第6章3
…ミサイルの台車を取り囲むように、歩調を合わせて歩いてる南の国の兵隊どもは、オレ達の行動に注意を払っちゃいるが何となく疲れた足取りだ。
口だけ元気に動かしちゃいるが、奴等の装備や服装にも薄汚れたシミや、裂けそうな綻びが無数に付いていたから、オレ達と同じような目にあって、ここまで辿り着いたんだろうよ。
…台車の前の方、…操舵輪を操作する赤鼻の人民服男の隣には、オレ達の物だった武器やバックパックが乗せてある。
たぶん、奴等は予備の武器に使うつもりなんだろうが、隙を見て、そいつを奪うのは、どう考えても無理ってモンだ。
…そのうち人民服のキツネ目に何か命令されたらしい、お付きの兵隊二人組が、隔壁扉を操作しながらどんどん先に進んで行っちまった。
人数は減ったが、相変わらず監視の目だけは厳しいから、勝手なことは出来ねぇのよ。
…ブツブツと愚痴を言う中島のアホの呟きが、台車の軋み音に交差して念仏みてぇに聞こえたぜ。
幾つかの隔壁扉を通過すると、エレベーター室らしい突き当たりの部屋に辿り着いた。先に到着した兵隊野郎の二人組は、壁の操作盤のスイッチを押して、何かを動かしていやがる。
操作盤のモニター画面に写った風景を見ると、どうやら上の建物らしいコンクリの壁やフェンスが写ってる。
自家発電の電力で格納庫の動力が復帰したから、エレベーターや監視装置が使えるみてぇだぜ。
白黒のモニター画面じゃ良く判らねぇけど、薄っ暗くなった建物の周りに何匹かのゾンビ野郎が彷徨いてる…。
基地の設備に詳しいスミスが、操作盤に近寄ってスイッチやレバーを弄くるとモニターの映像が切り替わった。
監視カメラの映像に映っているのは、どうやら出入り口になってる建物らしく、その外見は倉庫みてぇな構造だ。
建物の中の映像も写ったが、倉庫の中までは死人野郎も入り込んじゃいねぇらしい。
画面の隅っこに、ユニッククレーン装置付きトラックが見えたのはその時よ…。
横須賀に上陸した時乗って来たオレ達のトラックと同じ様に、窓ガラスは金網鉄筋で覆われて、ご丁寧に前の方にゃ、ブルドーザーの排土板みてぇな物まで付いてやがる。
あれが、ゾンビを掻き分け押し進む、南の奴等の乗り物なら、オレ達が乗る座席までは用意されて無ぇだろう。
多分、腹黒伊東のことだから、あのトラックにミサイルを無事に積み込むまでは、生かしておいてくれるだろうが…。
そっから先は、後ろから撃ち殺されるか、ゾンビの群れに放り出されるのが関の山だろ。
それでオレは、キーキーと耳障りな音立てながら降りてくる貨物用エレベーターを待つ間、小声でロン毛野郎に話しかけたのよ。
「逃げ出す算段は無ぇか?」ってよ。
桐山の奴も、流石に良い手は思いつかねぇみてぇで、首を横に振りながらも、オレの肩越しにランボーの後ろ姿を見てやがる。
抜け目のねぇロン毛野郎のことだから、オレ達の会話を盗み聞きしてたんだろうが、死を覚悟した平岡の捨て身攻撃だけが頼りってのも、何だか悲しいじゃねぇか。
…そのうち、軋み音立てるエレベーターが、空から舞い降りる死に神みてぇに、俺たちの前に停止した。
留置場の鉄門に似た鉄のゲートが開かれて、人民服姿のC国野郎が訛った日本語で「押せ」って命令しやがる。
…それでオレ達はまた、台車のミサイルを押し始めたんだが、こっちのエレベーターのサイズが小さいのか、台車を納めると人は全員乗りきらねぇ。
…無線で何処かと連絡を取るらしい南の国の指揮官と、裏切り者の伊東のクソ野郎は、エレベーターを操作する兵士と一緒に操作盤の側に残ったのよ。
オレ達奴隷代わりの連中は、ライフル銃持った四人の兵士に睨まれならが、葉巻加えて鼻歌を歌ってるスミスの野郎と一緒にエレベーターに乗り込んだ。
手動のゲートが閉じられて、上昇を始めたエレベーターの中じゃ、移動できるスペースも無ぇ。
ふと横を見ると、ゾンビ症候群に冒された平岡は、息苦しいのか呼吸を荒げてやがる。
台車の上でミサイルを取り囲むようにしながら、オレ達を監視してる日本人民国の兵士達は、油断の素振りも見せねぇぜ。
…そんな一瞬。
何かの加減で、エレベーターが、ブルッと身震いするように停止した。
倉庫内の電灯も瞬くように点滅したから、多分発電機か電源系統が調子悪くて作動電圧が落ちたんだろう。
ランボーは、その隙を見逃さなかった。




