第4章3
ノッポとランボーは、昔からの仲間らしい。
噛まれた城戸崎を抱えながら、平岡の奴が焦ったように怒鳴りまくってる。
「脱出用のヘリを呼べ」って言ってるんだ。
…ランボー平岡は、園児用の小さなシートに座り込んだ伊東に、突っかかって行きやがった。
…だけどよ。…伊東の野郎、落ち着いた声で、呟くように話すのよ。
「噛まれたら、お仕舞いなんだ」ってよ…。
大男の平岡も、それを聞いたら何も出来やしねぇ。真っ赤な顔しながら握り拳を子供用のシートに叩き付けると、城戸崎の側に戻って行った。
…学者先生の薬でも有れば、オレみてぇに少しは長生き出来るんだが、未完成の上に門外不出だから、治療してやろうにも無理な話だろう。
平岡と三上の野郎が二人して、ノッポの奴に包帯を巻いてやってるが、中島は「包帯だけじゃ無ぇ、そのうちロープが必要になるな」って、小声でオレに言いやがった。
メガネザルの横面を、張り倒してやりながら、オレはバスを西の方に向けたのよ。
…この状況じゃ、どう考えたって相模原の補給廠に行くしかねぇだろう。
こっちの地理に詳しい伊東が、小声で進路を指示するから、取りあえずは奴の言うとおりに進んだんだが、どうにも虫の好かねぇ野郎よ。
中島みてぇに、何も考えねぇ馬鹿なら扱いやすいが、伊東の黒いジャンプスーツの中は、腹まで真っ黒かも知れねぇな。
そんな腹黒野郎のコース指示に沿って、八王子街道から国道十六号に乗り入れた。
市街地だから死人も何匹か居やがって、バスの音を聞いたゾンビ野郎が、体当たりの単独特攻を仕掛けてくる。
…奴等、「恐怖」ってものを知らねぇから、正面からバスに向かって来やがるぜ。
衝撃で、バスのフロント部はベコベコの状態だし、ゾンビ野郎の破片がウインドウスクリーンまで飛び散って、ワイパーでも動かさなきゃ前も見えやしねぇのよ。
オレ達が乗ってるのが、エンジンの止まりそうな幼稚園バスだから、奴等の団体さんが居なかっただけ、めっけモンだったけどな…。
…死人の体当たり攻撃を受けながら、オレ達が進んで行く国道十六号は、あの騒動の後も何台かの車が通ってるらしい。
放置車両の間に、どうにかバスが進めるぐらいな道筋が出来てるぜ。
そいつは恐らく、サルベージ目当てのヤクザ野郎の仕業だろうが、潜水艦の一件以来、音沙汰のねぇ「南の国」の奴等だって、同じこと考えてるから下手すりゃどっかで待ち伏せ食らう…。
そんな心配しながら国道を走る幼稚園バスじゃ、さっきの騒動で険悪なムード「プラス」お通夜の帰り道状態になっちまった。
オレは気分転換のつもりで、カセットデッキにセットされてたテープのスイッチを入れたのよ。
何だか、調子はずれなアニメの歌が鳴り響いて、他の奴等は迷惑そうだが、オレは懐かしくってホッとした。
…「プリプリの何とか」って言うアニメは、江別の仮設住宅で一緒に住んでた娘っ子の、お気に入りの歌だから、思い出しちまったって訳よ。
伊東の野郎は、すげぇ目つきして、こっちを睨んでやがるが、オレは「景気付けだぜ」って怒鳴り返してやった。
…そんなこんなで、アニメソングが流れる幼稚園バスは、国道十六号を北に向かって進んでいった。
ラッキーなことに障害物は少なかったから、三十分足らずで相模原に着いちまった。
チラッと腕時計を見ると、丁度弁当の時間だが、バックパックの中にゃ宇宙食みてぇなモンしか入っちゃいねぇし、ゾンビ野郎がランチの邪魔するだろうから、ゆっくり食ってる暇も無ぇだろ。
伊東の通訳で、アメちゃん野郎が指示する道を進んで行くと、基地のゲートが見えてきた。
どうやら米軍の相模原補給廠らしいが、建物の向こうにゃゾンビ野郎がチラホラ見え隠れしてる。
バスの後ろを振り返ると、何匹かの死人が「金魚のうんこ」よろしく、くっ付いて来てやがる。
幸い、基地のチェックゲートの横バーは、上がったまんまだから、構わずオレは幼稚園バスを敷地内に突っ込ませた。
…スミスの指示で、倉庫や管理棟が並ぶメインストリートを進んで行った。
奴も中の状況は、それほど詳しくねぇらしい。適当な方向を指してやがる。
バスの騒音に喜び勇んで、迷彩服やオリーブグリーンの作業服着たアメちゃんゾンビが、建物の影から飛び出して来やがった。
オレは「…どうするよ?」って伊東に聞いたのよ。
不適な面構えの腹黒野郎は「マイクロバスを囮に使えば、ゾンビを排除することは可能だろ」って答えやがる。




