第5章5
三上の野郎が、怪我した足を引き摺りながら、オレを抜いて平岡に追い付いた。
奴は、低い声で平岡に話しかけてたが、返事をしねぇランボーはどんどん先に行っちまう。
マグライトが照らすトンネルの床は、薄すら埃が溜まってて、先を行く平岡の靴跡だけが、くっきり写って見えた。
多分、あの騒動以来、このトンネルを行き来した奴は居ねぇだろう。
後方じゃ、アメリカ野郎のスミスが、英語で伊東に話しかけてやがる。
数十メートル進むと、カマボコ状のトンネルの先に隔壁扉が見えてきた。
トラックが通れそうな大扉は、人力じゃ開けられそうもねぇが、端の方に人間用の小せぇ鉄のドアが見えたのよ。
そこでまたまた、スミス先生の出番だぜ。先生は懐から取り出した、鍵か何かを差し込んでガチャガチャやってやがる。
錆び始めて動きの渋いレバーを回すと、重々しいドアが軋むように開いたが、ドアの先は同じようなトンネルが続いてる。
…だがよ。全く同じって訳じゃなかった。
…真っ暗闇の向こうから、唸るような低い声に合わせて、壁に反響する足音が響き渡って来るじゃねぇか。
オレは焦って、マグライトをトンネルの奥に向けたのよ。
平岡や、中島メガネ猿も手持ちのライトで、トンネルの先を照らし出した。
ライトが照らすその先に、白い顔した死人どもの、獲物を求める醜い顔が浮かび上がった。
…焦ったオレは、腰に構えたサブマシンガンを、狙いも付けずにぶっ放したぜ。
ランボーや、ロン毛の兄ちゃんは、オレより少しは落ち着いていやがる。
…リズミカルに発射される五・五六ミリフルメタルジャケット強化弾は、ソンビ野郎の体を貫通し暗闇の奥に吸い込まれた。
だけどよ、閉鎖されたトンネルの中で、フルオート射撃を始めたから、こっちの鼓膜も破けちまうくらい音が反響しちまって、「射撃中止」の伊東の声も聞こえねぇ。
オレは、スリーポイントバーストの小気味いい反動に慣れるつもりで、腐れ野郎がぶっ倒れた辺りを狙って、構わず引き金を引き続けた。
…カシャカシャカシャ…って、機関部の作動音しかしねぇから、そこで始めてオレの持ってるサブマシンガンが、消音器付きだって気が付いたっけ。
腹黒伊東の怒鳴り声で射撃を中止したオレは、マグライトをゾンビ野郎が倒れた辺りに向けたのよ。
鉛の弾を何十発も食らったろうに、腐った奴等は動きを止めねぇ。
…流石に立ち上がるまでの力は有りはしねぇが、呻き声を上げながら蠢くようにコンクリートの床を這い擦って来やがる。
だからよ…、M16を構えた中島メガネ猿と、ロン毛の兄ちゃんが、そいつ等の額を狙い撃ちして、確実に息の根を止めてやったのさ。
それから暫くオレ達は、真っ暗闇のトンネルの奥を警戒してたんだ。
物音は何も聞こえて来なかったから、それで「安全」と判断した伊東の野郎が、またまた「前進」の指示を出したのよ。
ゾンビ野郎の残骸の脇を通り過ぎ、暗闇の中を進んでいくと次の隔壁扉が見えてきた。
人間用の、小せぇ鉄の扉は開けっぱなしだったから、地下に閉じこめられたゾンビ野郎は、オレ達が邪魔するまで、ここでひっそりと暮らしてたんだろうぜ。
…そんなトンネルの中を警戒しながら進んでくランボー平岡は、あれ以来、黙りこくってちっとも口を開かねぇ。
三上の奴が気を遣って、しきりに話しかけてるが、前方の暗闇を睨みつけるように見開いた、野郎の眼には何も写っちゃいねぇんだ。
そんな平岡を見たオレは、ランボーの背中に、怒鳴ってやったのよ。
「ダチが心配してるんだから、返事ぐらいしてやれ」ってよ…。
いつ何時、ゾンビ症候群を、発症するかも知れねぇって恐怖心は、オレにだって少しは判るが、意識があるうちは人間らしくしようじゃねぇか。
オレの言葉に平岡も、少しは落ち着きを取り戻して、三上の話しかけにポツリポツリと返事を始めたのよ。
三上と平岡は、自衛隊時代からの仲間らしい…。
幼稚園バスで行っちまった城戸崎の野郎と三人して「ZDF」や民間の、アブねぇ仕事をキッチリこなしてきたらしいが、今度ばかりは巧く行かねぇ。
…オレ達ゃ、命知らずの「半端者」だが…、だからこそ仲間意識だけは強いのさ。
真っ暗なトンネルに、三上の野郎の低い声と、ハンパ者達の足音だけが、木霊みてぇに響いてた。




