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こんな良い女、現実にいるわけがない  ―詰んだ中年男が「取りに行かない恋」で人生をやり直すまで  作者: 早乙女リク


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第5話 理由がないのに、連絡してしまう (里緒視点)

 連絡する理由は、なかった。


 仕事に繋がるわけでもない。

 相談したいことがあるわけでもない。

 確認事項も、頼みごともない。


 だから、

 連絡しない。


 それが、今までの私だった。



 神崎恒一の名刺は、

 まだ名刺入れに入っている。


 捨てていない。

 でも、

 意味を持たせてもいない。


 ただ、

 処理が終わっていないだけ。



 仕事帰り、

 電車の中でスマートフォンを眺めながら、

 私はふと思う。


 ――なぜ、私はこの人を

 「なかったこと」にできないのか。


 恋じゃない。

 好意でもない。


 条件を見れば、

 続ける理由は一つもない。



 それでも、

 引っかかっている。


 理由は、

 もう分かっている。


 恒一は、

 私を測らなかった。


 使えるかどうか。

 価値があるかどうか。

 自分にとって得かどうか。


 そういう視線が、

 一切なかった。



 それは、

 楽だった。


 でも同時に、

 腹立たしかった。


 私がどの位置にいる人間なのか、

 確認しようともしない。


 最初から、

 関係を持たない前提で

 距離を取った。



 それは、

 選ばれなかった、とは違う。


 選択肢にすら

 入れていない、という感じだ。



 私は、

 自分の本音を認める。


 ――私は、

 放っておかれる側じゃない。


 これは、

 自惚れじゃない。


 これまで積み上げてきた

 事実の話だ。



 だから、

 放っておかれた理由を、

 確認したくなった。


 責めたいわけじゃない。

 詰めたいわけでもない。


 ただ、

 判断を終わらせたい。



 スマートフォンを開く。


 連絡先は、

 まだ登録していない。


 名刺の文字を、

 そのまま打ち込む。


 神崎。

 恒一。



 文章を考える。


 仕事の話にするか。

 情報交換という形にするか。


 どれも、

 嘘になる。


 私は、

 嘘をついてまで

 連絡したくない。



 結局、

 ごく短い文にした。


 【先日はありがとうございました。

  もし差し支えなければ、

  少しお話しできればと思いまして】


 目的は書かない。

 理由も書かない。


 それが、

 一番正直だった。



 送信した瞬間、

 胸の奥が少しだけざわつく。


 ――やってしまった。


 自分から連絡するなんて、

 本当に久しぶりだ。



 これは、

 会いたいからじゃない。


 好意でもない。


 ただ、

 放っておかれた理由を

 自分の中で処理したいだけ。


 そう言い聞かせる。



 返事が来なければ、

 それで終わりだ。


 その時は、

 恒一を

 「判断が終わった人」に分類する。


 それで、

 この違和感は終わる。



 私は、

 スマートフォンを伏せた。


 連絡してしまったこと自体を、

 まだ、少しだけ後悔している。


 でも同時に、

 どこかで分かっている。


 これは、

 私が選んだ行動だ。


 理由がなくても、

 選ぶことはある。


 それを、

 私はもう否定しない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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