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かつて勇者だった者

 俺はある村を訪れていた。

 ここには勇者候補だった人間がいると聞いたからだ。


 俺がこの村を訪れたとき、あまりにも村は荒れ果てていた。


 レンガ造りの建物はもう何年も修繕がされていないであろう荒れ方をして、雑草が生い茂っていた、どうやらもう数年は人の手が入っていないようだ。


 俺が村に着くと子供たちが駆け寄ってきた。


「お兄さん、たべものをもってないですか?」


 俺は衝撃を受けた。この子たちはあまりにもみすぼらしい格好をしていた。


 俺が魔王を倒したのは人々を救うためだったはずだ、そうだというのに未だにこんな子供たちが存在しているんだ。


「悪いな、食べ物は持ってない」


 俺は転生の時にもらった不死の力で食事は必要がなくなっていた、気づいたのはずいぶん後になってだ、娯楽としての食事はするが……


「じゃあ……おにいさん……少しでいいのでお金をくれませんか……」


 俺は財布から銅貨一枚を取り出し小さな手に渡し質問をする。


「ここは君みたいな子が大勢いるのか? 世界は平和になったはずだろう?」


「魔王が死んでから勇者のおじさんが……ひっ!」


 その子は悲鳴を上げると一目散に逃げていった。


「よう、新顔か? 俺はこの町の顔のデールだ、覚えとけ」


「アイアスだ。この町は誰かに襲われているのか? ずいぶんと荒れているようだが……」


 ふん、と鼻を鳴らしてデールは言う。


「はん、俺様に頼り切ってた連中が魔王が死んだ途端手のひら返しやがったからちょっと脅かしてやっただけだ」


 ああ、俺がしてきたことは何だったんだ? 町を荒れされるため? 子供に物乞いをさせるため? みんなの幸せのためだったじゃないか。

 それに俺は弱いやつ以外すら苦しめているじゃないか。

 俺は目の前の男を見て苦痛すら覚えた。


 多分コイツだって元は理想に燃えていたのだろう……俺が……俺のせいで……


「なあ、お前は俺を殴っていい、だが子供たちにあたるのはやめろ……」


「なんだよ! お前が何をしたって言うんだ? 俺は俺を裏切ったやつ意外にまで手を出すほど落ちぶれちゃいねえよ!」


 コイツだって魔王の被害者じゃないか……俺はどうすればいい……


「俺は……勇者だ……本物の、な」


「何を言っている?」


「聞いての通り、魔王は俺が倒した」


 デールはそれを聞くと俺に殴りかかってきた。


「ちくしょう! ちくしょう! 全部お前のせいだ! 魔王がいた頃は神様のごとくあがめられてたんだぞ! お前の……お前のせいで……」


 俺はただ殴られる。殴られると多少の痛みを感じるが一つ分かることがある。

 「コイツに俺は殺せない」という残酷な現実が身にしみる。


 俺に血筋一つ流れないのを見てデールは崩れ落ちた。


「分かってる……あんたが本物なら絶対に俺は勝てない……分かってるんだ。あんたが平気な顔をしているのが本物の証拠なんだろ……」


 どこへも吐き出せなかった思いを吐露しながら、だんだんとそれは嗚咽に変わっていった。


 俺にはやりきれない思いが巡っていた、みんなのために誰かを不幸にしていたという事実は辛いものがある。


「なあ、お前は俺を殺したいのか?」


 デールはしゃくり上げながら答えた。


「俺は……そこだけは超えるわけにはいかない……元でも何でも勇者もどきだったんだぞ……本物じゃないからって悪魔にはなれない……なるわけにはいかない……」


「そうか、俺が言うのも悪いが、真面目に生きて欲しい。罪はすべて俺は背負う……だから……頼む……俺のせいで誰かを不幸にしたり不幸になったりはしないで欲しい」


「あんたが……クズだったら俺はどんなに楽だったんだろうな……誰かを恨みたかったんだ……」


 コイツは俺を殺す気など無かったのだろう、崩れ落ちたときに銃が落ちた、コレを使わなかったと言うことは誰かを殺すことはしないのだろう。


「悪いな、お前に俺は殺せない。恨んでくれてもいい、許してもらおうとは思わんよ」


「なあ……一つ考えがあるんだがちょっとやってみて欲しいことがある」


「何だ?」


 俺は「作戦」をデールに伝え、いったん村から離れ村を囲む森でキャンプをした。


 翌日、俺は町を訪れ……銃を撃った。

 人にあたらないように、壁や地面に向かって何十発も放った。

 それでもやはり住民は恐怖し悲鳴を上げた。


 十分くらいした頃、デールが現れた。


「おい暴漢! この村で勝手なまねをするのはやめてもらおうか!」


「はっ、英雄気取りか! 調子に乗るなよ!」


 俺が銃を向けて威嚇する。

 

 そして、打ち合わせ通りデールが口上を述べ俺に銃を向ける。


 ぱんぱんぱん


 軽い炸裂音とともに俺の体に銃弾が当たる。あらかじめ仕込んでおいた血糊の袋が破れ赤い液体が俺の服を染める。


「クソが! こんなやつがいるなんて聞いてないぞ!」


 俺は捨て台詞を吐いて足を引きずりながら村を後にする、デールが止めるので追いかけてくる奴はいないだろう。


 俺は村から十分に離れた森の中で見つけた泉で血糊を落としきれいになった服でまた歩き出した。


 きっとあいつはこれから英雄になるのだろう。俺とは違って……


 この村では俺の目的を果たすに値する相手はいなかった。

 それでも一人を救えたのならここに来た意味はあるのだろう。


 村から離れながらどこからか村人の賞賛の声が聞こえた気がした。   

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