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人間不信ですね、アベリィ嬢は。
あとは若い二人でと、お決まりのセリフで二人きりにされたアベリィ達は、庭を散歩していた。
「あの花はデイジーっていうの!綺麗でしょう?」
「本当だね」
くり返すくり返すアベリィの人生のように言葉を再現する。
まるでレコードのようだと思う。
自分はもしや機械ではないか?と何度目かの人生でアベリィは本気で疑った。
「アベリィ嬢」
「なぁに?リアン様」
いきなり立ち止まったリアンを振り返るアベリィ。
いつもはここで呼ばれるようなことはないので、少しばかり不思議に思う。
同じ人生を同じ結末で迎えるからといって、完全に一致しているわけではなく、毎回僅かに違うことが起こる。
そして、その度にアベリィは安堵するのだ。
自分にもまだ、人間らしいところがあることに。
「普段は何をして遊んでいるの?」
「っ!」
子供らしくなく息を呑む。
貴族令嬢の遊びといったら刺繍など、男児だったら間違ってもやらないものばかりだ。一緒にやるにしても話をするにしても、リアンにはつまらないに違いない。
だというのにアベリィを気遣うこの言葉。齢五才で、もう完成された貴族だった。
ほんの微かに、アベリィの胸に温かな光が灯る。
最初の自分はそんなリアンに恋をしていた。
けれどアベリィの婚約者に近づく彼女には忠告しかしなかった。
確かにリアンのことは愛していた。
確かに彼女に嫉妬は感じていた。
しかし人として、してはいけない一線は超えはしなかった。
だというのに、アベリィを愛していると言ってくれていた者達は誰もアベリィを信じてはくれなかった。
「読書…ですわ」
所詮、嘘なのだ。この彼が遠い昔のように愛していると告げたとしても。
「それより、素敵なバラ園がありますの。お見せしますわ!」
どうせアベリィは信じることなどできない。