第1話 こんなところでやられてたまるか
行き場の無い魂が飛び交うのが見える正に地獄と言う名が相応しく、魔族以外を一切受け付けない〈混沌中獄〉にたった2人だけがお互いに向かい合っていた。
「よもやここまで追い込まれるとは…ふはははっ!」
「何がおかしい!」
世界の命運を懸けたこの戦いは負けるわけにはいかない。
俺は庶民でありながらも幾度も魔族を迎え討ち、一部からは〔英雄〕レオナルドだなんて恥ずかしながら、呼ばれてる。
俺が守護していたファリオン王国は、全面的に俺をサポートしてくれていた。
こんな俺を支持してくれる国民の為にも俺は世界を破滅へと導く〔魔王〕のデモンを是が非でも討ち取らなければならなかったのだ。
そして只、倒すだけではない。
魔王には特殊な魔法により何度も〈転生〉を繰り返すとされている。
俺は〈転生〉をさせない為の研究を直ぐ様取り掛かかった。
その構造を解き明かした後、莫大過ぎる魔力を必要とした〈転生無効〉を俺が生成した槍の器の存在へと注ぎ込んだ。
俺は毎日努力を怠らずに鍛練してきた。
その甲斐あってか、魔法に関して俺の右にでる者は一人としていなかった。
剣技に関しても俺に敵う者は〔剣聖〕と称えられた大親友のカイル、ただ一人だけだ。
そして、俺にはデモンを斃したらやりたいことが残ってるのだ。
人類で到達出来ないとされている領域に踏み入ることにより『覚醒者』という存在に成ることができるという。
その存在は唯一無二の存在。
強さに執着は無かったが、果たしてどんなものなのかと思うとゾクゾクして堪らなかった。
そしてその力が必要とされるのは…
《異界》
そう呼ばれる所へと足を踏み入れるためだ。
異界ではこの魔王デモンは雑魚扱い。
魔王デモンはこの異界から来たらしく、向こうの世界のトップからしてみればこの世界を征服、破滅させることなど造作もない事であり、言ってみれば遊びなのだ。
だがそんな事を指を咥えて待つ俺ではない。
この世界を平和に、庶民で乏しい生活をしていたあの頃の様な思いを誰一人としてさせてはならない。
そう心に決めて魔王城へと単身で乗り込んでここまでやって来た。
あとはこの【転生無効槍】を奴に突き刺してやるだけだ。
既に魔法に因って深手を負わせ、左腕を引き千切ってやった。
こちらとて油断する暇もない、先程から生気を吸われ続けてフラフラだ。
「小賢しいぞっ!」
下級魔法を放ち続けていると跳ね返された魔法が偶然足に当たり魔王デモンがふらついた。
「隙を作ったなぁ!」
一瞬の隙をつき槍を突き刺した。
よし…これで俺も安泰って訳………
「か、かはっ…」
熱い…いや、寒い。
背中からよく分からない感覚が襲ってくる。
「ふははっ。油断したな!貴様も道連れだぁぁ!」
即席で造り出された杭の様なものは俺の背中から腹までを貫通していた。
「かっ…ドジ踏んだか…」
「お前はここで終わりだ!我はまた戻ってくる…必ずなぁ…」
その一言だけを残した魔王デモンは霧状になり跡形もなく消え去った。
「ははっ…お前はもう転生出来ねぇよ」
「くっ…俺だけじゃなく仲間がいたら俺も助かったのかもな…」
自力でこの杭を抜き、完全治癒を己に掛けることは到底いまの状態では不可能なものだった。
だが仲間が一人居るだけで俺の死ぬ確率は0%だったはずなのに。
「ここで俺の悪い癖がでちまったか…誰かに頼る事なんてできなかったなぁ…」
己の小ささをしり、残り僅かな命を噛み締めているとふと思った。
「〈禁忌の魔法〉転生…か」
魔王デモンが使用していた転生。
それは世界の理から逸脱したものにより、禁忌の魔法だと恐れられていた。
〈転生無効〉を考える内に転生の魔法ならば使用できるまでにはなっていた。
だが転生は魔力を使用しない代わりに生命を奪い、直ぐ様転生させる。
だが俺がいまの状況を打開するにはこの方法しか残っていない。
生命などどのみち放っておいたら無くなってしまうのだから。
だがこの禁忌の魔法を使うのは勿論理由くらいはある。
何十年、何百年経とうとこの世界の平和を思う心は変わらない。
そして魔王デモンを斃した今、これからの世界のあり方をこの目で感じてみたい。
瀕死の状態でありながらも俺は気付かぬ内にワクワクしていた。
いや、ワクワクするのは必然だろう。
「この転生は記憶をも移行させる禁忌…今までの経験を持ったまま壱からやり直せるというのか…これを聞いて俺の胸の高鳴りを止めれるものはいない」
そろそろ時間もないことだ。
さっさとしないと普通に死んでしまっては元も子もない。
カイルやその他の仲間たちにも会いたかったな…せめてあいつらは連れてきたらよかったか…。
「ぐぅっ…〈転生〉っ!」
己の体を目を開けれないほどの光が包み込む。
先程まで感じていた寒気などが無くなっている。
それどころか心落ち着く感じがする。
「これが禁忌の魔法…転生か」
今世は世界各地に派遣されたり、色々と振り回されていたしな…。
嫌ではなかったけど、来世はちょっとゆっくりしたいものだな…。
ファリオン王国には悪いが俺がいくら強くてもファリオン王国専属の守護者に成ることはもうないかな。
今度は自分の好きに世界を歩いてみたいからな。
そしてもし、世界の破滅を呼ぶものが来たその時は…俺が例えばまた葬ってやる。
少しの間は〔英雄〕レオナルドということは隠しておこう。
まぁ気付かれることはないだろうが。
体に力が入らなくなってきて、瞳を閉じた瞬間。
俺の意識は飛んでいった。