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156章 食卓に笑顔な仲間


「いつも思うんだが、アル」

「ん?」

「食べてる時のお前はホントに幸せそうだな」

「そうかな?」


 よく煮込まれた豆と肉のスープを飲む手を止め、アルは首を傾げた。

 そんなアルを呆れた眼で見てるのは同じパーティのエゼレオだった。

 彼にとっては少々味付けが薄いスープを、アルは本当に美味しそうに食べている。


「そうですね……実はわたくしもそう思ってました」

「フィーナも?」

「ええ。好き嫌いがないのは良い事だと思いますけど」


 こちらも上品にサラダを口に運ぶ手を止め、フィーナが続く。

 言われた本人は何の事だろう? と思案顔だ。

 その間もアルの手は動き続けパンを口元に運ぶ。

 迷宮探索明けの一週間ぶりにまともな食事である。

 しかし辺境の宿故に大した料理は出ない。

 味よりも量こそが正義、とばかりにテーブルに山盛りな素朴な料理に辟易する仲間達を余所に、アルの食欲は全開だった。


「だな。粗食に慣れてる俺ですら胃が受け付けないのにさ」


 そう頷くカイルだったが、アル同様に動く手は塩焼きされた鵜の骨付き肉を口元に運び、小皿にうず高く積み上げるのみ。

 シンプルよいうより残念な味付けだったが、意に介さずカイルは食べ続ける。

 それが彼が育った里の「教育」方針だからだ。

 栄養補給を的確に行い万全に動けるよう身体を維持するのも優れた~の務めなのだとか。

 そんな里が嫌で抜けて来たのに、何も変わってない自分にカイルは内心自嘲する。

 こいつらに出会って本当に良かった。

 特にアルティア・ノルン。 

 年若い彼と過ごす日々はカイルにとって驚きの連続だった。

 当初こそ青臭い言動と行動が目立ち、内心小馬鹿にしていた。

 だが今やどうだ。

 心身共に鍛え上げ、ノルファリア練法と洸魔術を駆使する彼は辺境でも指折りの名声を得ている。

 特に今回行った不死王退治への布石。

 前回の赤竜退治と合わせて、もし成功すれば彼の名声は更に高まるだろう。

 そう……勇者の称号も考慮されるほどに。

 幸せそうにパンを口元に運ぶアルからはそんな凄みは全然感じられないのだが。 

 時折ふと思う事がある。

 成長し続けるアル。

 それでも今はまだ自分が上だという自負がある。

 だがいつか追い抜かれたその時、自分はこいつに対して戦いを挑みたいという衝動を押さえられるだろうか?


「お前が言っても説得力がない」

「まったくですわ」


 剣呑な事を考えるカイルだったが、エゼレオとフィーナの二人によってフルボッコにされる。

 反論も出来ず素直に謝るカイル。

 そんな自分がおかしくて苦笑してしまう。

 里ではこんなあたたかい食事風景はなかった。

 誰かと会話し、笑い合う食卓がこんなに良いものだとは思わなかった。


「でもさ、アルよ」

「ん?」

「そういえば気になってるんだがさ、お前食べる時に『いただきます』って言うだろ?」

「うん」

「あれって何なんだ?」

「ああ、それはわたくしも気になってました。

 特定の神に捧げる祈りとも違うようですし」

「ああ、あれね。

 実はさ、俺の家に代々伝わる習慣でさ。

 異界の賢者から教えてもらった概念らしいんだけど、要は」

「命をいただきます、ということか?」

「すっげーな、エゼレオは。

 そう、その通り。

 日々俺の生きる糧となる食材……命に対しての感謝の言葉なんだ」

「へ~……なるほどね」

「だからいただきます、なのですね」

「ああ」

「成程……しかしいい言葉だな」

「だろ?」

「じゃあさ、エゼレオにフィーナ」

「なんだ(なんですの)?」

「俺達もやってみないか?

 命に対しての感謝なら教義や理念に反してないだろ?」

「それは……まあ……」

「ふむ。たまにはカイルの提案に乗るのも一興か」

「なんだよ、たまにはって」

「ハハ……気にするな。

 で、どうやるんだったかな、アル?」

「えーっと……こう手を合わせて」

「こうか」

「そうそう。

 んで軽く頭を下げながら」

「「「いただきます!!!」」」


 アル達以外に誰もいない食堂に唱和の声が響く。

 何事かと厨房から顔を覗かせる店主だったが、アル達の姿を確認するなり肩を竦めて厨房に戻った。

 おそらく冒険者特有の珍事だと思ったのだろう。深入りしないのに限る。

 一方、手を合わせた三人は探索明けで疲労した顔に笑みが浮かんでいた。


「何だかいいな、これ」

「ええ……胸の中がスーっとする気がします」

「これからも……続けてみるか。アルに倣って」

「お、賛成♪」

「異存なし、ですわ」

「いいの、皆?」

「ああ、気持ちいいしな。

 アル、改めてよろしくな」

「何言ってるんだよ。

 こちらこそよろしく」


 カイルの軽い挨拶に真面目に頭を下げるアル。

 そんなアルを見て皆は明るい笑い声をあげる。

 笑われた当の本人は何が理由か最後まで怪訝顔だったが。 







 15万PV記念として新シリーズを何個か載せてみます。

 気に入ったシリーズがあったら応援してください。

 まず第一弾は「名探偵最後の弟子」という推理物……っていうか

 ハーフボイルドものになります。

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