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オキナグサの如く

お久しぶりです。やっと忙しさに一段落し更新しはじめました。

新年からいきなり新キャラ登場です。

※リリアの名前を変えました。

白と青を基調とした屋敷が、馬車から見える。

アベリィの兄、アンドリュは妹より薄い翡翠を隠すように目を伏せた。

今から向かうのはドルト公爵家の別邸だ。そこには彼が裏切った、大切な人がいる。


「ようこそおいでくださいました、アンドリュ様。リリシアお嬢様がお待ちでいらっしゃいます」


「ああ」


先触れの手紙を出していたので、スムーズに屋敷に通された。

彼女には、拒否されなかったようだ。追い返されることも覚悟していたが、アンドリュは自分のどこかでそうされることはないと思っていたのを感じ、眉を顰めた。


「リリシアお嬢様、アンドリュ様がいらっしゃいました」


「入っていいよ」


扉を開けると、清らかな白銀が彼を迎えた。その眩しさにアンドリュは目を背けたくなったが、あえて焼き付けるように見つめた。

この白銀を自分は、確かに愛していたのだから。


「やぁ、リュウ。元気にしてたかい?」


おとぎ話の聖女のように、彼女は微笑む。弟と同じ空色が見えるはずの瞳は固く閉じられていた。


そうリアン=ドルトの姉であり、アンドリュの婚約者でもあるリリシア=ドルトは盲目であった。



アレクサ家に嫡子が生まれてまもなく、ドルト家にも子宝に恵まれた。

よく泣き、よく笑う元気な女の子。名はリリシアと名づけられた。

今代はアレクサ家と婚姻を結ぶ流れとなっていたため、リリシアは生後数ヶ月でアンドリュの婚約者となった。

まだ赤ん坊の彼らが仲良く遊んでいるのを見て、誰もがお似合いだともてはやした。


しかし、それからしばらくしてリリシアの身体に異常が見えだした。


歩くようになると、よく散らかっているおもちゃに足を取られるようになった。

抱き上げるために名を呼んでも、あさっての方向に行こうとする。

さすがに不審に思った公爵夫妻は、リリシアを医者に見せた。すると、驚きの診断がもたらされた。


「リリシアお嬢様の目は、ほとんど見えておりません」


両親は大いに悩んだ。病弱ではないから子を産むのに支障はない。だが、公爵夫人としてはどうだろうか。当主達はリリシアとアンドリュの婚約を破棄しようとしたが、彼女は拒否した。


「父様、母様。あと五年待ってください。あと五年で必ずやリリシアは、アレクサ公爵夫人に相応しいレディになってみせます」


その言葉通り、リリシアは努力した。

点字で本を読み知識を身につけ、息遣いや足音で場所を特定しダンスを練習した。

もちろんアンドリュも何もしなかったわけではない。好意を寄せてくれる女の子に何も思わないわけはなかった。

彼女に手紙を書くために点字を覚え、小さな社交界では相手が誰かこっそり教えた。

そんな並々ならぬ努力で、二人は婚約を続けられた。


しかし数年後、アンドリュはリリシアを裏切った。



「シア、僕は」


「リュウ、ボクは怒ってないよ」


どうすればいいか、答えは見つからなかった。謝るのはきっと間違っている。

だが、愚かと言われようとアンドリュはリリシアと話したかった。

共に人生を歩みたかった。

自由になった今度こそ。

そんな彼の身勝手ともいえる願いを分かっているかのように、リリシアは聖母のごとく微笑んだ。


「本当だよ、怒ってない。悲しかったけどね。仕方なかったとでもいうかな、だって自由ではなかったんだもの」


「けど、今は」


「そう、今は違う。だからボクたちは行動しなければならない」


「ボクとアン君もベリーちゃんに酷いことをした。そして彼女は今も苦しんでる」


アンドリュはアベリィに干渉しないでも、深く干渉するでもなかった。

幾度とない裏切りに、妹の心は酷く傷ついている。ましてやそれに自分も関わっているのだ。

これ以上、彼女の傷口を広げるわけにはいかなった。


「確かにこのままでいれば、傷は広がらない。けど、癒えることもない。だから行動しなければならない」


「だが、アヴィはそれを望んでない」


「そうかもね、だけどそれじゃあ悲劇じゃないか」


だって彼女はまだ、幸せになっていないだろう?


「行動しないことには何も変わらない。ベリーちゃんは傷ついたままだ」


「じゃあ、どうすれば」


「甘いなぁ、リュウは。それは自分で考えなくてはならないことだよ。そして自分も傷つく覚悟をしなければならない。相手を傷つけるならね」


ふいにリリシアは、指先で机をトントンと叩いた。アンドリュは森の瞳を見開く。

それは幼い頃二人で決めた、二人だけの合図。

一瞬の躊躇いのあと、彼はリリシアの傍に行き膝をついて細い身体を抱きしめた。

彼女の肌は特別白い。天使の羽根のような髪色と相まって、小さい頃アンドリュはリリシアが消えてしまいそうで怖かった。

そんな彼に、彼女は言った。


「ボクもリュウの姿が見えないから、本当に目の前にいるか、傍にいるのか分からなくて怖かったんだ。だからこの合図をしたら、ボクを抱きしめて。お互いに触れあえれば安心できるだろう?」


時が経つにつれ、されることの無くなった合図。それでもリリシアは覚えていた。


「リュウ、まずはベリーちゃんのために動いて。ボクは待ってるよ、待っててあげる。待つのには慣れてるからね」


「シア…」


「大丈夫。本当に困ったことに、ボクはまだ君のことを愛しているからね。安心して行ってきて」


ポンポンと子供にするように、アンドリュの背中を叩く。すると、ぎゅっと腕の力が強まった。


「待っててくれ、必ず迎えに行く」


「うん、待ってるよ。行ってらっしゃい」



「まったく、困ったものだねぇ。恋というのは実に忌々しい」


アンドリュが去った後、リリシアは一人苦笑していた。

仕方ない、しかし許せない、それでも愛している。

苦くて甘いこの感情は、とてもじゃないが手放すには難しい。


「それでももっと甘く、美味しくするために動かないと」


まずは弟とじっくり話し合いだ。可愛い義妹のためにも、自分のためにも。


リリシアの愛称講座


リュウ→アンドリュ


ベリー→アベリィ


アン君→リアン


ボクっ娘を入れたかったもので…

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