第3章5
整備工場の裏側に回り込んだオレ達は、恐る恐る周りを確認した。
見える範囲に、腐れ野郎の姿は無ぇが、伊東の奴は「確実に三匹は居る」って言ってたから、多分、建物の中をフラフラしてやがるんだろう。
銃声を響かせると、あっちこっちから奴等の仲間が集まって来やがるから、なるたけ静かに殺らなきゃならねぇ。
オレは、日本刀を引き抜くと、「合図するまで手出しするな」って二人に釘を刺してから、シャッターが開いた整備工場の中を覗き込んだ。
…繋ぎの服着た二匹のゾンビ野郎が、でっかい油圧ジャッキの向こう側、コンプレッサーの前の辺りをフラフラしてやがる。
そのうち、気配を察したらしい、一匹がこっちを振り向きやがった。
そいつと目が合う前にオレは、ジャッキの台に足を掛けながら、最短距離をジャンプした。
唸り声をあげた死人どもは、オレに掴み掛かろうとしたんだが、左手に持った日本刀の一振りで、二匹のゾンビの首を、いっぺんに切り落としてやったぜ。
…言ったよな。…オレの左腕はゾンビになっちまってるって。
…細けぇ作業にゃ向かねぇが、パワーだけはゾンビ並みに有るから、片腕だけだって振り回せば凶器になるのよ。
オレは、転がったゾンビ野郎の体を足で押して逃げ道を確保しながら、更に建物の中を見回した。
次の瞬間、工場に併設された奥の事務室から、スカート履いたゾンビ女が飛び出して来やがった。
洋服はボロボロで、白いブラウスが真っ黒く変色しちまってたが、ここの受付嬢に違いねぇ。
そいつは、剥き出した歯をオレに向けながら、ほつれてボサボサの長い髪を振り乱して、突進して来やがったから、こっちも両手で握った刀を、思いっきり振り回してやったのよ…。
女の首が、「コツン」って良い音立てながら表の方に転がって、勢い余った体の方だけそっくりそのままオレの腕の中に飛び込んで来ちまった。
首の無ぇ死体とラブシーンなんか、やってる場合じゃ無ぇ。
ゾンビ女の体を振り解いて、床に「おねんね」させながら、オレは事務室の中を伺った。
散らかった室内にゃ、半年分の埃が溜まってたが、他に腐れ野郎は居ねぇらしい。
…オレの合図で、建物の影からメガネ猿とランボーが、走り寄ってきた。
派手な音は、立てなかったはずだが、暫くじっとしていて、敷地の外の様子を確認したぜ。
八王子街道の歩道を、フラフラと一匹のゾンビ野郎が歩いて行ったが、工場の方は見向きもしねぇ。
どうやら大丈夫と見た平岡が、無線使ってこっちの状況を説明すると、伊東は抑えた声で、「動かせそうな車を掻っ払って来い」って命令しやがる。
偉いさんは、いい気なもんだぜ…。
仕方がねぇ。オレはランボー平岡に門の方を見張ってて貰いながら、中島と二人してバッテリーや工具や何やかや、使えそうな物を探したのよ。
丁度、事務室の反対側に倉庫が有って、車体のパーツがストックされてた。
万一に備えて、日本刀を手にしたオレは、用心しながら倉庫の棚を探ったのよ。
二十四ボルトのでっかいバッテリーが、段ボールの箱に入ったまま幾つか見つかったからオレもホッとしたぜ。
中島の奴に指示して、有るだけ全部を表に持ち出させたんだが、奴は「こんなに沢山どうするんだ?」って聞きやがる。
考えても見ろ、馬鹿野郎。
サルベージして来る「物」ってのは、十トンのユニッククレーン付きトラックで、運ばなきゃならねぇほどの大物だぜ。
ここから脱出する車両はいいとしても、どっかで別の大型車を手に入れなきゃならねぇだろ。
そいつのバッテリーが生きてるとは限らねぇから、予備は多い方が良いに決まってる。
…バッテリーを抱えて、ブツクサ言ってる中島に続いて、倉庫を出ようとしたオレは、ついでに工具の棚から、ブースターケーブルと大きめのマイナスドライバーを拝借した。
何に使うかは、言わなくったって判るだろう。
バスのステアリングロックをぶっ壊して、キーをオンにしてから新品のバッテリーを繋いでやるのよ。
燃料の軽油が腐ってなけりゃ、エンジンは始動するだろうが、暫く動かしてねぇから、「セル一発」って訳には行かねぇな。
…ゾンビ野郎が全員集合するまでに、心地良いジーゼル音を響かせてくれりゃぁ、「恩」の字なんだがよ。
文書中で、オヤジは「平岡」の別名を「ランボー」と呼んでいます。
マッチョな見た目から、オヤジが付けたアダ名ですが、著作権上「ランボー」という名称を使用することが不味いのであれば、書き直したいと思います。
ご意見があればメッセージ等をお寄せください。




