6章 少女に戸惑う勇者
身内に不幸があったので少し更新が停滞します。すみません。
「おはよ、アル君。早いのね」
朝の日課である柔軟を兼ねた鍛錬を行ってると、パジャマ姿の綾奈が声を掛けてきた。
「おはよう、綾奈。昨晩は眠れたか?」
「ううん。正直、あんまり」
「やはりな。ああいう目に遭ったんだ。無理はない」
幾分か憔悴した様な綾奈の面差しを見て俺は頷く。
昨晩からの経験を踏まえるに、この世界、特に日本と呼ばれるこの国の治安はとても良い。
おそらく綾奈も害意ある者に襲われたことなどないのだろう。
俺のいた世界では腕に覚えがあるか、冒険者以外の女性が深夜に外出するなどトンデモナイ事だ。
武藤翁達と共に歩き、ここへ来た道筋。
科学と呼ばれる魔法じみた技術の恩恵を受け、明るく照らされた街道。
自動車という、誰しもが操れる馬さえいらない便利な移動手段。
遠く離れた人へ魔力すら必要とせず話す事のできる電話。
この世界は本当に魔法の王国のようだ。
武藤翁と飲み明かして得た情報の数々を思い出す。
戦争に負けてから経済で世界に進出した国。
利便性を求め国民が必死に抗った国。
うら若き女性が夜中にひとりで歩ける国。
本当にこの日本という国は安全で豊かだ。
俺のいた琺輪世界もいつかこんな国になれるだろうか?
「うん。でも……夢見は悪くなかったよ。
やっぱアル君に助けてもらったからかな?」
「残念ながら、白馬に跨った王子様じゃなかったけどな」
「えー充分カッコ良かったよ♪
そうだね……思わず彼氏にしたくなるくらい」
悪戯っぽく微笑み、俺を見やる綾奈。
幾つになっても女は魔性だ。油断はならないな。
「はいはい。話半分くらいに聞いておくよ」
俺は綾奈に肩を竦め苦笑すると、中断してた鍛錬を続けるのだった。