第6話 来るはずがない連絡が、来た (恒一視点)
スマートフォンが震えたとき、
俺は仕事の数字を見ていた。
良くない数字だ。
慣れている。
見なかったことにして、
後で考えることもできる。
そういう数字だ。
*
通知の名前を見て、
一瞬、理解が遅れた。
高瀬里緒。
頭の中で、
誰だっけ、と考えてから、
思い出す。
ああ、
あの交流会の。
*
来るはずがない、と思った。
思ったというより、
決めていた。
彼女から連絡が来る可能性は、
最初から考えていなかった。
考えないことで、
余計な想像をしなくて済む。
*
画面を開くまで、
少し時間がかかった。
変な期待をしたくなかった。
期待して、
違ったら、
自分が惨めになる。
*
短い文章だった。
礼儀として成立する、
ぎりぎりの文。
誘いとも、
確認とも言えない。
だからこそ、
どう受け取ればいいか分からない。
*
俺は、
すぐに返事を打たなかった。
断る理由も、
受ける理由も、
同じくらいある。
*
断る理由は、簡単だ。
釣り合わない。
世界が違う。
今の自分は、
人と会っている場合じゃない。
*
受ける理由は、
もっと曖昧だ。
断り切れない。
逃げたくない。
それだけだ。
*
彼女は、
何を期待しているんだろう。
仕事の話?
情報交換?
それとも、
ただの雑談?
どれにしても、
俺が役に立つ場面は少ない。
*
俺は、
自分の中の一番弱い部分を
自覚している。
必要とされることに、
慣れていない。
期待されると、
先に壊れる。
*
だから、
取りに行かない。
だから、
追わない。
それが、
俺なりの生き方だった。
*
でも、
今回は少し違う。
彼女は、
俺を必要としていない。
文章からも、
それは伝わってくる。
だから、
逃げる理由が減ってしまった。
*
俺は、
ごく短く返事を打つ。
【こちらこそ。
都合が合えば】
期待させない。
拒まない。
ちょうど、
その真ん中。
*
送信してから、
少しだけ後悔した。
会えば、
また自分の足りなさを
突きつけられる。
それでも、
送ってしまった。
*
俺は思う。
これは、
前に進むための行動じゃない。
後ろに戻らないための行動だ。
逃げなかった、
それだけの話だ。
*
高瀬里緒と会う理由は、
まだ見つからない。
でも、
会わない理由も、
消えてしまった。
それが、
一番、困る。
俺は、
スマートフォンを伏せて、
深く息を吐いた。
また、
判断が一つ、増えた。
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