不死者の金策
ちょいグロあります
話は独立してるので飛ばしても影響ありませんのでご安心を
俺はとある町に来ていた。
この街は医療が発展しているらしい、人を生かすのが得意だというならその逆も得意なのだろう。
街は白い立方体の建物が整然と並んでおり、非常に区画の整理が進んでいた。
街に入るときの受付は機械化されており、いくつかの質問と既往歴のチェックをされた。
そして健康であることが確認されると街に入ることができた。
とりあえず俺は宿を探す。誰か道案内をしてくれる人はいないだろうか?
宿屋はすぐに見つかった、宿屋だけはほかの街と同じ様な形の建物だった。
宿屋に入ると宿屋の受付嬢が聞いてきた。
「やあ、お兄さん! あなたもうちで治療に来たのかい?」
「治療? 何のことだ?」
「ありゃ、この街のこと知らずに来たんだね、珍しい」
「ここにはそんなに病院が多いのか?」
「治療目的で来る人が多くってね。昔は市民と同じ保険適用料金で治療してたんだけどお金になるから市民用の病院とそれ以外があるんだ」
「この街で何か仕事はあるか? 路銀を稼ぎたいんだが」
そこで、うーんと言った顔で考え込む。
「いやあ、あんまり無いんだよねえ……医療って儲かるんだ。だからこぞって医療関係の仕事に就いてるからね。無資格の人ができるお仕事はあんまり無いんだ……ただ……」
「あんまり? 無いわけじゃないのか?」
受付嬢は渋い顔をして言う。
「あんまり大っぴらにやってるわけじゃないんだけどさ……売血とか臓器売買とかやってるんだよね……建前上善意の協力者ってことになってるけど……謝礼金は出てるんだよね。
まあこれからも旅を続けたいなら献血くらいにしといた方がいいけどね」
俺は少し考えた。
「最近必要とされてる臓器とかあるのか?」
受付嬢はびっくりしていた。
「やる気なの!? そりゃ腎臓とか肺とかなら結構なお金になるけど……」
「そういうことを言ってるんじゃない……一つしか内蔵機でも売れるのか?」
「いやいやいや!? そんなことしたら死んじゃうからね!?」
「できないのか? と訊いている」
「うーん。たまに末期の病気の人が無事な臓器を売りに来るけど……お兄さん健康だよね?」
「俺は心臓を取っても死なない」
受付嬢はあっけにとられていた。
「信じてくれなくてもいいが売れる場所を教えて欲しい」
「ああ、町の中央の建物で売れるよ……タダにしとくからさ、後でここに泊まってくれないかな、さすがに自殺同然の事を勧めたくはないからね」
「分かった、中央の病院だな」
俺はさっさと町の中央へと歩いていった。
どうせ再生するので俺にとっては心以外は再生可能な品である。
街の中央の白いキューブにたどり着いた。プライバシーのためだろうか窓はないようだ。
道からつながっているところの壁に一つボタンがあるのを見つけたので押してみる。
「お客様ですか? 保険証は買われてますか?」
「いや、ドナー希望だ」
「謝礼金等の説明は受けましたか?」
「ああ、大体聞いた」
「ではお入りください」
壁に縦筋が走ったかと思うとそこが開いていく、どうやら自動ドアのようだ。
病院内部では看護師がしっかりと案内をしてくれた。
臓器提供で謝礼金がもらえること、人工臓器に代替してもいいなら生命維持に必要な臓器も売れること、危険性等について聞いた。
「では提供可能な臓器にチェックを入れてください」
問診票のような紙が渡される。
体の絵が描いてあり臓器一つ一つにチェックボックスが描かれている。
俺は迷わずすべてにチェックを入れて渡す。
「え!? ええと、確かに人工臓器である程度は生命維持が可能ですけど……ほとんど全部じゃないですか!? 長生きどころか一週間すら怪しいですよここまでだと!」
看護師が驚愕しながら俺に聞く。
まあ死なないしな。
「かまわんからさっさとやってくれ」
「え、ええ。では準備しますので同意書にサインをしてください、まだ「今なら」引き返せますよ」
やめとけとでも言いたげな声である。驚きを隠そうともしていない。
俺はさらりとサインをして渡す。医師、看護師ともにポカンとした顔でこちらを眺めている。
その後俺は現在何か病気を持っていないか、常用している薬が無いか等の検査を経て手術室にいる。
「ではあなたの臓器は移植希望者に移植されます……」
医師からはもうどうにでもなれという投げやりさすら感じる。
それともこういう自殺志願者になれているのだろうか。
麻酔薬を嗅がされる。
普通なら即意識が落ちるのだろうが毒耐性のため意識ははっきりしている。
さすがに意識があるまま刃物をいれるのは気が引けるだろうから意識が無いふりをする。
体を探られている感じには慣れないが、魔王と斬り合った時にもうすでに体を切り刻まれた経験はあるのでそれに比べればたいしたことでは無い。
しばらくすると眠気が来たので寝ることにした、願わくばあの世で目覚めたい者だ。
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翌日だろうか、腹部に違和感を覚えながら目が覚めた。
「あ、お目覚めですか! え!? 傷が……」
どうやら手術跡が塞がりつつあるのに驚いているのだろう。
結局俺が目覚めたのはただの病室だった。
「退院させてくれ、もうかまわない」
「ええっと……、そうですね、先生に言っておきます」
数分後、手術前にあった医師が現れた。
「アイアスさん、退院をご希望とのことで……」
この医師が釈然としていないのは事実だろうが、もう死ぬであろう奴に対して院内で死なれるよりいいと思われたのか退院の許可はすぐ出た。
さあて、街をさっさと……おっと、宿の姉ちゃんに会うんだったっけ。
宿屋のドアをくぐると受付嬢がこちらをかわいそうな者を見る目で見てきた。
「会えて良かったよ、手術はやめたの?」
「いや、大体人工臓器に変えてきた」
「えっ!? いや、いくら代用できるって言ってもそんな健康には……まあいいや! また会えてうれしいよ、職業柄あんた見たいのとは二度と会えないことが多いんだ」
「そうか、俺は街を離れるよ、これ以上いる理由も無いしな」
「そっか、こんな事言うのもおかしいけど、元気でね」
「ああ、当分は元気だな」
驚いた顔をしている、強がりと思われたのだろうか?
「ああ、またね。なんかあんたとはまた会えそうな気がするから不思議だよ」
俺は宿を後にして街を出た。
「ふぅ……あいつら品質の悪いもの使いやがって……俺じゃなきゃとっくに死んでるぞ」
俺はナイフで体に小さな穴を開け、そこにかぎ爪を差し込む。
ビチャ、ボトッ。
俺の体の中から異物が取り出される。
ちょっと痛いがこんな粗悪品を体に入れっぱなしにするよりマシだな。
全部の人工臓器を抜き取ると俺は組み立てておいたテントで寝た。
じっとしていればいいのだが寝た方が早い。
こうして俺は当面の資金を確保して次の街へ向かった。