第4章4
ゾンビは、バスを追いかけてくるしか能が無ぇから、「誰かが犠牲になって、なるたけ沢山の腐れ野郎を施設の外まで誘導しろ」ってことらしい。
悪い手じゃねぇが、運転する奴は下手すりゃ帰っちゃ来られねぇだろ。
誰だって、行ききりの片道切符は嫌だぜ。…そこん所が重要なのよ。
そんな話してたら、苦痛の表情を浮かべる城戸崎が、低い声で「…俺がやる」って呟いた。
遠い目をした城戸崎は、悟ったような表情を浮かべてやがる。…そんな顔をルームミラー越しに見たオレは、手榴弾抱えた武藤の旦那が、ゾンビ野郎に向かって行ったのを思い出しちまったのよ。
ランボー平岡は、ノッポの城戸崎に思い留まらせようと、しきりに話しかけてたが、一度覚悟した人間は簡単に考えを変えねぇぜ。
城戸崎の奴は、額に汗を浮かべながら、運転席に寄ってきた。
「…オヤジさん。…後は任せてくれ」って言いながら、ハンドルに手を掛けやがった。小さく頷いたオレは席を代わりながら「逃げ延びろよ…」って声を掛けたのよ。
奴は、笑みを浮かべながら頷いたが、ハンドル持つ手は振るえてた。
淵野辺側の第二ゲートから相模原の基地に入り込んだ俺達は、面積が二百ヘクタール近くもある敷地の中を逃げ回った。
スミス先生も、この補給廠にゃ来たこと無ぇらしく、どっちの方向に進んだら良いかは、アルファベットの看板だけが頼りらしい。
広々とした敷地には、スーパーマーケットから消防署まで揃ってやがる。
そんな建物から、アメちゃん顔した腐れ野郎が、ワラワラ飛び出して来やがって、バスを脱出する隙も無ぇのよ。
外国の街並みみてぇな通りを、グルグル走っているうちに、ゾンビ野郎を後ろに従えた幼稚園バスは車両置き場を通り過ぎた。
そこらは、整備工場らしい建物が並んで、その間にゃ、スクラップが置いてあるから、巧く隠れりゃゾンビ野郎をやり過ごせるかも知れねぇ。
伊東の奴も同じこと考えてたみてぇで、「ゾンビを引き離してから、整備工場に逃げ込む」って言ったのよ。
それで、腹黒伊東から指示を受けた城戸崎が、ソンビ野郎に飽きられねぇ程度のスピードでバスを走らせ、さっきの工場エリアに戻って行ったんだ。
車両基地の手前でスピードを上げたマイクロバスは、ゾンビ野郎を引き離しながら工場の角を曲がった。
伊東の先導でバッテリー持った中島や、アメリカ野郎が順に飛び降りた。
マシンガン担いだ平岡は運転席のノッポ野郎に、何か話しかけてたが、ゆっくり別れを惜しんでる場合じゃ無ぇ。
「…遅れるな!」って声かけたオレは、二十四ボルトを小脇に抱え、ついでに三上の奴に肩を貸して、バスのドアから飛び降りたのよ。
必死の思いで走り込んだ先は、スクラップトラックの陰だったが、赤さびのボディパーツが堆く積まれてたから、ちょっとやそっとじゃ気づかれねぇ。
ランボー野郎が、スクラップの陰に走り込むのと、ほとんど同時に、腐れ野郎の団体が角を曲がってやって来た。
ボロボロの服を纏った幽霊みてぇなゾンビどもは、呻き声を上げならが幼稚園バスを追いかけて、スクラップの前を通り過ぎる。
バスのクラクションを鳴らしたり蛇行運転させながら、城戸崎が注意を引きつけてくれてたから、ゾンビの奴等はオレ達に気付かずに通りの向こうへ行っちまった。
…遠くで聞こえるクラクションの音が、「達者でな」って叫んでるみてぇに聞こえたぜ。
それで一息ついたオレ達は、用心しながら工場のシャッターを潜ったのよ。
ごっついボディの「ハマー」とか言うジープや、何を積むんだか判らねぇ、巨大なタンクローリーの向こう側に、軍隊仕様の五トントラックが見えた。
そのトラックにゃ、荷積み用のクレーンは付いちゃいなかったが、フロントバンパーにウインチが装着されてたから、いざとなりゃぁ、そいつを使って物を乗っけられそうよ。
それで、オレ達は、抜き足差し足で、トラックに近づいた。腐れ野郎がどこから現れるか判らねぇから、日本刀持つ右手が震えたぜ。
オレ達が目を付けた五トンの軍用トラックは、埃を被って止まってたが、見た目はどこも壊れちゃいねぇ。
…でもよ、どこかがイカレてて、バッテリーを繋いだは良いが、エンジンが目を覚まさなきゃ、オレ達もここでお終いだろ。
だからオレは、音を立てねぇように車体の状況を確認したのよ。




