第3章1
下川井のインターに続く陸橋に、何十匹かのゾンビ野郎と一緒に見えたのは、小山のような巨体の「象」だったのよ。
…たしか、学者先生は言ってたなぁ。「大型のほ乳類なら、どんな奴でもゾンビになる」って…。
…どこの動物園から逃げ出したか知らねぇが、元は草食いで大人しい生き物なんだろう。
「人食い象」ってのは聞いたことも有りゃしねぇし、あんな奴に体当たりされたら、このトラックだって敵わねぇだろ。
それでオレは、泡食って急ブレーキを掛けたのさ。
ダッダッダッと自動小銃の乱射音が鳴り響く。ゾンビ軍団に気が付いたらしい中島達が、荷台の上から一斉射撃を始めたのよ。
M16の一連射で、ボロボロの服着た死人野郎を、アスファルトの路面に、叩き伏せることには成功したんだがゾンビ象は倒れねぇ。
…皮膚の厚い象さんにゃ、五・五六ミリでも役不足ってことか?。
そのうえ、急所に当たらなかったのか、一度倒したゾンビ野郎も、のそりと立ち上がって来やがった。
…千切れた腕を置き去りに、ゾンビの野郎がこっちに向かってくるから、赤ら顔のアメちゃんが青い顔して叫んでる。
困ったことに、ゾンビ軍団の奴等は、二車線の道一杯に広がって、フラフラ向かって来やがるし、後ろにたっぷり四、五十匹は控えてるから避けて通れる幅も無ぇ。
しょうがねぇから、バックで逃げようかと思ってクラッチを踏んだのよ。
…その時、突然、目の前で何かが爆発した!。
どうやら、ゾンビ軍団の中心にグレーネードランチャーが撃ち込まれたらしい。
三十メートルほど先で爆発した四十ミリ対人対装甲弾の威力はすげぇモンだぜ…。
激しい爆発音と爆風に、トラックのサスペンション付き運転席が、ブルブル振るえやがった。
ゾンビ野郎の破片が、握り潰されたクラッカーみてぇにバラバラになって、そこら中に降り注ぎ、アスファルトの道路中に、千切れた胴体や砕けた頭蓋骨の破片が、吹き飛ばされて転がってた。
爆発の衝撃で、巨体の象でさえ、尻餅つくように横倒しになったのよ…。
だけどよ…。巨象は、すぐに立ち直りやがって、ゾンビ野郎の破片を踏み付けながら、オレ達の方に向かって来やがる…。
…裂けた横腹から飛び出した内臓を引き摺りながら、長い鼻の腐れ野郎が生き残りのゾンビどもと一緒に歩調を合わせて、こっちに向かって来るじゃねぇか。
よく見たら、爆風で吹き飛んだ死人の群れまで、手や足の無ぇ体で芋虫みてぇに這い摺って来やがるから、ゾットして首筋の毛が逆立つのが判ったぜ。
でもよ、この状況じゃ、じっとしてる訳にもいかねぇだろ。
もう一発、四十ミリグレーネードを、お見舞いしてやれば、ゾンビ野郎の群れの間に「花道」が開くかも知れ無ぇ。
それでオレは、細く開けたサイドウインドウから「もう一発やれ!」って、後ろの奴等に怒鳴ったんだ。
けど…、助手席の伊東の野郎が、うわずった声で「射程が近すぎるから無理だ」って突っ込みやがった。
…撃った当人が怪我しねぇように、二十メートル以下の近距離じゃ、榴弾は爆発しねぇらしいのよ。
…そうは言っても、荷台の奴等だって馬鹿じゃねぇ。そこいら辺はプロだから、何が使えるか知ってやがる。
誰かが「手榴弾!」って、でっかい声で叫び声あげながらそいつを放り投げたんだ。
見覚えのある、小っちぇパイナップルが、放物線を描くように綺麗に飛んでくのが、フロントガラスに映ると同時に、オレは衝撃に備えてダッシュボードの下に潜り込んだ。
伊東の野郎もアメちゃんも、同じこと考えてやがったから、運転席の足下は、むさ苦しい男どもの「押しくら饅頭」状態だったぜ。
…けど、そんなに待ちはしねぇ。そのうち「ドカン」と来て、奴等の破片が降り注ぐ…。
…オレは、爆発の衝撃にタイミングを合わせて、ダッシュボードの下から飛び出すとトラックを発車させたのよ。
ゾンビ軍団の中心近くで爆発した一発の手榴弾は、五、六匹の死人を天国に送ってやることには成功したんだが、数で押してくる奴等には全然足らねぇ。
…それでも、ちっとは隙間が開いたから、そこを目掛けて、トラックを突っ込ませたのさ。
ロングボディのトラックだから、加速は歯痒い限りなんだが、オレは床が抜けるぐらいアクセルを踏みつけてた。
…やべぇ。象がこっちに気付きやがって、巨体を向けて来る。




