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体の変化

「____それでなんとか大学を卒業したんです。それからは故郷の田舎に戻って……」


 清正はこれ迄歩んできた人生を順序よく話していく。

 その間デズモンドは、清正の話に出てくる車やテレビ、携帯などの機械製品の事に驚くも、一切口を挟むことはなかった。

 勿論デズモンドからしたら荒唐無稽の話で、信じられないという思いも十二分に有ったのだろうが、清正が真剣な表情で話すのを見ると、虚言では無いと判断したようだ。それに言語魔法で清正の扱う言語を理解したという事も有り、そう結論付けたのだろう。


「……あれ?……故郷に戻って……そうだ! 俺は雷に打たれたんだ!」


 清正の話が進み漸く先日の所迄きた時、自身に起きた出来事を思い出した。そう、雷に打たれて死んだ事を。

 だが、今こうして生きてデズモンドにこれ迄の人生を語っている。その事を不思議に思い、自分の体に視線を向けて驚愕する。


「な!?手が、足が……体が縮んでる!?」


 そう今の清正の体は、精々15歳前後と言ったところだ。とても28歳の成人男性の体とは思えない程に幼い姿に成っている。勿論、体だけでなく顔もそうだ。元々中性的な顔をしていた事もあって、かなり幼く見えるのだが、鏡が無い事によってそれには気が付かない清正。

 そんな風に再度混乱し始めた清正に、デズモンドが静かに声を掛ける。


「落ち着くんじゃ……少し待っておれ」


 そう声を掛けると座っていた椅子から腰を上げて、清正を部屋に残し出て行くデズモンド。

 そして数分後、手に水が入った桶を持ってデズモンドが部屋に戻って来た。


「儂は鏡を持っておらんからな。すまんが、これで自分の顔を見てくれ」


 自分の手を、足を、体を、ただただ呆然と眺めていた清正に静かな口調で桶を手渡す。

 その桶を受け取った清正は、恐る恐る桶に入った水面に自身の顔を映す。

 そして驚愕する。体だけではなく、顔も幼くなっている事に。しかも、髪が雪のように真っ白になっており、瞳の色は燃え上がる炎のような真っ赤な色へと変貌している。


「……なんで……」


 最早言葉すらまともに出てこない程に、清正の頭の中は混乱する。いや、より正確に言い表すと、思考が停止した、そう言った方が正しいだろうか。


「キヨマサよ。お主の話を聞いて、儂なりに推理してみたのじゃが……落ち着いて聞くんじゃぞ。正直言って、儂も少し混乱しておるが……」


 清正は何も言葉を発さず、ただ無言で頷く。水面に映る自身の顔を見ながら。


「恐らくお主は……渡り人じゃろう。渡り人とは、異なる世界からやって来た者の事をそう呼ぶ。今から八百年前に一人の少女がお主と同じ様に、この世界、エルドラドへとやって来たという。しかし、その少女はお主の言う地球からではないがの」


「……エル……ドラド?……ここは地球じゃないんですか?」


 清正はデズモンドの説明を受けて、手や足や声を震わせながら尋ねる。

 その問いに、デズモンドはゆっくりと頷く事で答えると、更に言葉を続ける。


「その少女は……お主には酷な事実じゃろうが……少女は自分の世界に帰ろうとしたようじゃが、結局は帰る事は出来ずに、このエルドラドで生涯を終えたそうじゃ」


 死んだ筈なのに生きている、髪が雪のように白くなり目は燃えるような真っ赤な色へと変わっている、体が15歳前後まで幼くなっている、地球ではなく異世界に来ている、それら幾つもの出来事が清正の理解出来る許容範囲から飛び出し、体力を失って弱っている清正を再度眠りへと誘う。


「キヨマサ! ……………気を失ったか……じゃがそれも当然じゃろうな。突然何時もの日常が一変したのじゃ、しかも幾つもの理解出来ぬ事柄が起きて……可哀想に……」


 気を失いベッドに倒れた清正を見ながら、デズモンドは哀れみつつ呟く。

 そして、事実を話すのは清正がもう少し回復してからが良かっただろうと、そう考えて反省しながら部屋を出て行った。







 清正がデズモンドと話している最中に気を失ってから13時間後。辺りは既に夜の闇に包まれていた。

 デズモンドの暮らすこの場所には、デズモンド以外の人間は一人も居ない。それに、デズモンドの家を囲むように、背丈の高い巨大な木々が連なっているせいで、色々な意味で暗くなっている。

 そんな中、清正は目を覚ました。

 そして屋外に出ると、唯一の光源の月を見上げる。


「……本当に地球じゃないんだな」


 悟ったように呟く清正。

 夜空には大きな丸い月が2つ。そう、1つではなく2つだ。

 その2つの月を眺めつつ、デズモンドとの会話を思い出す。


(…………エルドラドか………もう故郷には帰れないんだろうな。……普通なら、俺は死んでる筈だ。だけど、こうやって生きて呼吸出来ている。思考出来ている。空を見上げていられる。……そう考えると、何も悪い事ばかりじゃ無いな。むしろ魔法の存在する不思議な世界に来れたんだ、そんな面白い体験をする事なんて通常出来る筈も無い。……そうさ! 1度死んでる身だ! 俺は幸運な方だな!)


 暗い考えを捨て、生きているという幸運に感謝する。そして、魔法という奇妙奇天烈な物が存在する世界に来れたという事にも感謝する。

 しかし、やはりと言うべきか……幾ら明るい方向へと思考を切り替えても、完全には切り替えられずに、空の月を見上げる清正の目から一滴の涙が溢れる。

 その涙の意味が、両親が眠る愛すべき故郷へと向けられた物か、あるいは両親の残してくれた土地や家や思い出深い品々に向けられてか……それは分からないが、確かに清正の目からスッと一粒の雫が地面へと落ちた。

 そんな清正の背後から、優しい声音が響く。


「キヨマサよ……大丈夫か?」


「あ、すいません。ご迷惑をお掛けして」


「気にするで無い。色々と理解出来ぬ事もあるじゃろうが……」


「ははは、もう大丈夫です! 確かに驚きました……けど、今こうして生きていられるんです。それだけで幸運ですよ。デズモンドさん、助けてくれて有り難う御座います」


 どこか吹っ切れたように笑いながら礼を述べる清正を見て、デズモンドは優しく微笑みながら頷く。


「そうか……そうじゃな。命有ってこそじゃからな」


 デズモンドはそう呟きながら、再度深く頷く。

 そして、清正の目を見詰めながら言葉を続ける。


「腹も空いたじゃろう? それに夜の森は冷えるからの、家の中でスープでも飲んで体を暖めると良い」


「そう言われると……ははは、何だかお腹が空いてきましたね」


「儂の自慢の料理じゃ。きっと気に入るぞい」


「はい!」


 デズモンドに促され屋内に入り、デズモンドの言う自慢の料理を食べる。

 白身魚を焼いた物、赤や黄の色鮮やかな野菜を煮込んだスープ、そして少し硬いが香ばしいパン。それらを次々に胃に入れていく清正。そのさまは、まるで掃除機だ。


「ほっほっほっ、良く食うのう」


「モグモグ、ムグ………すいません、何だか食べても食べてもお腹が一杯にならなくて」


 もう既に三人前は食べているのだが、それでも清正は満腹になっていないようだ。

 そんな清正へ、デズモンドは微笑みを浮かべながら尋ねる。


「キヨマサよ、お主……儂の弟子にならんか?儂はこれでも八百年前には一国の宮廷魔術師をしておった程じゃ。師としては申し分無いと思うがのう」


「俺を魔法使いの弟子にですか?……て言うか、デズモンドさんって何歳なんです?」


「幾つになるんじゃったかの……まぁ、少なくとも千年は生きておるな」


「ははは、エルドラドジョークですか?」


「いやいや、本当じゃよ」


 ジョークか? そう尋ねるが、デズモンドは然も当然のように答える。

 その答えを聞いて、目を見開きながら食の手を止める清正。


「……もしかして、エルドラドの人は千年以上生きるのが普通何ですか!?」


「ほっほっほっ、儂だけじゃよ。普通の人間族は、長くても百年前後じゃ。エルフ等は長くて五百年は生きている者もおるがの」


 デズモンドの言葉を聞いて、再度驚く清正。

 百年前後という寿命は地球の人間と変わらない、だがエルフという存在が居ることに驚く。

 映画や小説、そしてゲームでは定番のエルフ。それがエルドラドでは存在する。その事に清正は驚いている。


「それじゃあ何故デズモンドさんは千年も生きていられるんです? 突然変異とかですか?」


「いやいや、魔法じゃよ。刻一刻と老いていく、その時を止める魔法のお陰じゃ。今では失われた秘術じゃな」


 老いを止める魔法。それが本当なら、永遠に生きられるという事になる。尤も、デズモンドが嘘を言う必要も無い事を考えると、恐らく本当の事だろうが。


「す、す、す」


「す?……どうし」


「スゲェー!!!」


「な、なんじゃ、突然。心臓が止まるかと思ったわい」


 突然大きな声を上げる清正に、デズモンドは自身の胸を抑えて飛び上がるように驚く。

 そんなデズモンドの様子を気にせず、清正は尚も高いテンションで喋る。


「魔法ってスゲェー!! デズモンドさんスゲェー!! デズモンドさんの弟子になったら俺も魔法使える様になれるですか!?」


 月を見上げていた時とは違い、清正は心の底から楽しそうに笑いながらデズモンドに尋ねる。

 そんな、一見すると祖父に物をねだる孫の様に興奮している清正に、デズモンドは呆気に取られつつ返答する。


「ま、先ずはお主が魔法を発動出来るか調べねばならんが……まぁお主から感じる魔力は、恐らくエルドラドの長い歴史の中でも最高の物じゃろうから大丈夫じゃろう。ちょっと待っておれ、属性を調べるオーブを持ってくるからの」


「属性? オーブ?」


 何だそれ? そんな疑問を浮かべつつも、未だ興奮冷めやらぬ清正。

 ソワソワと忙しなく、あんな事をしたいこんな事をしたい、と色々と妄想しながら待っていると、デズモンドが拳大の水晶を手に持って戻って来た。

 そして、その水晶を清正に手渡すと、清正とは違って冷静な口調で説明をし始めた。


「その水晶の名は、イグザァミィン。魔法を発動出来る者の、属性を調べる事が出来る物じゃ。キヨマサよ、水晶に手を当てて魔力を流すのじゃ」


「……魔力を流せと言われても……どうやれば?」


 どの様にすればいいのか分からず、自身の手を見詰めながら首を傾げる清正。

 中性的な顔のせいで、見る者によっては女だと勘違いされてしまうかも知れない。

 そんな清正の仕草を見たデズモンドは、優しく微笑みながら口を開く。


「それ程に強大な魔力を溢れさせながら……いやはや、何とちぐはぐな存在なのじゃ。……取り敢えず水晶に手を当てて、その手にエネルギーを送るイメージをするのじゃ。魔法とはイメージが一番重要な物じゃからな。極端な話、イメージが確りしていれば魔力を自由に扱えるし、魔法も呪文無しに発動出来る」


「イメージ……分かりました」


 デズモンドに促され、清正は水晶に手を当てると、ゆっくり目を閉じる。そして、強く確りとしたイメージを固める。

 すると自身の手の平を伝って何かが水晶へと流れていくのを感じとり、目を開けて水晶に視線を向けると、薄い青色の水晶は茶色へと変化していた。

 水晶の色の変化。それはつまり、清正の属性を表していた。


「おお!? デズモンドさん、これは?」


「ふむ、珍しいのう。通常であれば二属性は反応が有るのが普通なんじゃが……キヨマサは土属性特化のようじゃな」


「土属性特化……それって土属性以外は使えないって事ですか?」


「いやいや、属性は、と言う意味じゃよ。土、水、火、風、この四つの属性では、キヨマサは土属性のみしか使えんが……錬金術、治癒術、時空間術、等々の四属性以外なら、キヨマサ次第では使えるようになるじゃろ」


 デズモンドの説明を聞き、ほっと胸を撫で下ろす清正。自分は土属性しか魔法を使えないのかと、少しだけ不安になっていたのだろう。

 そんな清正に、デズモンドは更に説明を続ける。

 その説明は以下の通りだ。

 通常の魔術師は、自身の属性のみを鍛え上げるのが普通なのだが……と言うより、自身の属性を鍛えるので精一杯なのだが、希に魔法の素質が有っても属性を持っていない者も存在する。その希に現れる魔術師達が、四属性以外の魔法の道に進むのだそうだ。

 そして、説明は魔法だけに留まらずエルドラドの情勢や国の仕組みにまで移行する。

 現在のエルドラドでは数年ごとに戦争が起きているそうだ。ただ、大きな戦と言うよりも小規模の戦しか起きていない為、そこまで危惧するものでも無いらしい。

 次に、国の仕組みについてだが……王政の国が殆どで、貴族も居るそうだ。そして貴族の中には、自分の権力を使い好き勝手に振る舞う者も存在するらしい。尤も、民衆の為に、知力、財力、権力、等の自身が使える物をフルに使用して、領地を豊かにしようと努力している貴族も勿論存在しているらしいが。

 とにかく、デズモンドが言うには、貴族には注意しろ、との事だ。


(平和な日本とは大違いだな……いや、地球規模では戦争は普通の事か……)


 そう内心で呟きつつ、眉を顰める清正。

 確かに清正の言う通り、地球規模で考えると戦争は珍しいものでは無い。だが、平和な日本で暮らしていた者にとっては戦争などテレビのニュース、映画やドラマ、小説や漫画、そういった物でしか目にする事も無く、どこか遠い世界の出来事の様に感じるのは当然だろう。


「何か聞きたい事が有るなら明日にしようかの。もう夜の闇も深い」


「そうですね。……デズモンドさん、有り難う御座います。お休みなさい」


 清正はデズモンドに、助けて貰った事と良くしてくれる事、更には弟子にしてくれた事、それらに深く感謝の意を表し、深く深く頭を下げる。

 そして、デズモンドに与えられた部屋へと移動すると、魔力制御の為にイメージでの訓練をして、眠りについた。

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