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燃える指先と、奪われた数字

【前回の答え】

A「小さな棒」

棒や横棒を意味する「barre」に、小さなものを表す接尾辞「-ette」がついたものが由来です。

1. 賢者の教え、弟子の火

一昨日、僕の悪友である鈴木太郎は、山田先生の鉄拳によって「魔法世界の住人」と入れ替わった。この非論理的な事態から二日。彼はすっかり「電気が通る異世界生活」に馴染み、寮の食堂で納豆をまるで未知の魔導具でも扱うような手つきでかき混ぜている。この順応性の高さがこいつのいいところだと思う。

「ねえ、太郎。その『魔法』というやつ、僕にも使えるかな」

「何だ、けい。お前、向こうの世界じゃ『導かれし者』って呼ばれるほどの逸材だったんだぜ。あれ?『天空の花嫁』だったかな?……まあどっちでもいいや」

太郎は納豆の糸を切りながら、少し得意げに鼻を鳴らした。

「魔法を使うには『ゲート』を開く必要があるんだ。まずは成人した魔法使いに、へその下あたり――丹田にグッと魔力を込めて貰わないと始まらない。ゲートが開いたところで、火を灯すまでに普通は数週間はかかるんだけどな」

「成人か…だとすると無理かな?」

「何言ってんの。僕も君も一昨年成人しているじゃないか?」

どうやら成人の定義が異なるらしい。僕は成されるがままに椅子に押し付けられる。そして太郎が僕の下腹部に掌を当てた。

「……いくぞ。オープンセサミ!」

熱い何かが、身体の奥底から逆流してくる感覚があった。

「よし、あとはイメージだ。体内の熱を一点に凝縮して、指先から外へ……って、おい」

太郎が言い終わるより早く、僕の人差し指の先から「ぱっ」と青白い炎が立ち上がった。

それは単なる火種ではなく、僕の思考をトレースするように複雑な多面体を形成し、やがて一羽の美しい小鳥の形へと変わった。炎の小鳥は、僕の眼鏡の縁に止まって、パチパチと小さな火花で毛繕いを始める。ちょっと熱い……

「……できたよ。圧力を下げて真空をイメージしたんだ。そして指先に力を集中、密度を少し弄れば、造形はそれほど難しくないね」

「数週間どころか数秒かよ。……お前、やっぱりどの世界線にいてもバケモノだな。むしろケダモノだ。シッシッ、あっち行けよ。僕の立場がないじゃないか」

太郎が本気で呆れ果てた顔をした時、背後からひんやりとした声が降ってきた。

「なにやっているの?『手品』に夢中になっている場合じゃないわよ。天智くん」


2. 剥がれ落ちた「効率」の仮面

振り返ると、そこには佐伯玲が立っていた。彼女の視線は、僕のスマホの待受画面にもなった「特区101」の招待状に向けられている。

最初から違和感があった。彼女の回答は正確無比で、無駄がない。まさに「レート製造機」と呼ぶにふさわしい効率性だ。それなのに、彼女が現在甘んじている評価は、その実力からすればあまりにも低すぎるように思えた。それほどバトルを乗り越えてきたなら彼女はとっくにレート2900を達成していてもおかしくはない。

「佐伯さん……。君、やっぱりこの施設について何か知っているね?」

玲は黙って僕の隣に座ると、声を潜めた。

「……私も、かつてそこにいたから」

僕は思わず彼女を見た。昨日のバトルで僕に敗れ、彼女のレートは2769まで落ちている。しかし、彼女の口から語られたのは、さらに過酷な過去だった。

「招待状が届いた時、私はそこを知の高みだと思っていた。でも、あそこは『特区』なんて上品なものじゃない。――ただの『実験場』よ」

玲の話によれば、特区101には政府が飼い慣らした怪物的な知能を持つ「裁定者アービトレイター」たちが待ち構えているのだという。

「あそこでは、負けると容赦なく数字を削り取られる。私は行ってすぐ、入口の門番に負けた。それまで敗北なんて数えるほども無かったから完全に自信喪失ね。それから調子を落として、何度も何度も負け続けた。そして、使い物にならなくなったと判断された瞬間に、外の世界に放り出されたわ」

彼女の瞳に、深い苦渋の色が混じる。一度どん底まで吸い取られたレートを、彼女は血を吐くような思いで今の数値まで戻してきたのだ。

「戦おうと思う気持ちになるだけでも随分掛かったわ。環境を変えた方がいいとお医者さんにも言われて、転校を繰り返した。もう大丈夫と思ったけど…」

「佐伯さん…」

「あそこへ行けば、あなたのその2919という数字も、『裁定者』たちの餌にされるだけよ」


3. 特区への門出

その時、食堂の入り口に黒いスーツを着た二人組の男が現れた。

彼らの胸元には、政府の紋章――知恵の象徴である「フクロウ」を模したバッジが鈍く光っている。

「天智慧くん。お迎えにあがりました。特区101への入所手続きを開始します」

男たちが歩み寄る。その足音は、クイズの正解を待つカウントダウンのように冷徹だ。

玲が僕の袖を強く掴んだ。

「行かない方がいい。あそこは、あなたの誇りを穢す場所よ」

僕は何も答えず、ただ静かに立ち上がった。

隣で太郎が、「あ、やべ。今のうちに……」と呟きながら、こっそりと「他人の意識から外れる魔法」を自分にかけ、周囲の景色に溶け込み始めている。

僕は政府の男たちへと向き直り、一歩を踏み出した。

その瞬間、僕の眼鏡の縁で休んでいた炎の小鳥が、ふわりと羽を広げた。

小鳥は僕の頭上を一度旋回すると、そのまま朝日の差し込む窓の外へと飛び去っていった。実体のない光の粒を神保町の空に撒き散らしながら、どこまでも高く、自由に。

認識阻害中の太郎が壊れたテレビみたいにチラチラと目の端に映る。あれはあれで正解なのだろうか?

「行くよ。どんな『裁定』が待っているのか、興味がある」

僕のレートは2919。

この数字を糧にする猛者たちが待つ場所へ、僕は足を踏み入れる。



【問題】

慧が「炎の色」を変えたことに関連する問題。特定の金属や塩類を炎の中に入れると、その金属固有の色を示す現象を「炎色反応」と言います。では、花火の「赤色」を出すためによく使われる金属元素は何でしょう?

A:ナトリウム

B:ストロンチウム

C:銅

D:バリウム

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