確かな性能
薄暗い森の中を、新たなゴーレムを伴って進む。自身のレベル上げのため、自身が新たに生み出したゴーレムの性能を確かめるため。
しかし、昨日は嫌になるほどの数のゴブリンが森の中を彷徨いていたが、今日に限って、その緑色の皮膚を持つ魔物は一切姿を見せてはいない。
その事実にエイトは、若干イラつきつつ周囲に視線を巡らす。
(……やっと見付けたぞ。とは言っても、これは……魔物なのか?)
やっと獲物を見付けられたものの、エイトの視線の先にいる生物は……およそ人を襲いそうもない外見をしている。
ピンク色の毛皮に、ピンと伸びた耳、そして何より、無害そうな印象をこれでもかと与える円らな瞳。
どこから見ても………
(ウサギだよな。………いや、意外と魔物の可能性もあるか?)
内心で疑問に思うが、ウサギは逃げもせずにエイトへと円らな瞳を向け続けている。
(いやいや、たとえ魔物だとしても……これは無理だ。とても殺せないな)
実際、目の前のウサギが魔物であったとしても、新しいゴーレムの性能テストには不向きだろう。
体長2mのウサギだと言うならば話しは別だが、見た目は普通のウサギなのだ。とても戦闘になるとは思えない。
エイトも同様の結論に至ったのか、ウサギから背を向けて歩き出す。
しかし、そんなエイトへとウサギがピイイと大きく鳴いて止める。
「なんだ、寂しいのか? それとも腹が減って人参でも欲しいの?」
仮面の下で苦笑しつつ、市場で買った野菜を空間倉庫から取り出そうとするエイト。
既にエイトは、目の前のウサギを魔物ではなく動物だと判断している。見た目が見た目なため、その判断も分かる。
だが、そんなエイトの周囲から次々と何者かの足音が聞こえてきた。
一つ二つといった数ではない。10を超える足音だ。
しかし、その足音は人間が出す規則正しいものとは違う。例えるならば、犬、猪、鹿、といった四本足の足音。
その事に気が付いたエイトは、ゴーレムを魔素には戻さず、戦闘体制をとりながら構える。
(動物か、はたまた魔物か………いや、動物だったとしても肉食ならば戦闘になるだろうな)
未だに足音だけを響かせ姿を見せていない者達に向けて、エイトは鋭い視線を向ける。
「うわぁ………熊かよ。でも、俺が知ってる熊とは違うな」
森の木々の隙間から姿を現したのは、茶色でもなく、黒色でもない、血のような赤い色をした毛皮を持つ熊。
その熊は、エイトが知っている熊とは随分異なる容姿をしている。
赤い毛皮も勿論そうであるが、腕と足が硬そうな鱗で覆われている所が一番の違いと言ってもいい。
エイトは、その熊を一目見ただけで魔物だと判断する。外見から動物だと思うには禍々し過ぎるからだ。
「殺れ、シュツルム! カヴァリエは防御陣形を取れ!」
10体程の熊を前に、エイトは怯む事もなくゴーレムへと指示を飛ばす。
ゴーレムカヴァリエは素早く主人の……つまりは、エイトの周囲をグルリと囲うように防御体制を取る。
ゴーレムシュツルムは、防御体制を取るゴーレムカヴァリエとは反対に3体と数は少なさいが、木の根や倒木などで不安定な地面をものともせずに縦横無尽に駆け回りながら熊の目や喉を中心に攻撃を仕掛け始めた。
銅製のカヴァリエと違い、シュツルムは鋼鉄で出来ている。その為、薄い装甲でもカヴァリエと同等の強度を持ち、カヴァリエの数倍の素早さを実現している。
その素早さで、赤い毛皮を持つ熊の力強い腕振りを軽やかに回避し、それと同時に日本刀を想わせる三本の鉤爪で目や喉を中心に斬り裂く。
その様は、薄暗い森の中という事も相まって、力はあるが動きが鈍重な熊には目にも止まらぬ物となっている。
やがて、一つ、二つ、三つ、という風に地面に倒れ動かなくなった熊の魔物がエイトの目に付く頃になると、辛うじて生存していた熊達が逃走を始めた。
「シュツルムよ、逃がすな!」
エイトは自身に背を向けて走り出した熊へ向けて、新たに生み出したゴーレムの成果を確信しながら、シュツルムに追撃の指示を出す。
確かにシュツルムの成果は上々と言える。いや、エイト自身が考えていたよりも遥かに高い成果があったと言えるだろう。
何故なら、シュツルムは魔物の攻撃を一度たりとも受けなかったからだ。
幾らスピード重視のゴーレムと言えども、カヴァリエの戦闘とは雲泥の差があった。
だが、それにしてもシュツルムの性能は高過ぎる。
銅製から鋼鉄製に、攻撃と防御の両方からスピード重視に__と言っても鋼鉄製な為、強度は同等だが__変えただけだ。普通なら有り得ぬ事だと言っても過言ではない。
では何故これ程の性能の差が生じたのか。
実はエイトの戦闘に対しての心持ち次第で、ゴーレムの動作に多少の変化が生じているのだ。
多くのオーク、それを束ねるオークキングとの戦い。二度の死を予感させた魔物達との戦闘。それらの戦いを経験し、生き残ったという事実がエイトに少なくない自信を持たせていた。
それが今回のゴーレムの異常な性能の向上に繋がっているのだ。
本来ならその事に気が付いただろうが、今のエイトは戦闘が予想以上に上手く運び過ぎた事で気付く事は無かった。
そんなエイトは、カヴァリエに周囲の警戒をさせつつ、片手に本を持ちながら赤い毛皮を持つ熊の魔物の解体を始める。
「この熊の魔物の事は書かれていないな。……あっ、体が光ってる!? ………レベルが上昇したんだな」
逃走した魔物をシュツルムが仕止めたのだろう。その事をエイトの体が淡く光を放つレベルアップという事象が示している。
それを仮面の下で笑みを浮かべつつ確かめると、魔物の解体を続けていく。
今回の魔物はオークやゴブリンと違い、毛皮も使えそうではあるし、肉も食用になるだろう。
そうであるならば、当然解体は容易ではない。魔石を取って終了とはならないからだ。
そうなると必然的に解体にかかる時間は飛躍的に上昇する。
その事に気が付いたエイトは、先程とは違って心底嫌そうな表情を仮面の下に浮かべつつ口を開く。
「………今日はこれ以上の戦闘は無理だな。……解体で日が暮れる……」
エイトは嫌そうにしつつも解体を始める。
先ずは血抜きから……とは言うものの、もう既に魔物は死んでいる。そうなると、満足に血抜きは出来ない。
その為、熊の首を半分切り裂き、ゴーレムカヴァリエに手伝わせて木に逆さまに吊るさせる。重力の力を借りる為だろう。
そして血抜きが終わると、逆さまのまま慎重に膀胱と腸を取り出していく。食肉にする為の解体では膀胱と腸を傷付けてしまうと、その臭いが肉に移り、食肉に的さなくなる。最も重要な工程だと言える。
エイトはその作業を無事に終えると、毛皮を丁寧に剥いでいく。もっとも、エイトは丁寧にやっているつもりなのだが、如何せん、まだまだ経験不足のせいで毛皮に不要な傷を幾つも付けてはいるのだが。それは仕方ない事だろう。
次は余計は内臓を取り除き、魔石を取り除く。
その頃には薄暗い森の中に、微かに夕焼けの赤い日差しが降り注ぐ時間帯になっており、最後に魔物の手、足、胴体に切り分けた時は漆黒の闇が訪れていた。
「はぁぁぁ………疲れたぁ。俺の解体技術がマシになった時はゴーレムにも手伝って貰おう。でないと……戦闘よりも解体に時間が取られるからな」
血だらけになった手を、空間倉庫から取り出した水筒で洗いながしつつ呟くエイト。
ゴーレムの制御数は、エルドラドに存在する土属性魔術師では二体から三体が限度になっている者が殆どだ。何故なら、従来の制御方法が自分自身で逐一ゴーレムをコントロールしているからだ。
一方のエイトは、ゴーレム一体一体に、簡単ではあるがAIのような自我を持たせている。ただ単純に、立つ、歩く、走る、屈む、といった事は勿論の事、エイトが身に付けた、剣道、薙刀、空手、柔道、といった戦闘技術に至る迄。
そして何よりも重要な、人に対してどう対処するかという事も。
故に、エイトはゴーレムを10体以上も同時に運用出来るのだ。
今迄のエルドラドでは、そんな制御方法など存在はしなかった。地球出身のエイトだからこその発想。制御方法だと言える。
普通そんな制御方法など、エルドラドの魔術師が聞いたら耳を疑う様な技術なのだ。
ともあれ、そうなると解体を現在のゴーレムにやらせると、未熟なエイトの解体技術のまま、ゴーレムにプログラムされてしまう訳で……必然的に、解体の質は悪くなる。
それを打破するには、エイト自身の解体技術の向上が基本になってしまうのだ。
「さっさと空間倉庫に全部入れて、帰るとしますか。………あっ、その前にギルドに行って依頼の薬草を出さなきゃな。それに、今日狩った魔物も」
長時間の解体が終わり幾分か疲れた様子のエイトだが、レベルアップの恩恵の為か、以前なら疲れて動けなくなっていただろうが、比較的、軽やかな足取りで真っ暗な森の中を進み出す。
流石に、連日足場の悪い森の中を歩いているだけに暗闇の中でも足をとられる事もない。
とは言え、昼間程には素早く進む事は出来なかったが、それでも二時間程で森の外へと出る。
その後は月明かりを頼りに、ブリッツの街へ向けて少し冷たい風を仮面を外した頬に感じながら帰路へと着いた。
書き貯めていた話数が………。全部で15話もあったのに……全て消えてしまった。
メチャクチャ悔しいです! 一気に更新したかったのに!
余りに悲しくて、一ヶ月以上も放置してしまいました。すんまソンm(__)m




