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バスのタイヤと、解けない方程式

【前回の答え】

C. 火山岩

火山岩かざんがんは、マグマが地表や地表近くで急速に冷えて固まった火成岩の一種です。冷える速度が速いため、鉱物の結晶が小さく、結晶の隙間を細かいガラス質(石基)が埋める「斑状組織」が特徴。代表的な岩石に玄武岩、安山岩、流紋岩があり、色は黒っぽいものから白っぽいものまで多様。


第五話:バスのタイヤと、解けない方程式

1. 密室ではない、足止め

「大変なのよ! このままじゃ、生徒たちがスクールバスに乗れずハイエナの餌食になっちゃうわ!」

山田教子先生の叫び声は、放課後の静かな校庭に不釣り合いなほど響き渡った。

彼女が指差す先には、僕たちの「移動する聖域」こと黄色いスクールバスが鎮座している。

しかし、そのタイヤには、見たこともない電子錠が巻き付いていた。

四つのタイヤそれぞれに、不気味に発光するe-ink(電子ペーパー)のスクリーンが埋め込まれている。

スクールバスは、通学中の不要なバトルを避けるためのシェルターだ。これがないと、平均レート1400台の生徒たちは、校門を出た瞬間に田中さんのような『雑魚狩り』を生業とする輩に目を付けられてしまう!

僕は眼鏡を押し上げ、タイヤの前にしゃがみ込んだ。

スクリーンには、こう表示されていた。

『連動型・対位法クイズ:二つの地点から、同時に答えよ。タイムラグは0.5秒以内とする』

「一人では解けない仕組みね。ロックを設置した本人でなければだけど」

背後から、ひんやりと、風鈴の音のような佐伯玲の声がした。

彼女はいつの間にか僕の隣に立ち、スクリーンのコードを読み取っている。


2. 呼吸と、知識のシンクロニシティ

「右側を僕が、左側を佐伯さんが担当すればいいかな」

「……いいわ。さっさと終わらせるわよ」

玲は反対側のタイヤへと回り込んだ。スクールバスを取り巻くように他の生徒たちが不安そうな視線を向けている。

僕たちはバスを挟んで視界が遮られているが、レフェリーロボットが中継する電子音が、僕たちの「共闘」を告げた。

『第一問:音楽および文学。ゲーテの『ファウスト』を題材とした、ベルリオーズの劇的物語のタイトルと、その曲の終盤で悪魔が歌う架空の言語を答えよ』

「『ファウストの劫罰』」

「『イリマ・ハラ・カ・バ・ラ』」

僕たちの回答が、一秒の狂いもなく同時にシステムに刻まれた。

正解の電子音が響き、錠の第一段階が外れる。

『第二問:天文学および神話。17世紀にヘヴェリウスが制定した、現在は存在しない星座『ケルベルス座』。その星座が、英雄ヘラクレスの手に持たれているとされる『ある植物の枝』は何?』

「……それは簡単だな」

僕は呟くと同時に、玲の事を考えた。彼女なら、神話の裏側まで知っているはずだ。

「「金色のリンゴの枝」」

僅かなズレもなく、入力信号は完全に一致していた。

三問、四問と、難解な問題が続く。

知識がパズルのピースのように噛み合い、バスの周りに漂っていた不穏な空気が、心地よい知性の火花へと変わっていく。

クールな玲の入力スピードが、わずかに熱を帯びているのを、通信越しに感じることができた。


3. 解除、そして重い予感

最後の電子錠が外れ、スクールバスの足回りが自由になった。

生徒たちが安堵の表情でバスに乗り込んでいく。

バスが発車しても僕と玲は校門の前から動かなかった。

「お見事だったよ、佐伯さん。君がいなければ、あのタイムラグ制限は突破できなかった」

「……他に出来る人がいなかったから引き受けただけよ。お世辞はいいわ」

玲は相変わらず素っ気ない。

けれど、彼女は僕から目を逸らさなかった。

学校の中だからバトルは始まらないが、その瞳には、さっきの「共闘」で生まれた微かな信頼の残滓が映っているように見えた。

ふと、僕は胸元の数字に目を落とした。

もし明日、彼女と戦えば、この数字のやり取りが僕たちの間に冷たい壁を作る。

今は僕の方がレートは高いが、もし彼女に負ければ、学校一の立場を失うことになる。

けれど、今僕が感じている躊躇いは、数字を失う恐怖ではなかった。

「……ねえ、佐伯さん。もし、このレートシステムがなかったら、僕たちはもっと普通に、今のクイズの続きを話せたと思わないかい?」

玲は少しだけ目を見開いた。

そして、沈みかける夕日を背に、淡々と言った。

「……馬鹿げた仮定ね。現実に正解はないわ。あるのは、次の問いだけよ」

彼女はそのまま歩き出した。

その背中を追いかけたい自分と、校門という「境界線」を超えてはいけないと警告する理性が、僕の中で奇妙なバランスを保っている。

「けーい! トイレ掃除終わったぞー! ……あれ、バス行っちゃったのかよ。せっかくタイヤロックしておいたのにさー」

残念そうな太郎の声が、夕暮れの空に響いた。

瞬間、山田敦子先生の瞳に怒りが灯る。猛烈な勢いで黒い塊が通り過ぎていく。どうやら鉄拳制裁は免れないようだ。僕は苦笑いして、鞄を抱え直した。

ギィャァァァァァァという、錆び付いた古い扉を開いたときのような、耳障りな音が聞こえる。

僕たちが戦うべき「明日」は、すぐそこまで迫っている。



【問題】

南米ベネズエラにある、世界最大の落差(979m)を誇る滝の名前は何ですか?

A.ナイアガラの滝

B.イグアスの滝

C.ビクトリアの滝

D.エンジェルフォール



ヒント

その名は、この滝を世界に広めたアメリカ人飛行士の名前に由来しています。

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