7章 鍛錬に勤しむ勇者
「朝から随分熱心に取り組むんだね……どうしてそこまでするの?
アル君、勇者っていうくらいだから凄く強いんでしょ?」
10分程面白そうに俺を見ていた綾奈が声を掛けてきた。
「……俺なんかまだまださ。現にアイツとは相討ちに持ち込むのが精一杯だった」
溜息と共に柔軟を終え、聖剣を手に型を振るう。
目を閉ざし夢想する。
思い描くは最終決戦。
人としての枠を、生物の限界を超えたあの闘い。
泰然と俺達を迎え討ったアイツ。
圧倒的な力で俺達を退けるアイツの風格はまさに女王と名乗るに相応しかった。
でも単独で及ばすとも、皆の連携がアイツを捉えたのは確かだ。
俺はこの異界の地で連携に代わる何かを見出さねばならない。
「あんまり深く聞いちゃいけないかもだけど……アイツって?」
「魔族の女王<暗天邪ミィヌストゥール>。
人類に仇為す、最悪の災厄。
俺は……俺達<百人の勇者>は、アイツを討伐する為に選抜された最終戦力だったんだ。
結果は俺以外全滅。
かろうじて相討ちに持ち込むのがやっとだった。
しかしそれすらも怪しくなってきたがな。
俺がこうして生きてる以上、おそらくアイツもこの世界にいる筈だ」
迷いを断ち切る様にただ剣を振るう。
足りない。
相性があるとはいえ、人としては限界まで鍛え上げた自負がある。
だが今の俺では禁忌の< >を使い位階を上げても根本的なスペックを埋められない。
「ごめんね……聞きにくい事をズケズケと……」
「そんなことはないさ。
異世界に飛ばされたのは驚いたが、武藤翁……そして綾奈を助けられた。
それだけでも俺がここにいる意味は無駄じゃなかった」
剣を振るう手を止め、項垂れる綾奈の頭を撫でる。
くすぐったそうに目を閉ざす綾奈。
「もうアル君ズルイ! そんな事されたら女の子はドキドキしちゃうんだよ?」
「え? いや、こうすると御婦人が喜ぶって仲間が……」
「喜ぶけど、無自覚な女垂らしは駄目! 女性の敵!
あっちこっちでフラグを立てたら本命ルートで好感度が足りなくなるんだよ?!」
「すまない……よく分からないけど謝る」
「ん。素直でよろしい。でもさっきの様な行為はあんまりしちゃ駄目」
「はい」
「よしっと♪ じゃあそろそろ朝御飯を食べに行こう。
恭介さんがアル君を呼んで来て下さい~というのが本題なのをすっかり忘れてた」
てへぺろ。
したり顔で頭を小突く綾奈。
後ろ手に持っていたタオルを差し出してくる。
俺は苦笑すると受け取ったタオルで汗を拭い、綾奈と共に部屋へ戻るのだった。