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こんな良い女、現実にいるわけがない  ―詰んだ中年男が「取りに行かない恋」で人生をやり直すまで  作者: 早乙女リク


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第6話 来るはずがない連絡が、来た (恒一視点)

 スマートフォンが震えたとき、

 俺は仕事の数字を見ていた。


 良くない数字だ。

 慣れている。


 見なかったことにして、

 後で考えることもできる。


 そういう数字だ。



 通知の名前を見て、

 一瞬、理解が遅れた。


 高瀬里緒。


 頭の中で、

 誰だっけ、と考えてから、

 思い出す。


 ああ、

 あの交流会の。



 来るはずがない、と思った。


 思ったというより、

 決めていた。


 彼女から連絡が来る可能性は、

 最初から考えていなかった。


 考えないことで、

 余計な想像をしなくて済む。



 画面を開くまで、

 少し時間がかかった。


 変な期待をしたくなかった。


 期待して、

 違ったら、

 自分が惨めになる。



 短い文章だった。


 礼儀として成立する、

 ぎりぎりの文。


 誘いとも、

 確認とも言えない。


 だからこそ、

 どう受け取ればいいか分からない。



 俺は、

 すぐに返事を打たなかった。


 断る理由も、

 受ける理由も、

 同じくらいある。



 断る理由は、簡単だ。


 釣り合わない。

 世界が違う。

 今の自分は、

 人と会っている場合じゃない。



 受ける理由は、

 もっと曖昧だ。


 断り切れない。

 逃げたくない。

 それだけだ。



 彼女は、

 何を期待しているんだろう。


 仕事の話?

 情報交換?

 それとも、

 ただの雑談?


 どれにしても、

 俺が役に立つ場面は少ない。



 俺は、

 自分の中の一番弱い部分を

 自覚している。


 必要とされることに、

 慣れていない。


 期待されると、

 先に壊れる。



 だから、

 取りに行かない。


 だから、

 追わない。


 それが、

 俺なりの生き方だった。



 でも、

 今回は少し違う。


 彼女は、

 俺を必要としていない。


 文章からも、

 それは伝わってくる。


 だから、

 逃げる理由が減ってしまった。



 俺は、

 ごく短く返事を打つ。


 【こちらこそ。

  都合が合えば】


 期待させない。

 拒まない。


 ちょうど、

 その真ん中。



 送信してから、

 少しだけ後悔した。


 会えば、

 また自分の足りなさを

 突きつけられる。


 それでも、

 送ってしまった。



 俺は思う。


 これは、

 前に進むための行動じゃない。


 後ろに戻らないための行動だ。


 逃げなかった、

 それだけの話だ。



 高瀬里緒と会う理由は、

 まだ見つからない。


 でも、

 会わない理由も、

 消えてしまった。


 それが、

 一番、困る。


 俺は、

 スマートフォンを伏せて、

 深く息を吐いた。


 また、

 判断が一つ、増えた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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