それはあまりにも唐突に。
ぼんやりとした思考の中
今日もみた夢を思い出せないまま
なにかが引っ掛かる記憶の中
また、一日は巡る。
ひんやりとした空気の流れ
ゆるく渦巻く霧
朝の陽光とは無縁な目覚め
カプセルの中は今日も変わらず
…今日もまた、一日が始まった。
私の仕事は博士の助手
ただし、私の中のプログラムにおいて
安全な範囲、尚且つ邪魔にならない事。
だって私は、あくまでもrobotだから。
博士は今日もお決まりの白衣に
お決まりのマグカップ
お決まりのコーヒーには
ミルクをいれず角砂糖はみっつ
それが私の一日の最初の仕事
それが博士の望むこと。
…それも博士が決めた事。
からからとカートを押す音だけが響く研究室
湯気の上がる温かいコーヒーと
どうせ食べてはもらえないトーストを載せて
広い石の床を歩く
天井からは無数の管
忙しなく響く機械音
「私の生まれた場所」
そこは今日も薄暗くて
なんだか落ち着かない場所だった
「オハヨウゴザイマス、博士。
朝食ヲ、オ持チシマシタ。」
ちらりと博士の表情を窺う
ぼさぼさの髪の間から覗く眼
実は博士は整った顔をしている
俗に言う「いけめん」というやつ。
これは、昔読んだ書物に書いてあった。
「おはよう。
昨日はよく眠れたかな。」
「ハイ、トテモ。
博士ガオ造リニナッタ休養カプセルハ
他ノrobot達ニモ実ニ好評デス。」
「ははは、それは良かった。」
博士はこちらを見向きもせず、掠れた笑いを浮かべ、
私の淹れたコーヒーをずず、と一口だけ啜った。
「今日も君の淹れてくれたコーヒーはおいしいなぁ。
あぁ、トーストは食べないから下げてくれたまえ」
予想的中。
「了解シマシタ。ソレデハ、失礼サセテ頂キマス。」
一仕事を終えた安堵感に胸を撫でおろし、
カートを押してくるりと方向転換
この場所はやっぱり苦手
「来た道を辿って部屋に戻る」
を実行しようとした。
足早にその研究室から逃げたかった私は
彼がこちらを向いたのにも気づかず歩き出した。
「アンリ」
突然のことだった
それは、ただ
名前を呼ばれただけだった
なのに、
ど、くん
あるはずの無い心臓が、
止まりそうになる錯覚を覚えた。
「ハイ、何デショウカ。」
動揺を抑えて言葉を紡ぐ
robotである私が動揺なんてする筈も無いのに
…書物の読み過ぎか?
「…やっぱり、今朝はパンも食べるよ。
最近、ろくな食事をとっていないからね。」
博士は私を見て微笑んでいた
予想不的中。
でも悪いことではない、か。
「ハイ、博士ノ仰ルママニ。」
その時の私は
果たして、笑顔を作れていたのだろうか。
歪な形の実験器具の
煙を噴き出した音だけが
ただただ、その場所で木霊していた。
アンリの中に芽生えたのは、やがて。




