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128章 宣言に滾りし民衆


 姿を現した岐神を見た周囲の人々よりどよめきが奔った。

 やがて口々に岐神を讃える言葉を告げると、その場に両手をついて頭を垂れ始める。

 俺達も慌てて周囲の者を見習い、取り敢えず片膝をつき畏まった。

 そんな俺達を見て岐神は穏やかな笑みを崩さぬまま手をかざし止め様とする。


「良いのです、その様な些細な事」

「いや、しかし……」

「勇者アルティア・ノルン。

 賢者ミーヌ・フォン・アインツベール。

 まずは礼を述べさせてください。

 異界より来たりし貴方達のお蔭で、霊峰ザオウに封ぜられていたわたくしは解放され、更にわたくしの身柄の安全を引き換えに囚われていた勇敢なる人々も救われました。

 その功績、感謝してもしきれません」


 巫女服を正し、深く一礼する岐神。

 長い黒髪がさらりとうなじより零れ落ちる。

 全ての動作が悠然としながらにして優雅。

 思わず呆然と見惚れてしまう。

 ふと脇腹に触感を感じると、畏まった姿勢のまま手を伸ばした姿のミーヌ。

 よく見れば、どこか不満げに頬を少し膨らませていた。

 分かってる、って。

 別に本気で惚れた訳じゃない。

 無論ミーヌとて頭では分かってるつもりだったのだろう。

 だが感情は理屈では納得されない。

 その妥協点がこのツンツン攻撃か。

 些細な事に嫉妬するミーヌに苦笑してしまう。

 とはいえ仮にも神が俺達に頭を下げるとは。

 何だかとんでもない罰当たりな事をしてる気がしてくる。


「いえ、俺達は当然の事をしたまでで……」

「誰かの頼みとはいえ当たり前のことを当たり前に出来る者は多くありません。

 貴方達は為すべき大切な事をした……それは誇ってよいことです」

「でもそれは俺達だけの力じゃないです。

 ここにいるソータやタツキ、それに霊峰にいた人々が決起してくれたから」

「ええ、存じております。

 特にミーヌ殿」

「は、はい!」

「貴女は神名まで使い人々を守ってくれましたね。

 神名<絶対>はかなりの上位顕現。

 それを失う覚悟すら承知で、貴女は人々に防御術式を掛けてくれた。

 ……そのお蔭で犠牲となる者はいませんでした」

「おい、ミーヌ。本当なのか?

 聞いてないぞ、それ」

「うん……岐神殿の言う通り。

 ごめんなさい、アル。

 この騒動で犠牲者を一人も出したくなかったから、こっそりと<絶対守護>を皆に付与したんだ。

 術式が間に合わなくて怪我人も出しちゃったけど、何とか間に合ったの」

「そうだったのか……」


 幾ら何でも一人も犠牲者がいないのは奇跡と思ったが、そういう事情があったとは。

 ミーヌの持つ神名<絶対>の特性は、読んで字のごとく絶対付与。

 術式等に絶対の効果を付与するものである。

 この世界を支えるカムナガラシステムに反しない限り、その効果は絶対。

 攻撃なら一撃必殺。

 防御なら無攻不落。

 まさに万能にして恐るべき力を秘める。


「ええ、民草の無事をどこまでも思い図るその姿勢にわたくしは感銘いたしました。

 そして何より貴方達の想いを受け立ち上がった人々の勇気にも。

 そんな無辜成る想いに報いるべく、わたくしは宣言させていただきます」


 華麗な繊手を掲げる岐神。

 人には解析も不明な高度術式がその手から高々と打ち上がっていく。

 やがて天空まで打ち上がった術式は派手な閃光を上げ拡散し、この地域全域を覆う多層結界となった。

 これが神々の力。

 地方全域を覆う程の守護結界。

 効果は浅いとはいえ、妖魔の攻勢は鳴りを潜め村の外にも安らぎが戻るだろう。


「霊峰ザオウのみならず、南方地域ナトゥリの解放がなった事を!

 人々の勇気に支えられ、わたくし岐神が帰神したことを!

 今ここに、宣言致します!!」


 高らかに告げられる岐神の言葉。

 その言葉に割れんばかりの歓声を以って応じる民衆。

 熱く滾る人々の喧騒。

 今この瞬間、本当の意味でザオウだけでなくナトゥリが解放された証だった。

 

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