詩 具合が悪い
「具合が悪い」
休憩時間中、俺が言うと、彼女がびっくりしたように振り向いてくる。
「ちょっと失礼」
猫みたいに、小さくて可愛い手。
それが俺の額に当たってくる。
ひんやりして、まるで冷蔵庫を開けた時のような冷たさだった。
「ちょっと!! 熱があるんじゃないの?」
彼女が真っ赤な顔をして、声を張り上げる。
俺は「え?」と鈍く返し、自分の顔に触れてみる。
確かに熱いような、熱くないような、自分ではよく分からなかった。
「保健室に行こう、保健室」
「おう」
「先生!! 保健室に行って来ます」
教室に来たばかりの先生にそう言うと、彼女は俺の手を引っ張っていく。
もっと心配して欲しいとか、馬鹿な考えをしていると、彼女が怖い顔で言ってくる。
「どうして早く言わなかったの?」
「だって…気のせいかと思って。放っておけば治るかと思ったんだけど」
「もう!! 私にはすぐに言ってよね」
保健室に着くと、先生が声をかけてくる。
「どうしたの?」
「彼、熱があるみたいなんです。みてもらえますか?」
女の先生なので気軽に喋りやすいのか、先生が彼女に体温計を渡してくれる。
「はい、脇にさして」
言われるまま、椅子に座り、体温計が鳴るのを待つ。
「あなたは教室に戻りなさい」
先生が彼女に言うと、「でも…」と心配そうだった。
だから、俺が告げてやる。
「大丈夫だ。自分のことは、自分でできるから。ありがとうな」
「…うん」
まだここに残りたいみたいだが、先生が「行きなさい」と言ったので、彼女は後ろ髪を引かれるように、頭を下げて行ってしまう。
ピー、ピー、ピー。
ちょうど体温計が鳴り、見てみると、38℃だった。
「あらあら、これはまずいわね」
先生はそう言うと、俺に聞いてくる。
「早退する? それとも、病院に行く?」
「…早退します」
病院は苦手なのでそう言うと、先生が聞いてくる。
「うちに誰かいる?」
「いません。寝て何とかします」
「そう。お水をたくさん飲むこと。本当は薬をもらったほうがいいだけど」
頬に手を当て、先生が息を吐く。
俺は体温計を渡すと、はっきりと言う。
「親が帰って来たら、何とかします」
「そのほうがいいわね。カバンを取りに行ってらっしゃい」
先生に言われ、俺は廊下に出る。
すると彼女が隠れていて、「しーっ」と指を立ててくる。
「どうだった?」
「熱があるみたい。38℃だってさ」
「さ…!! 嘘でしょ!!」
彼女は心配そうに、手に触れてくる。
何故が安心し、俺は優しく答える。
「早退する。うちで寝るから、大丈夫」
「病院に行かなくて、いいの?」
「親が帰って来たら、行くから。心配してくれてありがとうな」
彼女はこくんとうなずくと、残念そうに言ってくる。
「私も早退できればいいんだけど…」
「駄目。ちゃんと俺の分まで、勉強するんだぞ」
頭を撫でてやると、くすぐったいのか、くすくす笑う。
俺ははーと熱い息を吐くと、歩き出す。
「カバンを取りに行かないと」
「先生にも言わないと」
「そうだな」
授業がおこなわれているので、静かな廊下。
2人の足音だけが響く。
「あとで電話かLINEしてもいい?」
「おう。頼むわ」
俺が嬉しそうに言うと、彼女は安堵したようだった。
心配かけて、ごめんな。




