第9話 やっぱりダメだと思った、最初の数分 (里緒視点)
最初の数分で、
やっぱりダメだと思った。
席に着いて、
メニューを開いて、
何を飲むか決めるまで。
その間に、
結論はほぼ出ていた。
*
神崎は、
落ち着いてはいるけれど、
余裕がない。
言葉にする前に、
一拍置く癖がある。
考えている、というより、
選んでいる感じだ。
失敗しない言葉を。
*
こういう人は、
一緒にいると疲れる。
相手に気を遣わせないために
こちらが先に調整する必要がある。
私は、
そういう関係を
もう望んでいない。
*
店の雰囲気は悪くない。
仕事帰りの人が多く、
会話も静かだ。
選んだ店自体は、
間違っていなかった。
間違っていたのは、
この席に座っている理由だ。
*
私は、
早めに切る準備を始める。
必要以上に話さない。
深入りしない。
感情を動かさない。
*
「最近、お仕事はどうですか?」
形式的な質問。
相手の近況を知りたいわけじゃない。
会話の流れを作るためだけのものだ。
*
神崎は、
少し考えてから答えた。
「正直、
あまり良くないです」
それだけ。
理由も、
改善策も、
前向きな言葉もない。
*
私は、
内心で息を吐く。
やっぱり、
そういう答え方をする。
ここで
「でも今は〜」と続けない人は、
現実的に厳しい。
*
これは、
悪意の話じゃない。
生活の話だ。
一緒に生きることを考えた時、
不安が先に立つ。
*
神崎は、
自分を大きく見せようとしない。
それは誠実だ。
でも、
誠実さだけでは
関係は続かない。
*
私は、
判断を固めかける。
――ここで終わらせよう。
早い方がいい。
曖昧に続ける方が、
相手にも失礼だ。
*
そう思った、
その時だった。
神崎が、
こちらを見て言った。
「今日は、
評価をしに来たわけじゃないですよね」
声は、
静かだった。
探る感じも、
責める感じもない。
*
私は、
一瞬、言葉に詰まる。
図星だった。
でも、
それを言葉にされるとは
思っていなかった。
*
「……どうして、そう思ったんですか」
聞き返しながら、
少しだけ警戒する。
*
神崎は、
肩をすくめた。
「なんとなくです。
もしそうなら、
それでいいと思ってます」
言い訳しない。
引き留めない。
この人は、
本当に、
取りに来ない。
*
私は、
そこで初めて
判断を止めた。
やっぱりダメだ、
と思ったはずなのに。
その結論を、
もう一度
保留にしてしまった。
*
この男は、
ダメだと思う。
条件も、
現実も、
甘くない。
それでも、
私が慣れている
「ダメさ」とは、
少し違う。
それが、
一番、厄介だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




