愚者のルール外伝 〜静かなる処刑人と、見えない正解〜
【前回の答え】
A. 1/2
動滑車を1つ使うと、2本のロープで重さを支えることになるため、引く力は半分の 50kg 分で済みます。その代わり、ロープを引く距離は2倍になります。
1. 魔法世界の日常と「錬金術」
「セント・マジックパレス」での生活にも、鈴木太郎はすっかり慣れていた。
相変わらず魔力は微々たるものだが、彼は今や寮の一角で「非魔法的な便利屋」として一部の者たちの間で確固たる地位を築いている。
彼の周囲には常に、不思議な黒い粉や植物の皮を求めて生徒たちが列を作っていた。
「はい、これは特製の『魔力ろ過炭』。水瓶に入れとくだけで腹を壊さなくなる。浄化魔法は不要。銀貨一枚だ。……おっと、こっちは『柳の癒やし水』。徹夜で魔導式を計算して頭が割れそうな奴にはこれ。ポーションより安いし、副作用も少ないぞ」
いまやあの美咲すらも太郎の熱心な顧客だ。
「太郎君て、本当にカッコイイわよね。ねえもうちょっと安くしてくれないかしら……?」
「…でへへへ。まあ、そんなこともあるかなぁ〜。よぉし、おまけで掃除用マジックパウダーもあげちゃう!」
太郎はクイズ社会で培った「生活の知恵」をフル活用していた。
この世界では、基本的にクイズ社会で使用されていた化学物質は手に入らない。偶然見つけられた薬なんかはあるが、効果の割に値段も高いように感じるものばかりだ。しかし、太郎には「知識」があった。
「木を蒸し焼きにすれば活性炭になる」「柳の樹皮には鎮痛成分のサリシンが含まれている」「卵の殻は磨き粉になる」。
魔法使いが時間をかけて魔力を練り、高度な浄化魔法や治癒魔法をかける事象を、太郎はそこら辺に転がっている材料で、マナコスト・ゼロで解決してしまうのだ。
「太郎、また怪しげな木屑や殻を売っているのかい」
通りかかった天智慧が、呆れたように眼鏡を直した。この世界の天智慧は、太郎が「異世界から来た」という話を、友人としての信義のみで受け入れている。彼にとって太郎の知識は、未開の地で独自に発達した「極めて合理的な天然数理」のように映っているらしい。
「怪しくないって。これは『リサイクル』と『知恵の共有』だよ。……それより、さっきから中庭が騒がしいけど、何かあったのか?」
「……『嘆きの洞窟』でまた犠牲者が出たらしい。魔力鉱石の採掘に向かった上級生たちが、次々と意識を失って倒れたそうだ。呪いか、あるいは目に見えない悪霊の仕業だと騒がれているよ。学校側は浄化の魔法を連発しているが、全然間に合っていないという報告もある」
太郎は鼻を鳴らした。
「……何とか出来るかもしれない。洞窟のことを詳しく教えてくれ。灯りは松明かい?空気穴は確保しているのか?魔物はいるのか?」
「……灯りが気になるのか? 普通は松明だろうな。火の魔法も使うけど、光の魔法は高度なので使っていないと思う。空気穴というのがよく分からないが、入口はひとつしかないよ。魔物は不思議と出ないんだ」
「魔物がいない……なるほどね。魔法で何でも解決しようとするから失敗するいい例だ。けい、俺に協力してくれ。呪いを解くのに必要なのは、聖水じゃなくて、『活性炭マスク』と『空気』だ」
2. 呪いの正体
学校側は腕利きの魔導師を派遣し、上級魔法である「破邪の魔法」や「清浄の結界」を試した。しかし、洞窟の奥へ進むほど、屈強な魔法使いたちでさえ激しい頭痛と目まいに襲われ、這う這うの体で逃げ帰ってくる。
「間違いない、これは呪いじゃねえ……」
現場を遠巻きに眺めていた太郎が、ぽつりと呟いた。
「……何か確信があるのかい、太郎」
「ああ。けい、この洞窟は奥まっていて、空気の流れが悪いんだろ? そこで魔法の火や松明をガンガン焚いたら……そりゃ『アレ』が溜まるに決まってる」
太郎の脳裏には、クイズの定番問題「冬場の換気」や「トンネル事故」に関する知識がフラッシュバックしていた。
「必要なのは、ツルハシと大量の『うちわ』……あ、やっぱり、土と風の魔法が使えるヤツはいるなぁ」
3. 沈黙の死神への反撃
「魔法もろくに使えない太郎が何を始めるんだ」と嘲笑う教師たちを、けいがその知的な威圧感で黙らせた。
太郎が最初に指示したのは、洞窟を真上から掘削し、元々の穴と繋ぐことだった。
「これは簡単だな……」
慧は土の魔法を唱え、人が潜れそうな縦穴を猛烈な勢いで開けていく。わずか30分程度で洞窟の一番奥と接続した。
次に太郎は、風の魔法使いたちに対して言った。
「この縦穴に向けて、外の空気を送り込んでくれないか。入口から勢いよく風が吹いてくるが、それはなるべく吸わないようにすること」といった。
「いいか、これは『換気』っていう最強の解呪魔法だ! これからは採掘中に一人換気要員を配置することを忘れないようにね」
一時間の換気後。太郎はけいから借りた、微弱な魔力でも光り続ける「魔導ランタン」を手に、自ら洞窟へ入った。口には『活性炭マスク』を付けている。
火は使わない。酸素を消費するものは一切持ち込まない。
「……空気が、変わったね」
隣を歩く慧が、驚いたように呟く。先ほどまで感じていた、ねっとりと脳に絡みつくような不快な重みが、霧散していた。
洞窟の奥には、意識を失って倒れていた採掘員たちがいたが、新鮮な空気が送り込まれたことで次々と息を吹き返し始めた。この世界の住人が丈夫なのか、浄化の魔法の効果なのか。幸いにも死亡者はいなかった。
「呪いの正体は『一酸化炭素中毒』。目に見えないし、臭いもしない。火を使いすぎて、酸素が足りなくなっただけだ。それから魔物が出ないということは、これと別に有毒ガスが出ている可能性がある。念の為の『活性炭マスク』でバッチリだ」
太郎はさらりと言ってのけた。
「……マナの暴走ではなく、ただの物質的な因果関係か。太郎、君の言う『理屈』は、時に奇跡よりも残酷で、そして確実だね」
慧は感心したように、手帳に「空気の循環と意識の相関」をメモしていた。
4. すれ違う二人
事件を解決した報酬として、太郎は採掘された魔力鉱石の「おこぼれ」を大量に手に入れた。これを換金すれば、しばらくは贅沢な寮生活が送れるし、少ない魔力の代わりに精製して使ってもいいだろう。『活性炭マスク』も大量生産で作れば作るほど売れる。ウハウハが止まらない。
「ふふ、これで毎食学食の特製ステーキが食えるぜ!」
上機嫌な太郎。魔法があまり使えなくても、この世界で彼は十分に「有能」だった。
一方その頃――。
クイズ社会の東京では。
「魔法世界の太郎」が、学校の廊下で美咲に呼び止められていた。
「……ねえ、鈴木くん。さっきの授業の抜き打ちクイズ、なんで一点も取れなかったの? 『水の分子式は?』って問題で、呪文みたいなこと叫んでたけど……」
「……いや、あれは、その……『アグニ・ルドラ』っていう、火属性の……」
「はあ? またラノベと現実が混ざっているとか、気持ち悪いんだけど。あんた、このままでいいの? 卒業出来ないわよ」
魔法世界の太郎は、クイズ社会の「知識の暴力」に晒され、今にも泣きそうになっていた。
「……けい……助けてくれ……ここは魔法も杖も通用しない、地獄だ……」
魔法世界の太陽が沈み、二つの月が昇る。
鈴木太郎は、まだ自分の知る「クイズ」が、どこかの世界で誰かを絶望させていることなど、知る由もなかった。
【問題】
太郎が解決した「一酸化炭素(CO)」の問題です。一酸化炭素は、炭素を含む物質が燃焼する際、ある条件が揃うと発生します。その条件とは何でしょう?
A:酸素が十分に供給されている状態(完全燃焼)
B:酸素が不足している状態(不完全燃焼)
C:周囲の温度が低すぎる状態
D:周囲の湿度が極端に高い状態




