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169章 事前に対策す勇者


「王国内に裏切り者がいるの」


 目を閉ざしたコノハがゆっくりと開眼する。

 その瞳に圧倒的な神気を宿しつつ。

 託宣の間に清浄でありながら重厚で荘厳な気が満ちる。

 トランス状態のコノハを見るまでもなく、旧神たるサクヤの憑代となったのだ。

 俺達を睥睨したサクヤはにっこり微笑みつつ、急に表情を曇らせその言葉を吐き出した。

 突然の告白に驚いた俺は思わず尋ね返す。


「裏切り者?」

「そう。内通者といってもいいかも」

「ホントかよ……

 一国の存亡の危機だというのに……」

「信じられないかもしれないが……

 咲夜様のおっしゃることは本当だ、アルティア殿」

「楓……」

「残念ですが幻朧姫様の指摘通りでしょうね。

 昨日の陽動の隙を突いてくる様子を見るまでもなく、

 ここ最近の王国軍は裏を掛かれ過ぎです。

 しかも明らかに指揮系統から作戦目標までもが暴露されてしまってる。

 これは由々しき事態と言わざるを得ません」

「恭介……」

「防諜は……してないの?」

「無論してるとも」

「ええ、しかし諜報活動をしても根底から覆されてしまうのです。

 何故だか分かりますか?」

「いや、分からない」

「それはね、おにーちゃん。

 GM権限の差なんだ」


 当惑する俺にサクヤは申し訳なさそうに応じる。

 聞き慣れないその言葉に俺は再度尋ねる。


「GM権限?」

「ゲームマスターが持つ全十層からなる権限事項の事。

 オンラインゲームに現実を上書きしたここカムナガラでは、

 その権限は全能にも等しい効力を持つの」

「でもそれって確か、サクヤも持ってたよな?」

「うん。だけどあたしがヘルエヌから守り切れたのは第七層までの開示効果まで。

 情報システム<オラクル>にアクセスする権利と

 プレイヤー情報を含むアバター事象の改竄までが限界」

「充分大層なもんだと思うが」

「気持ちは嬉しいけど、そんなことない。

 第八第九層になるとシステムに干渉することすら可能なんだよ」

「え、それってもしかして……」

「そう。ミーヌおねーちゃんが気付いた通り、

 ヘルエヌはこの権限を以ってこの世界に銃器という概念をもたらした。

 他にも色々やってるだろうしね。

 あたしがオラクルを死守してる所為で情報面では優位に立てる。

 けどね、上位権限を持つヘルエヌはシステム毎書き換えてくる事すら可能なの。

 Aという位置にいた集団をBへと変更するように。

 現にあたしは昨日の救援要請を『読んで』いた。

 このコノハを通して恭介達を救援に行かせたのも、

 他に特筆すべき侵攻はないと知っていたから大丈夫だと判断した。

 でも実際は恭介達が出払った隙を突いての大規模侵攻でしょ?

 情報戦では劣っているヘルエヌだけど、内通者を通せばこちらの大まかな動きは推測できる。

 そうして動向を窺ってから行軍の采配を行える。

 言うなれば後出しのじゃんけん。

 ヘルエヌはこちらの出方を見た上で、更に有利にどう動くかを決めれるの。

 正直ズルイよ……」


 唇を噛み締めたサクヤが悔しそうに呟く。


「まあ幸いな事に飛躍した力を持つ神名担の勇者達の力もあり、

 今までは辛うじて均衡した戦線を維持出来てましたが」

「けどそれももう限界。

 おそらく後一週間で破局を迎えるね。

 だからこその守護者を交えた諸国会議なのだけど……」

「敵もぬるくはないってことか?

 軍備を増してる反面、今の現状って

 考えによっては主要各国の重要人物を一挙に潰せるチャンスだもんな」

「流石はおにーちゃん、その通り。

 しかも信じたくは無い事だけど……オラクルネットワークが事実なら、ここゼンダインに銃器が密輸されてるらしいの」

「銃器が!?」

「本当ですか!?」

「うん。これはおそらく内通者の手の掛かった者達に渡る予定みたい。

 オラクルは得られる情報量が膨大過ぎて予言みたいな感じになっちゃうんだけど、王権に対する反乱……クーデターを起こそうと画策する者がいる」

「それが事実なら……

 今からでも容疑者を拘束出来ないか?」

「罪状が難しいよ。

 何て言って拘束するの?

 神のお告げです、逮捕~~!!

 って訳にはいかないし」

「確かにそうかも」

「一番困るのは誰が該当者か絞り切れないな点ですね。

 疑いのある者を軒並み監視するのは難しいですし」

「野心家のサイトウ将軍か敗北主義者のサトウ大臣あたりではないか?」

「予断は禁物ですよ。

 誰が裏でどのような誘惑を受けてるか分からない。

 実直なアズマ騎士団長だって寝返ってるかもしれない」

「でも……ちょっといい?」

「な~に、おねーちゃん」

「私や亜神クラスの方々がいれば、大概の事態は切り抜けられるんじゃ……」

「ううん。それは駄目だよ」

「どうしてなんだ?

 守護者やミーヌが駄目なら、俺や恭介達だって構わないぞ」

「内通者は多分、停滞の宝珠を使ってくる」

「停滞の宝珠?」

「神を呪った術師が作成した最悪の宝具。

 向こうはこれを切り札として掲げてくる。

 本来存在しない筈のこの宝珠が輝く空間では、

 ありとあらゆる神の力<神威>は発動できないの。

 そればかりか所持する者を外的危機要因などから守護し、更に神の血脈に連なる存在やそれに近しい者を瞬時に苦痛で束縛する効果を持つし。

 勿論おにーちゃん達、人族もその限りではない……

 この世界では遥か昔に八咫クンが破壊した筈なのに!」

「そんなものが……」

「それでは後手に回ったら打つ手がないではないですか、咲夜様!」

「いや……もしかして……」

「そうだな……恭介、俺も思いついた」

「? なんのことだ?」

「あっ……確かにアル達なら……」

「どういうことですか、ミーヌ殿?」

「ほら、普段忘れてるけど……(ごにょごにょ)」

「ああ、なるほど……そういうことですか!」

「皆気付いてくれた?

 これは貴方達、神名担の勇者達にしか出来ないことなんだよ」


 懸命に思案し、議論し合う俺達。

 そんな俺達をサクヤはあたたかい眼差しで見守っていた。




 そして時は現在に巻き戻る。

 俺の手中から生まれた光糸によって全ての内乱者は束縛された。

 更に時を置いて発動した恭介と楓のスキルコンボにより、宝珠は宙に舞い破壊される。

 宝珠を持つ者を護る結界も、宝珠自体を狙う攻撃には無力だったのだ。

 そうでなければ発動すら出来ないと読んだ俺達の予測は的中した。

 驚愕ゆえか顔を戦慄かせる裏切り者……タジマ。

 何故、だのどうして、だのを呟き続けるそいつを、自由を取り戻した神々が素早く封じる。

 その動きに連動し、瞬時にコノハが近衛兵の招集を掛ける。

 慌ただしい音と共に、別室に待機してた兵達が駆け寄って来た。

 広間の窮状に驚くも、現状を説明すると怒りに髪を逆立てながら床に転がる者達を縄で再度拘束し始める。


「どうにか上手くいったな」

「ええ、一手間違うと全てが御破算ですからね。

 流石に緊張しましたよ」

「まあ結果が全てではござらんか。

 幸い客人にも怪我は出なかったようでござるし」

「違いない!」


 束縛されたまま近衛兵に連行されるそいつらを見守りながら俺達は安堵した。

 神威や神名をも無効化し束縛する停滞の宝珠。

 それを如何にして俺達は打ち破ったのか? 

 もったいぶらずに解説すれば、それは神名担の勇者のみが使える基本操作。

 セットによって登録された<アーツ>と呼ばれるスキルや魔術だった。

 任意のスキルや魔術を事前にセッティングし、瞬時に発動する事が可能なのだ。

 例え身動きが取れないほどの苦痛の最中でも、詠唱や予備動作を必要とせずに。 今回は誰が内通者でもいいように、且つどのような位置からでも対応出来る様、

 俺が多数拘束、

 楓が武装解除、

 恭介が物理破壊、

 と役割分担を決め魔術やスキルを検証し合った。

 その結果は見事最良の形で叶えられ、こうして無事に犠牲者を出す事なく事態を収拾できた。

 そうでなければ個人で強大な殺傷力を持つ銃器によって多大な犠牲が出た事はやぶさかでないだろう。

 会議に参列してた者達も口々に安堵の言葉を発し始める。


「いや~一時はどうなるかと思いましたぞ」

「コノハ様を弾劾するとタジマが息巻いておったのは確かですが」

「まさかあのような暴挙に出るとは!

 王国民の面汚しめ!」

「アルティア殿達には心より感謝しなくてはなりませんね」

「そうやな。な~んか事前に知っておったような感じが少し気になるんけど」

「深く追求するな。俺達も無力だったのは確かだ」

「しかし鮮やかな手並みでしたな」

「ええ、停滞の宝珠でしたか?

 あのようなものがこの世にあるとは」

「北に降臨した邪神、ヘルエヌの手によって生み出されたものらしいですな」

「真ですか? 彼のモノ達の力は奥底が見えませんな」

「ふむ。つまらない余興じゃったの」

「お母様……いくら本当の事でも口が過ぎます。

 ああ、でも仲良く話し合う勇者様達……

 ふと見つめ合う目線。

 触れ合う手と手。

 囁きが零れる吐息の音色……素敵……」


 何やら背筋に奔る激烈に嫌な寒気を強引に無視しながら、俺と恭介は顔を見合わせ頷き合う。

 そして雑談を交わす会議参列者のある人物の前に立つ。

 俺は聖剣を抜き放ちその切っ先を、

 恭介も返答によっては拳を交える事も辞さないというように構えを取る。


「これはこれは……

 いったいどういうことですかな?」


 俺達の挑発行為に対し、シーガマ商業長サガラは面白そうに嘲笑うのだった。 

 




時間出来たのて久々に長めに書けました。

一人称に戻っての謎解説になります。

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