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54章 慟哭に対する勇者

「それは……」

「ああ、これ?

 私も驚いたけど、剣に宿る付喪神だったんでしょ?

 貴方達を追い詰めたら颯爽と現れて邪魔してくれたわ。

 まぁ、今は力を使い果たしたのかクズ鉄になったけど」


 小馬鹿にするように嘲笑する名無。

 衝動的に駆け寄ろうとした俺を制し、足元のソレを場違いなほど綺麗なヒールで踏みつける。


「まったく何処の馬の骨か分からないけどいい迷惑だったわ。

 貴方達を取り逃がすし、ヘルエヌ様から授かった手勢を八割も失ってしまうし。

 でも、今はこんな様。

 そういえば女性の姿をしてたけど貴方の恋人だったのかしら?」


 口元に浮かぶ歪んだ半月。

 狂気と執念と情動が名無から理性を剥ぎ取っていく。


「まったく……何で何もかも上手くいかないのよ!

 ヘルエヌ様は失望されるし、同僚には馬鹿にされるし、仕事は毎日馬鹿なガキ共のお守りばかり……もうウンザリだ!!」

「それはアンタが世界を恨むだけで何もしないからだ。

 世界は残酷で無慈悲。

 だからこそ人は必死に抗う。

 漫然とチャンスを待ち受ける愚か者に機会は訪れない」

「ウルサイ! ガキがしたり顔でほざくな!」

「世界を呪うな、先生。

 世界を呪う者の末路はすべからく破滅する」

「何それ? ヘルエヌ様に選ばれた私の将来は栄光に満ち溢れてるのよ」

「アンタは……救えないのかもな」

「ああ? 

 誰に向かって何を語ってる?

 身の程を弁えなさい。ホント煩わしいわね。

 お前達はちゃんと私の思い通りになればいいんだ!

 何故逆らう?

 ちゃんと服従しろよ!

 全部私の理想になれよ!

 そうでなければ……こんな世界など、何もかも上手くいかないこんな私など……

 イラナイ。

 全部壊れてしまえばいい!!」


 アレは……マズイ。

 禁断の秘術の影響なのか自我の境界線が曖昧になっている。

 正確にいえばヘルエヌの洗脳術式と心が一体化し始めてる。

 あの腐れ外道、やっぱり信望者にも術式を埋め込んでやがった!


「ゴッ……ガフ……えぶっ???」


 口元から赤いモノを咳き込みながらも膨大な力が名無の身体から解き放たれる。

 しかしそれは命そのものを絞り出すような無茶な抽出法。

 術者の負担をまったく考慮してない。

 現にこうしてる間にも名無の髪は白く染まり身体には皺が覆っていく。

 だが割って入ろうにも渦巻く力の本流が俺を遠ざけ近寄らせてくれない。


「先生! 心を強く持つんだ!

 そのままでは術式に飲み込まれる!!」

「やだ……何コレ?

 こんなのやだ……お止め下さい、ヘルエヌ様……

 このままでは私、死んでしまいます……」


 哀願する名無に応じられたのは無情にも術式の継続。

 命を切り捨てられた絶望が名無の相貌を過ぎる。


「先生!」

「やだ……助けてよ、アルティア君……

 誰でもいいから……早く……早く……

 助けてええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


 嘆きの慟哭を糧としてついに術式が顕現する。

 煌びやかな装飾に彩られた上半身を持つ鎧騎士。

 しかしそれと相対するかのように醜悪な汚泥で形成された下半身。

 見せかけの外見と醜い内面が顕在化したかのようなカリカチュア。

 生死が定かでない名無を内包したソレは音なき鬨の声を上げる。

 俺は戦闘態勢に入りながらも様子を窺うことしかできない。

 何故なら顕現したのは魔族。

 聖剣の補助もなく単独での、おそらくは中位指揮魔族ビショップクラスとの対峙だった。




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