる。オレの肩に手を掛けると、メガネ猿や三上の野郎に合図を送りながら、次の瞬間、鉄製のドアを蹴り開けた。
…飛び出した先は、夕暮れ迫る倉庫みてぇな建物の敷地の中よ。
腐れ野郎の破片が飛び散る目の前にゃ、死にきれてねぇバラバラソンビと、ボロボロの服を纏った死人どもが待ちかまえていやがったぜ。
一瞬躊躇したが、オレ達が後にしてきた建物の中から、派手な銃声が響いてきたから、足を止めてもいられねぇ。
鉄の扉に当たった銃弾が、派手な火花をあげ始める前に、オレはロン毛の兄ちゃんに引き摺られて走り出した。
C国製の自動小銃を腰だめでぶっ放す、桐山の野郎が見ている先は、外に通じる敷地の門だが、ゾンビ集団の向こう側じゃ、そう簡単には行けねぇぜ。
それでも、奴の正確な射撃と、中島メガネ猿の『まぐれ当たり』は、どうにか死人の壁を突き崩したのよ…。




