第5章1
オレ達は、アメちゃんの相模原補給廠で、必要な物を手に入れたんだが、そこで新しいお客さんまで拾って来ちまった。
オレと三上の二人分しか座席がねぇ軍用トラックの運転席に、無理やり乗り込んできたロン毛野郎は、運転席と助手席の間にある荷物台に、ちゃっかり座り込んでいやがるぜ。
六輪駆動トラックのハンドルを国道16号線に向けながら、オレはヒゲ面ロン毛男の素性を聞いたのよ。
泥まみれの顔したその野郎は、北海道に逃げ延びた町田の宝石店主に唆されて、ブツの回収目的にノコノコやって来たサルベージの一人らしい。
桐山って名乗ったそいつは、七日ほど前にゾンビの国に来たらしいが、仲間の三人はゾンビ野郎に食われちまったり逸れたりで、たった一人で必死に逃げ回っていたんだと…。
…ゾンビ野郎の国で、一週間も生き存えたんなら、若けぇが大した野郎だ。
…サルベージの仲間が死んじまって、町田の宝石店からの回収が無理だと判ると、めぼしい物を物色しながら、脱出の準備をするつもりで相模原に来たらしい。
その野郎、…銃器の扱いに慣れてるから、自衛隊崩れかと思って、元の職業を聞いたんだ。…「ドラッグストアの店員だ」って言うじゃねぇか。
…ふざけた野郎だが、この状況じゃ人手は足りねぇから、助けてやった分は働いて貰うぜ。
そんなロン毛男は、オレ達の行く先を気にしてる。…細かいことは伝えなかったが、オレ達は「アメちゃんの横田基地まで行かなきゃならねぇ」ってことだけは教えてやった。
三上の奴が、トラックの荷台の平岡に無線で情報交換してる。アホの中島やスミス達は、武器保管庫から手当たり次第に、使えそうな物を掻っ払って来たらしい。
荷台からの手渡しで、オレもMPっていうサブマシンガンを渡されたから、三上に渡したショットガンの代わりに、そいつを首から下げたのよ。
ついでにオレは、さっきゾンビ野郎を撲ちのめした、左の掌を確認したのよ。…どうも動きが怪しいと思ったら、学者先生に餞別で貰った小指が無くなっちまって、人差し指と中指は明後日の方向を向いてやがる。
オレは、他の奴らに気付かれねぇように、軍用トラックを転がしながら、左手の軍手を新しいのと変えたのよ。
学者先生の話じゃゾンビの指は、折れたって二、三時間でくっ付いちまうらしいから、曲がった指を元の位置に戻るように押さえながら、そっと軍手に押し込んだ。
そんなこんなで、補給廠の倉庫街でもたついている間に、とっくに昼は過ぎちまった。
腹の虫が鳴ってきたオレは、三上の野郎に何か食い物を出して貰うように頼んだのよ。
そんなオレに桐山ってロン毛が、自分のバックパックからクラッカーを取り出して渡してくれた。
奴は相模原の補給廠から「自分用」の武器や食料を、沢山掻っ払って来たらしい。
桐山から渡された味気の無ぇクラッカーを頬張りながら、オレは軍用トラックで国道十六号線を驀進したのよ。
…たぶん城戸崎の奴の仕業だろう。トラックが進むその先にはゾンビ野郎の轢死体がゴロゴロ転がってやがる。
なにしろ腐れ野郎は、恐怖ってモノを知らねぇから、仲間のバラバラ死体を見たってお構いなし。動く車両を見つけると、群がるように襲って来る。
ボロを纏ったゾンビ野郎は、無人の街を突き進むトラックに、しつこく突進して来やがる。
オレは、アクセルを踏む右足に力を込めて、幽霊みてぇな死人野郎を振り切ると、八王子バイパスにトラックを進めたぜ。
窓から見える風景は、昔とそれほど変わっちゃいなかったが、日野の市街地だけは、火事でも有ったのか、焼け落ちた木造家屋と煤けて変色したビルが立ち並んでた。
そんな閑散とした街中に響き渡るのは、オレ達が乗るトラックのジーゼル音か、カラスの鳴き声ぐらいしか有りゃしねぇからオレ達の注目度は抜群よ。
…お陰で、アイドルタレントの気持ちが、良く判ったぜ。
ロングヘアーにアゴ髭の桐山の話じゃ、ゾンビは元の人間より耳や鼻が良くなってるから、よっぽど気を付けてねぇと、すぐに見つかっちまうらしい。
ロン毛の兄ちゃんは、人間の臭いを消すために、体に泥を塗ったりしながら、市街地を逃げ回ってたって言ってる。
そんな桐山は、オレ達の行く先を気にしてたが、死人の国ならどこに行っても安心できる所は無ぇ。
まぁ、こっちの仲間が多ければ、それだけ生き残る確率も高くなるってモンだ…。
…ゾンビの追撃を受けながら、多摩川を渡ったオレ達は、一時間ほど掛かって、何とか横田に辿り着いた。
死人の群れに追われながら、正面ゲートを突っ切ったトラックは、横田基地の南区画に突入した。
白壁のビルや建物が、外国に来たみてぇに錯覚しちまったが、ゾンビ野郎は日本人でもアメちゃんでも、違いは無ぇのよ。




