第2章4
オレは、支給品のタバコに火を点けて、深々と一服吸い込むと、緊張した神経を解きほぐした。
束の間の休息だったが、もしかしたら、森林浴が好きなゾンビも居るかも知れねぇから、左右の森と、正面に大きく口を開けたトンネルの入り口だけは、油断無く見張ってたぜ。
暫くして、荷台の様子を見た伊東の奴が、「発車しろ」って言ってきた。
オレは、ギヤを入れて走り出したんだが、トンネルの中で立ち往生したく無ぇから、スピード上げて突っ走らせたのよ。
暗闇の中にゃゾンビ野郎は居なかったみてぇで、すぐに出口が見えてきた。
…それから先、高速の壊れたフェンスの隙間や、コンクリートで補強された斜面の上から、たまにゾンビ野郎が、お出ましになりやがったが、一匹二匹なら、強化バンパーの敵じゃねぇ。
奴等の体を引き千切りながら、トラックは順調に北上して行った。
三人掛けシートの真ん中に座った伊東の奴は、どこかに無線で連絡を取ってたが、「南の潜水艦が東京湾に現れたから、対潜哨戒機を飛ばして追い払え」って怒鳴ってる。
…今頃行ったって、とっくの昔に逃げちまったろう。
奴は、「横須賀や川崎からの撤収は危険すぎるから、脱出の経路は、茨城の鹿島か大洗になる」って、吐き捨てるようにそう言ったっきり黙っちまった。
自動小銃を抱えたままのアメリカ野郎は、窓側の席に座ったまんま、一言も喋りはしねぇから、運転席は白けたムードよ。
こんな時は、陽気な音楽でも聞きてぇ所だけど、そりゃぁ無理ってモンだろう。
それで、オレは、トラックを転がしながら、前から気になってた、『アメちゃんの基地から掻っ払ってくる物』のことを考えたのよ。
政府とは無関係で、そのうえ南の国の奴等が気になって仕方がねぇ物だろうから、だいたい想像は付くんだぜ。
伊東の奴は言わねぇが、横田の基地からサルベージしてくる物ってのは、たぶんミサイルか何かだろう。
それも、広島や長崎に落っことされたのと同じ部類の強力な奴に違いねぇ。
…そんなモンを、何に使うかは知らねぇが、ゾンビの国に撃ち込むつもりなら、後々のことも考えなくっちゃならねぇぜ。
たしか、半年前のゾンビ騒動じゃ、ロシアやアメリカの奴等が死人を退治するために、てめぇの国に「何発か撃ち込んだ」って、ニュース番組で言ってたぜ…。
ゾンビ野郎は、住んでた街ごと吹っ飛んじまったが、放射能の汚染で人間様は近寄れねぇらしいじゃねぇか。
それに、爆発でチッとは数が減ったんだろうが、相手は生ける屍野郎だから被爆したって屁のカッパよ。
最近のニュースじゃ、核の灰を背負った奴等が周囲の街に攻め込んできて、放射能を撒き散らしてるから「ゾンビの通った後は、危なくって近寄れねぇ」って話だ。
オレは、横-横線から保土ヶ谷バイパスにトラックを進めながら、そこらのことを、伊東の野郎にカマ掛けて聞いてみた。
…渋い顔した、奴のツラ見りゃ、図星だってことが判ったぜ。
詳しいことは言わなかったが、まだ朝鮮半島に「人」が住んでたころ、向こうの独裁国家が核ミサイルの開発を始めたんだと…。
それで対抗上、アメリカ野郎も在日米軍の基地へ、密かに核ミサイルを配備したらしい。
そいつは、ゾンビ騒動で持ち出されることもなく、今だに基地の倉庫で眠ってる。
そんな危ねぇ物、わざわざ取りに行かなくったって良いだろうが、「南の『日本人民国』の奴等が、回収部隊を送り込む」って情報が伝わってきたから、政府のお偉方も、慌ててサルベージに取り掛かったって訳よ…。
だけど、このご時世でも日本に「核」が持ち込まれてたなんて、大っぴらに言えねぇらしいから、政府とは無関係のサルベージ隊が、そーっと取りに行くんだと。
そんな厄介なことは、当の「アメリカさん」に、やらせりゃいいだろうが、向こうもゾンビ騒動で忙しくって手が廻らねぇ。
どうしたって、オレ達みてぇなハンパ者が、危ねぇ橋を渡らなくちゃならねぇのよ。
馬鹿らしいとは思ったが、こっちも金で雇われた身の上だから、給料分は働くぜ。
そんなことを思いながら、保土ヶ谷バイパスの高架を走っていくと、下川井インターの陸橋の手前に妙なモンが見えてきた。
ゾンビの団体さんは、いつものことだから驚かねぇが、そいつを見たときは、流石のオレも、腰抜かすほどビックリしたぜ…。




