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なんかリアンが外堀を埋めていっているような…。
庭の花々が鮮やかに咲いている。そんな幻想的な場所でアベリィとリアンは茶会をしていた。
「リアン様は昨日、剣のお稽古を?」
「ええ。腕を磨かなければいざという時に、大切なものを護れませんから」
ふわりとした笑みをアベリィに向ける。太陽の光を浴びて輝く白銀の髪が風に揺れた。
さも愛おしいものを見る瞳にアベリィは一瞬、眉を顰めた。
やけにあからさまだ。前はもっとうまく隠していただろうに。
明らかな好意。
あからさまな愛情。
前の自分が当たり前のように信じ、今の自分には到底信じられないもの。
それがアベリィに向けられている気がする。
以前にも感じた微かな違和感。今までとは何かが違う。
「まぁ、リアン様はまるで騎士様のようですわ。素敵です」
そんなことを感じたとは悟られぬように、にっこりと胸の前に手を合わせ、アベリィは微笑む。
だが、自分の笑顔を見たリアンは悲し気に笑い返し「失礼」とアベリィの紅髪に触れた。
「っ」
「…やはりバラのようですね。いづれ貴女の美しい髪に似合う髪飾りを贈らせていただきましょう」
クロエが手入れしてくれている艶やかな髪がリアンの手の中で滑る。
最近のリアンは、やたら装飾品をアベリィに贈りたがる。貰いすぎるのは申し訳ないという建前で断ってはいるが、それを通過したプレゼントは皆、白銀と蒼色のものだった。
自信の髪色と瞳の色の装飾品で婚約者を飾る。それは愛する者への独占欲への現れだ。
今はまだ社交界デビューをしていないため大っぴらに認知されていないが、この調子でいくとドレスまで蒼色にされそうだ。
「あの…リアン様。プレゼントは大変嬉しいのですが、あまりいただきすぎるのは…」
「気にしないでください、アベリィ嬢への気持ちを形に残したいのです。…もしかして貴女は私からの贈り物はご迷惑ですか?」
卑怯だ。
アベリィが自分の気持ちを素直に表に出せたならここで「はい」と答えるところだが、そうもいかない彼女は真逆の答えを言わなければならない。
「そんな!迷惑などではありませんわ。ただ…少し不安で」
不安である。こんなに溺愛しているような真似をされて、あとで裏切られるのが。
愛を信じなくなったことでダメージは少ないが、全く無いということではないのだ。
「お父上たちから何か?大丈夫です、ある程度はと許可をいただいています」
家のことを心配していると捉られたらしい。確かに次期当主であるリアンが婚約者に偏りすぎていると思われるのは良くない。
愛妻家は良い事だが、領主は民のことも考えなくてはならない。何事も程々が大事だ。
「で、ですが」
「ああ、楽しみですね。いつ頃が空いていますか?」
「えっ?」
空いている?装飾品を贈るだけなら予定など、関係ないはずだ。
アベリィの困惑をよそに、リアンは手触りのいい髪を撫でている。どことなく機嫌が良さそうだ。
「そうですね、次の太陽の日はいかがですか?デートをしましょう」
「はい?」
いつの間にかデートの約束をさせられていたらしい。
『太陽の日』とはいわゆる日曜日です。なんかまんまですね。