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第54話 死にたいの? お前


 さやかな光がの葉を貫き、ちいさな丸いテーブルと、ひとつのカップをいよいよ白く照らしている。

 風は胸の奥深くまで、緑の香りを届けている。

 リフィナーとしては申し分のない、天地の恵み。このひと月で最上の、心地よい午後とき

 だが魔術士としては。力の源である精霊が浮かれすぎて、力の制御がままならなず、決して【好い天気】とは言えぬ時間とき。……とどのつまり。


 魔術士を、そのとば口に立つ者を――【分からせる】には、ちょうどいい……と、いうことだ。


     ◇


「おい。そろそろお前に魔力をかえしてやる」


「……。――えっ!?」


 屋敷の広大な庭の片隅にある、木陰のちいさな憩いの場にて。俺の言葉を聞いたファレイは、思わず声を上げ、手にしていたティーポットをガシャン! とテーブルへ落とす。紅茶がクロスを汚し、紅いそれは残らず地面へ流れ落ちた。

 だがそんなことはいっさい構わず、ファレイはぷるぷると震え、いまは俺の用事で出かけているハーティに無理やり着せられている普段着――白いカチューシャに白エプロンの、青のメイド服――のスカート部分を両手でしっかとつかむと、半笑いになり……、一度、二度と目線を、のんびりイスに腰かける俺へやる。そしてちいさな口を何度かぱくぱくさせると二の句を告げた。


「ほ……っ、ほんとうか? それは……? ――うっ、うそじゃないだろうな!」


「うそではない。お前の魔力を断って三か月。そろそろお前も、己の【】を理解できた頃合いだろうしな。きょうの天気から、格好の機会だと判断した。嫌なら別の日にするが」


「!!? じょっ、冗談じゃないぞこのクソ垂れ目……――じゃなく! い、嫌じゃない嫌じゃないっ!! だっ、だから早く、早くっ!!」


 ばん!ばん! とテーブルを叩いて身を乗り出し、むき出しの犬歯を見せて訴える。俺はため息をついて、ファレイの入れた微妙な紅茶の残りを飲み干すと、カップをソーサーへ戻し、ヤツに手を差し向けた。


「創術者及び執行者はセイラル・マーリィ。――流れよ。クへージョン」


 刹那、ファレイの全身が銀色に発光し、それがすべて胸の上部に収束すると、吸い込まれるようにして消えた。ファレイはしばたたいたのちに、たん、たん、幼児のようにその場で足踏みし……。次に思い切りヒザを持ち上げて、踏み抜くと――おおきな音とともにその地の土草が吹き飛んだ。


「……はっ。はっ……、あ、ははははははっ!! 戻った! 力がっ!! 私の力が戻った!! やったーーーーーーーーーーっ!!」


 笑顔で叫んでそばに生える木の上まで飛び上がり、着地と同時に屋敷まで全速力で駆け出して、その壁を駆けのぼり、屋根の上を宙返りしたり転がったりして駆けまわり……。ちいさな銀の彗星は、歓喜に満ちた声を上げては、久方ぶりに自由になった【力】を思うがままに行使し続けていた。……あと十五秒くらいか。こっちに飛んでくるのは。


「あははははははっ!! そうだこれが【私】だっ!! ほんとうの私なんだ!! それがこんなふざけた服を着せられて、クソ垂れ目と輪っかババアにあれこれ言われて……――そんなものは、もうっ!!」


 果たして殺意をまとった銀光ぎんこうは、屋根を蹴りつけ飛んできて、俺の眼前へと到達すると、むしり外したカチューシャを刃へと変質させて目を貫こうとしてきた。なので俺は半眼になり――人差し指でそれを弾いて吹っ飛ばした。


「!!?? ア……っ!! ――がっ……!!」


 そばの木に突っ込みうめいたあと、ファレイは腹から落下して、ひゅっ……!! と声を出したのちに気絶した。俺はため息をついて、スカートがめくれて下着丸出しになった獣に、再び手を差し向けた。


「創術者及び執行者はセイラル・マーリィ。……癒しを。ミスターリア」


 ファレイの体は緑の光に包まれて、ほどなくして目を見開くと飛び起きた。それからきょろきょろ辺りを見まわすと、自分を見て、俺を見て。ようやく現状を把握した結果、かあああ……と赤面、歯ぎしりしながら辺りの草を抜き始めた。


「……くそっ!! くそっくそっくそっくそっ!! 化け物めっ!! お前を殺せるまで【このまま】だなんて!! 最悪だ!! もういっそのこと、私を殺……!!」


 と、言いかけたが下唇をかみ、「くっ・そ・がぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」とまたぶちぶち草へ八つ当たりを始めた。俺はおおきく息をはき、イスから立ち上がると、ファレイにむしられた哀れな草を一本拾い、言った。


「死ぬ気がないのは結構。生を投げ出すヤツに、生の源である魔力を使いこなすことはできないからな。だがお前はまだ勘違いしているようだから言っておく。いま、お前が行使した力はお前のものではない。天地の精霊のものだ」


 ファレイは手を止め、俺をにらみつける。俺はそのぎらぎらした、殺意にまみれた視線を受け止めて続けた。


「お前はただそれを借り受けているだけ。俺も含めて、リフィナーはすべてそう。それをまず分からねば強くなることはできない。これは魔術士的な精神論などではなく、単なる事実だ」


 ファレイは「はっ!」と吐き捨てたのちに横を向き、あぐらをかいた。放出し続けていた銀の光が、徐々にちいさくなってゆく。それが完全に消えたとき、ヤツはつぶやいた。


「じゃあ【私】はなんなんだ。ほんとうの私は。あの、お前に力を消されたさっきまでのひ弱な私が、……そうだっていうのか」


「そうだ。万物には根幹があり、力には流れがあり、あまねく存在には繋がりがある。ひ弱なお前は、その中に在るひとつに過ぎない。それらを理解して初めて、ほんとうの意味で魔力を扱えるようになる。いままでお前が、無自覚に跳んだり跳ねたり、ものの形を変えたり、魔術士やリフィナーを撃退していたやり方では、永遠に高みにのぼることはできない。だからその【のぼり方】を――俺が教える」


 ファレイの肩がぴくりと動き、俺に気づかれぬようにわずかにこちらへ目を向けた。バレバレだったが、話を進めるためにそれを無視して、俺は手にしていた一本の草を自身の前に突き出して、じっと見る。すると草は左右にぶれて、ほどなく俺の手から抜け出すと地へ還った。


「……!? えっ……」


 ファレイは目を見開き、くだんの草へと顔を近づけ、軽く引っ張るなどして確かめるが、もとのように青々とした色と香りを放っていた。俺は片手をファレイの周囲へ差し向けて、再び唱えた。


「創術者及び執行者はセイラル・マーリィ。……癒しを。ミスターリア」


 ファレイの周りが緑色に発光し、ヤツがむしり取った草たちが次々と大地へ還ってゆく。そして風に吹かれて周囲に飛び散ったものたちも、俺の創り出した緑光りょくこうの半球へ吸い込まれるようにして、やはり戻った。ファレイはそれを、殺意のない、無垢な、十歳という年齢相応の表情かおを見せて、口を開けて見つめていた。


「魔術、魔力には、【死】に足を踏み入れたものへ干渉する力はない。だが、いまの草たちのように、まだ死には至らず、わずかにでも【生】を持ちうるのならば――術者次第でその根幹、流れ、繋がりに働きかけることができる。いわば【世界のことわり】に干渉できるということだ。そのことに修復も破壊も違いはない。いまのも【俺の力】ではなく、俺が【世界の力】に干渉した、ということさ。……少しは、お前の力の使い方との違いが分かったか?」


「分かるか! ごちゃごちゃと訳の分からない……! もっと分かりやすく言え!」


「……いまので昔のハーティなら分かったんだがな。ま、当時のアイツはいまのお前より少し年も上だったし、それなりに教育も受けていた上、天才だしな。仕方のないことではあるが……」


 俺は俺をにらみつけるファレイに近づくと、土で汚れたメイド服を一瞥いちべつし、「……これは洗濯すればいいか」とつぶやいて、ひとまずハンカチで土を軽く落とす。それから髪と頬についた砂などを手で払ったあと、ファレイのちいさな手をつかむ。ファレイはにらむのをやめて、眉をひそめた。俺はその眼前に手を持っていくと続けた。


「つまり、【お前はひとりじゃない】ってことだ。お前のこの、ちいさな手の中にあるものだけでなんとかしようとするな。周りを見ろ。おおきくて豊かなものがあふれている。それをつかめ……ということさ。……これなら分かったろ?」


「……わ・た・し・は・ひ・と・り・だっ!! いままでも、これからも……――この先ずっと!! 馴れ馴れしく触るな垂れ目っ!! ……見てろよ……。お前なんかすぐに追い越してやるからなっ!!」


 と、銀色に発光すると思い切り俺の手を振りほどき、そのままテーブルへと戻り、倒れたティーポットを起こした。そして大道芸人よろしく、ポットとカップをどかさないまま汚したテーブルクロスを見事に引っこ抜き……。もう俺を振り返ることもなく、クロスを抱えて大股歩きで屋敷へと戻っていった。


     ◇


     ◇


「……――ふ。……なんて馬鹿な……」


 ぽつりと漏れた自分の声で、俺は意識を取り戻した。

 窓から差し込む朝日にしばたたくと、枕の上で首を左右に動かし音を鳴らし……。おおきく息を吸いこんだのちに、のっそり身を起こす。この妙な感覚は、また例の夢か……。

 相変わらず、なにも思い出せないが、なんだか悪くない夢だったような気はするな。胸の奥が温かい。それなら少しでも残して置いてくれてもいいものを……。

 俺は襟ぐりの伸びたTシャツの上から胸に手を当てる。鼓動はしずかに音を立てていたが、いつものように次々と、夢の欠片かんしょくは音を立てずに消えてゆく。そうして鼓動が、そばの机の上の四角い置時計の音と重なり始めたときは完全に消え失せて、【緑川晴みどりかわせい】としての現実感覚が戻ってくる。

 俺はそれに合わせて、勢いよくシャツを脱ぎ捨てて、日常いつもの支度を始めた。


     ◇


「はぁ~い♪ 友達の【晴】。ご機嫌いかが? なーんか私に言うことあるでしょ」


 登校後、学校の下駄箱に開けるなり声をかけられて、俺は振り向いた。朝の騒がしさの中、横岸よこぎし半眼半笑はんがんはんしょうで腕組みをして、下駄箱にもたれている。なので訝しげに返した。


「言うこと……? おはよう、とかか。つーか名前……、そういや教えたか。けど、別にそっちで呼ばなくてもいいだろうに」


 俺はため息をつき、上靴を取り出すと下へ落とした。すると、バン! と猛烈な音がしたので顔を上げる。俺の下駄箱が横岸によって閉じられており、ヤツは半笑いのまま、ひくひくと口の端を引きつらせていた。……な、なんだ?


「そのボケっぷり。今朝はよほど【好い夢】をみたようねえ。きのう、自分がなにをしたかすっかり忘れているようだし、……そんなあんたに【現実】を教えてあげるわ」


 横岸はそう言って、背負っていた薄緑色のリュックをおろすと、そのチャックについた白クマのぬいぐるみを勢いよく引っ張ってリュックを開け――。中から、きれいに四つ折りにされた見覚えのある白い布と、同じく、どこかで見たことのあるような青い布を取り出して俺に突き出す。……ああ。弁当の包みか。そういやきのう、横岸コイツに鞄を持って帰ってって頼んだんだけっか。ルイとリイトさんを追いかけるからって、自転車も……。……えっ? あれっ? ちょっと待て。この白いのは、俺の弁当包みで。こっちの、青いのは……――。


「あ。の。横岸さん。……友達の」


「はぁい。なぁんですかぁ? ……友達の晴」


「……その。あの。も、もしかして……。その。この青いヤツの、ほうの。べ……」


「洗ったに決まってんでしょ。風羽ふわさんのお弁当箱を洗わずに放置するとかありえないでしょーが。つーか風羽さん以前に 人 に 作 っ て も ら っ た お 弁 当 の 入 れ 物 を 洗 わ ず に 、 だ れ か に 押 し つ け て ど っ か 行 く ――とか。そんな人類地球上に存在する? いたら見てみたいわ~、会って話が聞きたいわ~、……ねえ?」


「――すっ!! すみませんでしたあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 俺は一秒と経たずに土下座して、額を打ちつけるがごとく頭を下げる。とっ……、とっさのことで風羽に弁当箱借りてたの、すっかり忘れてた……っ!! 


 真っ青な表情かおで地面に額をくっつける俺を、「……やーめろっ! 人目っ!」とグイっ! と横岸は持ち上げて、立たせる。それから、「あ、ヨッシーおはよー!」「うぃーっす」「えー、なにしてんの?」等々、話しかけてきた何人かの通りすがりへ「べっつにー? ばっつにー? きょーも好い天気だよね! あははは!」とてきとうにスルーしてから、俺を下駄箱へ押しつけて。二枚の包みとともに顔を近づけて言った。


「もちろんこの包みも洗ってアイロンをかけてある。弁当箱は、アンタの鞄の中で、それもすでに席にかけてある。……で、もう一度聞くわ。なーんか私に言うことあるでしょ」


「……。お前、むちゃくちゃ好い女だなあ……。中身まで美人かよ」


「!!? ――なっ……!!」


 次の瞬間、横岸は口と目をおおきく見開き、それで周りが「えーっ!? なになにいまの~っ!! ヨッシーとそっちの、どういう関係~っ!?」「うおー、朝から甘酸っぱいもん見たぜ~」「横ちゃんってこーゆー男、好みだっけ」「はい朝の話題頂きぃ! 言いふらそーぜ!」等々。わらわらと寄ってきた、とてつもなく顔の広い横岸の友人知人が勝手に盛り上がる。だがそんな事態にも、横岸はすぐさま平静を取り戻し、「やだなーあははははは! 彼は 友 達 そ の 1 の緑川晴君だってば! 知らない!? もー私と同じクラスだから覚えておいてよねえ! 星の数ほどいるト・モ・ダ・チ・っ!」と見事な笑顔で皆に冗談まみれの愛想を振りまく。果たして効果は絶大、「わかってるよ~! 面白がっただけだってば!」「そこの彼じゃ、さすがに横ちゃんとそっちの関係はないわ~」「あー面白かった」と熱気を下げることに成功する。……おお。カーストトップの見事なフォロー。俺には絶対に真似できないわ……。

 などと他人事のように感心したのが運の尽き、俺は思い切り足を踏みつけられて、そのあと恐ろしい形相を、皆に分からぬように向けられて、


「……ちょっとそこの。【『ありがとう』っていう当たり前の言葉を忘れた友達その1】。これ、貸し1200だから。……覚えておきなさいよ」


 と、ものすごくドスの効いた声で脅された。1200……って? 円? 回数? できればせめて、円のほうであって欲しい……。


     ◇


 その。ちくちく横岸に嫌味を言われながら教室へ入ると、すでに風羽が着席していて、いつものように遠慮がちにクラスメイトたちが話しかけたり、見惚れていたりしていた。

【俺とネット友達】ということが発覚してからは、以前よりはその距離も縮まっていたが、風羽……もといファレイの圧倒的なオーラの前で、やはり最後の最後では腰が引けてしまうようで、壁を乗り越えるのはまだ先のようだ。……いっぽう俺のほうは、


「あ、おはよう。緑川君」


 俺に気づいた(というか魔力があるからとっくに気づいていただろうが)風羽は、席に腰かけたまま顔だけ少し、こちらへ向けてかすかに微笑む。そのさまにまた、周りは、はぁ……、と聞こえてきそうなため息をつき、俺に対しては殺意のこもった舌打ち。……これももう慣れたが。ともあれこんな感じで、俺に言われたように【風羽】としては、【ネット友達の緑川君】に対する適切な距離間での接触を守っていた。

 そんな穏やかな風羽の様子を見て、ふと俺は【あの件】について考える。……そう。【ルイの弟子となったことを、ファレイに伝える(恐ろしい)件】である。


 学校関係者の、だれにも見られていない時。つまり素である【ファレイ状態】の時に【あれ】を伝えたならば、100%ファレイは目を見開き、それから師匠(となった身の程知らずなその者)はどこのだれか、魔術士の腕前、クラスは――とまくし立てたあと、自分よりもクラスの低いルイのことを聞いて、顔をゆがめて猛反対するだろう。

 だがいまのように、周りに人がいる【風羽状態】の時ならば? 動揺はしても、もしかしたら……。ファレイの時のような取り乱し方はせずに、理性をもって情報を処理しようとするんじゃないか? もちろん比較的に、冷静に、穏やかに、ということだが。それでも、少しでも話が円滑に進められ、まとめられるのならば……試してみる価値は、あるんじゃないか?


「ちょっと、晴。……早く風羽さんに」


 突っ立ち考え事をする俺を、横岸がヒジで押しうながした。……弁当箱をとっとと返せ、ということか。よし。やっぱりちょうどいいタイミングかもしれない。ふつうに、落ち着いて……。弁当箱を返すと同時に、さりげなく【あれ】を伝えて……。込み入った話は放課後に、とすれば。いまからそれまでの六時間でファレイも、心の折り合いをつけられるはず。……よし! これで行くぞ!


 俺は深呼吸したあと、自身の帆布はんぷ鞄から、横岸の入れてくれたファレイの弁当箱と、同じくさっき返してもらった洗濯済みの、彼女の青い弁当包みを手にして、ファレイに近づこうとする。と、その時――。俺の携帯が震えた。……な、なんだよこんな時に。って、ロドリー? いったいなんで……。


「……はい。どうしまし……、どうした?」


《先に謝っておくわ。ごめんね。あの子がもうすぐ教室そっちに行く》


「……は? あの子……って。だ、だれのことだ?」


《ルイ・ハガー。さっきいきなり来て。どうしても【もうひとりの従者に面を通したい】って。……止めたんだけど、めんど……できなくて。ともかくうまいことやってね》


「えっ……? ちょっと? もしもし? もしもーーーーーーーーーーーーーーーーーーしっ!!」


 思わず大声を出し、隣の横岸が「ちょっ……!! なに!?」と声を飛ばしてくるが、俺はそれに構わず、震える歯でなんとか情報を整理する。……ルイ・ハガー? 来た? どこに? ……そっち? こっち? お、な、なっ……――!! ま、まさか、まさか。まさかまさかまさかまさかっ!!!!


「おい。お前はなにをやってるんだ? 腹でも痛いのか」


 よく通る、澄んだ声。俺は青ざめた表情かおのまま、ゆっくりと――その声のほうへと振り向く。そこには体のラインがはっきり出た、黒い長袖Tシャツに白いパンツ、そして長い黒髪を無造作に垂らし、きつい目つきをした、【見た目は】20歳くらいの……。静けさと強さを併せ持った強烈なオーラを放つ女性がすでに立っていた。


「あ……。え……。……なんで?」


「あの化け物ロドリーに聞いてないのか? もうひとりの従者に会いに来たんだ。……しかし話では1Aワンエーと聞いていたんだがな。Sレベルじゃないか。……まったくあの女といい、いったいお前というヤツは……」


 と、その女性――ルイは、俺へ苦笑する。そのあと、俺の後ろに座る、ひとりの女生徒に目をやった。

 クラス、もとい学年でNO1の人気を誇る【ポーカーフェイス・ビューティ】【ガラスのバラ】。風羽怜花れいかは、とつぜんの訪問者に対し、もはや隠すことなく【ファレイ・ヴィース】のまなざしを向けていた。

 クラスメイトたちは、横岸を含めて、はっきりと分かる空気の変化にだれもが息を呑む。そんな【人間たち】の様子などいっさいお構いなく、ルイはファレイをじっと見たあと、俺をグイっ! と引き寄せて言った。


「よう。私はルイ・ハガー。コイツの師匠となった女だ。だから従者おまえにも一応伝えておこうと思ってな。あしたから泊まりでコイツにはじめての修行をつける。なにがあっても来るなよ」


「………………は? 死にたいの? お前」


 と、ファレイが、【風羽】の立場を忘れたまま言い放ったそのひとことに。クラス全体の時と……。


 ……――俺の息が一瞬、止まった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。いやその前に、明けましておめでとうございます!本年もよろしくお願い致します( ノ;_ _)ノ 最新話読ませて頂きました。前話であの兄妹の妹に弟子になることになった晴が、フ…
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