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初めての魔法

 清正が魔法の訓練を始めてから一週間。

 魔法は未だに覚えていないが、魔法を発動する為に必要である基本的な魔力の運用は高い次元へと移行していた。

 その魔力運用はデズモンドでさえも驚くものであり、事実として清正は、かつて宮廷魔術師として高い水準にあるデズモンド並みに魔力を自在に操れる様になっていた。


「キヨマサには驚かされるな。まさかこれ程の才能が有るとは……良し! 今日から魔法を覚えて貰うとするかのう」


「おお!? とうとう俺も魔法を使える時が!」


 デズモンドの提案を聞き、清正は跳び跳ねて喜びを露にする。その様は、清正の外見も合わさり、まるで本当の子供のように見える。

 そんな清正を見て、デズモンドは微笑みながら口を開く。


「ほっほっほっ。先ずは、土属性の基本からじゃな。魔法名は砂嵐じゃ」


「砂嵐?」


「そうじゃ。空気中に存在する魔素を、自身の魔力とイメージ、そして呪文によって砂に変換するのじゃ」


 デズモンドの言う魔素とは、生物が必要とする酸素と同じように空気中に存在する物の事だ。

 そしてその魔素に、自身のイメージと呪文を合わせ、魔力を伴って魔素に干渉することにより魔法は発動することが出来る。

 清正はデズモンドに言われ、何気無く魔力を高めながら砂漠の砂嵐をイメージしてみる。

 すると、まだ呪文も唱えていないのにも関わらず、空気中の魔素は砂へと変貌し、やがて強烈な砂嵐となった。


「っ!? こ、これは!?」


「これが魔法! でも、まだ呪文を考えてなかったのに何で?……ゴホッ! ゴホッゴホッ!」


 デズモンドは、清正が呪文を唱えず魔法を発動したことに驚き、清正も疑問に思いつつも、初めて自身で発動させた魔法に感動する。

 そんな二人に、砂嵐は容赦なく襲い掛かる。視界を塞ぎ、酸素を取り込む肺を攻撃してくる。それは間違いなく清正がイメージした砂漠の砂嵐そのものと言えた。


「き、キヨマサよ。はよう魔法を消さぬか! これでは、まともに呼吸も出来ぬではないか」


「ゴホッゴホッ! す、すいまゴホッ!」


 咳き込みつつ、術者自身も巻き込んでいた砂嵐を魔素へと戻す。

 すると、砂嵐の一粒一粒の砂が光となり消えていった。その光景は、まるで沢山の数え切れない蛍のようで、とても神秘的なものだった。尤も、デズモンドと清正には、そんな光景に見とれる余裕も無いようで、咳き込みながら顔の前で手を左右に激しく振っていた。


(……はぁぁ、まったく……驚いたのう。まさか初級の魔法でこれ程の威力があるとは。それもこれも、あの莫大な魔力からすると当然なのじゃろうが……それに恐らくは、キヨマサのイメージが普通では考えられぬ程に強いからじゃろうな)


 未だ咳き込んでいる清正に視線を向けて、内心で呟くデズモンド。

 イメージが強い。デズモンドはそう確信しているが、それは当たりだと言えるだろう。何故なら、清正は日本生まれの日本育ちなのだ。そうなると、当然としてテレビで様々な内容の映像を見て記憶している。

 だからこそ、こんなに容易に魔法を発動させる事が出来たと言っても過言じゃない。魔法を発動するにはイメージが最も重要なのだから。


「ゴホッゴホッ!…………すぅぅぅ、はぁぁぁぁ。ちょっとビビった」


「ふっ、ふふふっ、ほっほっほっ! なんじゃお主は。あれ程に凄いことを成しておるのに、ほんにちぐはぐな奴じゃのう」


 漸く落ち着いた様子の清正を見て、デズモンドは堪えきれないといったように笑い出す。

 清正の発動した魔法と、自身が放った魔法に驚きながら呟く様子が、デズモンドの笑いの壺にはまったようだ。

 そんなデズモンドに清正は、何が面白いのか分からず首を傾げる。

 その清正の反応を見て再度大笑いする。そして暫くすると漸く笑いも治まったようで、デズモンドは微笑みを浮かべたまま、長く大きいローブの袖から本を一冊取り出し清正に手渡した。


「何の本ですか?」


「土属性の魔法は、他の属性とは少し変わっておっての……火なら広範囲に高威力の魔法を放つのに重きをおく。水ならば、単純な水を用いた魔法に少しの回復と少しの毒性などといった汎用性。風なら身体の重さを軽くしたり、風の刃を放ち攻撃したり。……じゃが土属性は、あまり特筆する物は無いのじゃ。色々と便利ではあるがの。まぁ、そんな土属性にも奥義と言える物が存在しておって、それがその本に書いてある魔法じゃ。…………魔法名はゴーレム魔法と言う。他の属性とは違い、習得するのに長い時間を必要とする為に、ゴーレム魔法を好んで使う者は少ないがの。…………じゃが、お主ならば扱えるじゃろう」


(ゴーレム……確か、ユダヤ教の伝承に出てきた泥人形の事だよな)


 清正は、内心で自身が知る知識を呟きつつ渡された本を開く。

 だが考えていたよりもゴーレム魔法は複雑で、ちょっとしたイメージのみでは駄目だと判断する。

 何故なら、確かに清正が考えていた通り、泥のゴーレムもあるが……泥のゴーレムの上位に、岩のゴーレムがあり、更にその上位には青銅製のゴーレム、鋼鉄製のゴーレム、そしてダマスカス製のゴーレムと色々な種類が記してある。

 しかも泥のゴーレム以外は、プラモデルのように関節部も作らないと動作出来ないので、それも確りと考えねばならない。

 本に目を通しながら清正は、デズモンドが言ったゴーレム魔法を好んで使う者は少ないという意味に、納得したように頷く。


「確かにこれはイメージが大変ですね。人間には300を超える関節が存在します、それを一つ一つイメージするのは不可能。……ですが、ゴーレムに人間と同じ数の関節は不要です。と、すれば、形状にもよるでしょうが……例えば、鎧兜のゴーレムのような物ならば、150程の関節を作れば人間と同等の動きは可能だし、比較的簡単にゴーレムを錬成出来るかも知れません」


(ほう………理解するのが早いのう。……しかし、こうも簡単にゴーレム魔法の難しい点を……キヨマサの世界の教育は、エルドラドの世界よりも遥かに進んでおるのじゃな)


 内心で、清正の知識と地球の教育に感嘆の呟きを漏らす。

 だが、それも当然と言えるだろう。エルドラドでは、貴族や裕福な者しか学ぶ事が出来ないが、少なくとも日本の学生は中学生までは義務教育の為、最低限の知識は学ばなくてはならない。

 しかも、その最低限の知識でもエルドラドの世界にとっては、最高位の知識と言えるのだから。


「まぁ、儂は土属性では無いからの……ゴーレム魔法については、キヨマサ自身で試行錯誤してくれ」


「はい! 頑張ります!」


「ほっほっほっ。では、儂は狩りに行って来る」


 デズモンドは、清正が満面の笑みで答えるのを確認すると、笑いながら深い森の中へと姿を消して行った。

 そしてその背中を見詰めながら清正は、ワクワクとした子供のような表情で……いや、実際に子供に戻っているので、新しい玩具を手に入れた子供のようにと言った方が正しいだろう。

 その表情で、嬉しそうに呟く。


「このゴーレム魔法は凄いんじゃないか!? もしかしたら、10m以上の巨大なゴーレムも作れるかも……そしたら、そのゴーレムに乗って………清正、行きまーす!! とか出来るかも!!」


 某ロボットアニメを想像する清正。

 幼い容姿のお陰で、少しだけ緩和されてはいるが、その様子はニヤニヤとした表情のせいで少しだけ不気味だ。


「そうと決まれば先ずは泥から始めて、次に岩、そして青銅製、鋼鉄製、ダマスカス製……順序よく人形のゴーレムを錬成していこう! そして最後は……やってやるぜぇ!」


 空に向かって拳を掲げながら、そう宣言する。

 そして今日も魔道を極めんと、夜の帳が下りるまで魔法の鍛練に集中する。

 次の日も、その次の日も。飽きる事も無く、延々と。

 そうやって魔法の訓練を続けて1ヶ月が経過した頃、デズモンドが沢山の薬を纏めながら清正に提案する。

 その提案とは、このままこの場所で魔法の鍛練をするだけじゃ無く、魔物を狩ってレベルを上げたらどうかということだった。

 この世界のエルドラドには、レベルという概念が有り、魔物を倒すと魔物から命の一部が倒した者に流れ込む。そして、その命の一部がある一定を超えると、体から白い光を出してレベルアップをしたことを報せてくれる。勿論、レベルが上がると力や素早さ、体力等が上昇する。それに、レベルアップをすることにより、操れるゴーレムの数も上昇するので、清正にとっては必要不可欠だと言えるだろう。

 しかし、この周辺に存在する魔物は何れも強力なものばかりで、清正にはとても太刀打ち出来るものでは無い。となれば、ここ以外の場所に行かねばならない。


「それじゃあ、ここ以外の場所で俺に合う所が?」


「勿論あるぞ。前に言ったじゃろ? キヨマサと同じように、このエルドラドへと来た渡り人がいたことがあると」


「えっと……確か、少女でしたよね?」


「そうじゃ、その少女は沢山の知識を持っておっての。その知識を求めて多くの人々が少女の下へと集まり、やがて大人の美しい女性となった少女を女王として国が出来たんじゃ。………その国に、用があっての。明日、行くからお主も一緒に行かんか? お主の武者修行にもなるじゃろうから、暫くキヨマサはその国で活動すると良いじゃろ」


 デズモンドの提案は、清正にとっては益になることではある。

 エルドラドの世界の様々なことをデズモンドから聞いてはいるが、実際に目にして見るのと伝聞とでは大きく違うだろう。それにレベルを上げれば、清正が今目標としている巨大ゴーレムを錬成する助けになるのも事実だ。尤も、10mを超えるような巨大なゴーレムを錬成出来るかどうかは清正次第だが……と言うより、今迄エルドラドに存在した土属性魔術師には、そんな巨大なゴーレムを錬成した者はいないが。

 ともあれ、清正はデズモンドの意見を聞いて、納得したように頷く。


「俺を雇ってくれるような職場がありますかね?」


 清正は身分を保証するような物は持っていない。そうなれば、清正を雇ってくれる者はいないだろう。

 そう考えて、不安に思いながら尋ねる清正に、デズモンドがニヤリと笑みを浮かべて答える。


「キヨマサに合う良い仕事があるぞ……冒険者じゃ。魔物を倒してレベルも上がるし、金も稼げる。お主にとっては一石二鳥じゃろ」


「冒険者?」


「そう、冒険者じゃ。詳しい話は冒険者ギルドで聞くといい。……どうする? 行くか?」


 そう挑戦的な笑みを浮かべながら問うデズモンドに、清正はワクワクとした笑みで答える。


「勿論! 経験を積んで最高のゴーレムを錬成してみせますよ!」


「ほっほっほっ、楽しみにしとくわい。……キヨマサの魔法なら問題無いじゃろうが、けっして油断してはならんぞ。魔物も恐ろしいが、人も恐ろしいからな」


 そう、魔物は種類にもよるが、人にとっては脅威には違い無い。しかし、人も同じように……いや、時として人は魔物よりも残忍で恐ろしくもあるのだ。

 しかも、ここは地球の日本ではない。そうなると当然として、治安は比べるまでもなく悪いだろう。

 そして、清正は魔術師だ。魔術師の数は非常に少ない。その為、魔術師を自分の手元に置こうとする権力者や、冒険者は多い。

 そのことも注意しなければならないし、デズモンドにも何度も言われている。


「……そうですね。肝に銘じておきます」


「うむ、それが賢明じゃな。……では、今日は早めに寝るとしようかの」


 デズモンドに頷いて返答すると、清正は自身に宛がわれた部屋へと行き、何時もよりも早めの就寝についた。


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