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零への招待、あるいは叡智の迷宮

【前回の答え】

1.スプーフィング

スプーフィングは「なりすまし」や「偽装」を意味し、送信元情報を偽る手法です。慧の場合は、自分の本当の実力を隠し、格上との対戦機会を確実に得るための「戦略的な偽装」としてこの論理を応用しました。

ついに「零」との接触が始まります。


1.偽装解除の狼煙

潜伏期間としての二週間が終わり、僕はアイボリー・レジデンスの中央ホールに立っていた。これまで細心の注意を払って維持してきた認識阻害のフィルターを、僕は意識の奥底で一つずつ、丁寧に解体していく。

「隠れるのはもう終わりだ。正々堂々と、死神を呼び出すよ」

僕がそう呟き、精神の枷を外した瞬間、二千六百台という手頃な数字に偽装されていた僕のレート表示が、激しいノイズと共に本来の色を取り戻した。3206。その鮮烈な数字がホールの空気を震わせ、周囲にいた高レート保持者たちが一斉に足を止めた。何者だあいつは、という驚愕の声がさざ波のように広がる。僕はわざと無防備に、自分の存在を特区のシステム全体に曝け出した。

これは僕からの宣戦布告だ。釣り竿を垂らして待つ時期は終わった。今度は僕自身が巨大な光となって、深海に潜む怪物を誘い出す番だ。隣で驚きに目を見開いていた太郎が呟く。

「けい、お前の周りの空気がピリピリしてて、まるで感電しそうだぞ」

「これでいいんだ、太郎。隠れるのはもうやめた。僕のレートが彼にとって十分に魅力的な収穫物であるなら、必ず向こうから接触してくるはずだ」

その予感は、僕がホールの出口に辿り着くよりも早く的中した。


2.黒い招待状

突如としてホールの大型モニターがすべて暗転し、深い漆黒の背景に金色の文字が浮き上がる。その中央には、歪みのない完璧な円、つまりゼロを象徴するエンブレムが刻まれていた。周囲の住人たちが息を呑む中、僕の個人端末が激しく振動し、一通のメッセージが強制的に展開される。

「招待状。レート3200を超え、この世界の歪みに気づいた不遜なデバッガーへ。私の元まで辿り着く知性があるか、その身を持って証明せよ。期日は二十四時間以内。間に合わなければ、君は挑戦を受けるに値しない無価値な存在として、永遠にこの特区の最下層へ廃棄される」

メッセージの最後には、特区の最下層へと続く隠しエレベーターの座標が記されていた。零は最上層にいるはずだが、どうやら彼は僕を一度、奈落の底へと突き落とすつもりらしい。収穫を前にして獲物の鮮度を確かめる。いかにも3500という絶対的な数字を背負う者に相応しい、傲慢な試練だ。失敗してもレートは奪われないが、このまま「無価値」の烙印を押されて消えるのは、僕のプライドが許さなかった。

「行くしかないだろ、けい。零って奴、相当自信満々みたいだけど、僕らのコンビを甘く見たことを後悔させてやろうぜ」

太郎が威勢よく胸を叩く。僕は頷き、漆黒の画面を見つめ返した。

「ああ、望むところだ。特殊能力に頼らず、純粋な知識のみで頂点に立つ男。その男が用意した迷宮が、どれほどのものか見せてもらおう」


3.知性の迷宮、第一の試練

指定された座標に辿り着いた僕たちの前に現れたのは、巨大な地下空間へと続くゲートだった。扉が開くと同時に、そこには無限に続くかのような壁、そして複雑に分岐する通路が広がっていた。第一の試練、叡智の迷宮。

この迷宮の壁は、膨大なテキストデータが明滅するホログラムで構成されている。ただの迷路ではない。分岐点に差し掛かるたびに、宙に問いが浮かび上がり、数秒以内に正解を選択しなければ正しい道は開かれない仕組みだ。誤答すれば壁が迫り、物理的な圧迫と共に、次に進むべき「正解のルート」が完全に書き換えられてしまう。零の意図は明確だった。知識の正確さだけでなく、思考の処理速度と、変化し続ける状況への即応力を試している。

「太郎、僕の背後を守ってくれ。認識阻害を解いている以上、不意の妨害があるかもしれない」

「任せとけ、けい。お前は前だけ見てろ。僕の魔法で、お前の視界を邪魔するノイズは全部消してやるからな」

迷宮全体の構造がリアルタイムで書き換えられ続けている中、僕は脳内の論理回路をフル回転させ、目の前に現れた最初の問いを凝視した。

問い。紀元前五世紀、ペルシャ戦争においてスパルタ王レオニダス一世が率いる三百人の精鋭が、数十万のペルシャ軍と戦った要衝の地名は。

「テルモピュライ」

僕が答えると同時に、右側の壁が滑るように開き、道が現れた。止まっている暇はない。一歩踏み出すごとに、次の、その次の問いが僕の視神経を焼くように現れる。知識を検索する速度と、それを確信に変えるまでの時間は、一問ごとに短縮を要求される。

「次は化学か。周期表において、ハロゲン元素に属し、常温で液体である唯一の非金属元素は?」

「臭素だ」

「早いな! けい、お前の頭、さっきから煙が出てないか?」

太郎の軽口をいなす暇もない。この迷宮は、僕の思考スピードに合わせて難易度と変化の速度を上げている。まるで、僕の知性の限界値がどこにあるのかを、執拗に探り当てようとしているかのようだ。

「……面白い。零、君はこうして、自分に挑戦するに足る『最高品質の知性』を選別しているんだね」

二十四時間という猶予は、この広大なデータ迷宮を抜けるにはあまりに短い。だが、僕の心には確かな高揚感があった。ズルも、偽装も、ハッキングもない。ただの純粋なクイズ。これこそが、僕が求めていた本当の戦いだ。僕を拒む壁になるか、それとも君へと続くレッドカーペットになるか。今、ここで答えを出してやる。



【問題】

劇中の迷宮で出題された、レオニダス一世率いるスパルタ軍が奮戦した「テルモピュライの戦い」。この戦いでスパルタ軍が守備していたのは、地形的にどのような場所だったでしょう?

A.広大な砂漠の平原

B.海と山に挟まれた非常に狭い隘路

C.難攻不落の巨大な城郭の門前


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