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こんな良い女、現実にいるわけがない  ―詰んだ中年男が「取りに行かない恋」で人生をやり直すまで  作者: 早乙女リク


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第3話 名刺を捨てなかった理由 (高瀬里緒 視点)

 神崎恒一の名刺は、

 他の名刺と一緒に、

 名刺入れの奥に入れた。


 特別扱いはしていない。

 机の上に置いたわけでもない。


 ただ、

 捨てもしなかった。



 異業種交流会の名刺は、

 基本的に数日で整理する。


 仕事に繋がらないもの、

 次に会う理由がないものは、

 迷わず処分する。


 判断を引き延ばす意味はない。



 それなのに、

 神崎の名刺だけは、

 分類が終わらなかった。


 理由を考えてみる。


 話が合ったから?

 違う。


 好印象だったから?

 それも違う。



 正直に言えば、

 条件は悪い。


 年齢差。

 職業の不安定さ。

 将来性の不透明さ。


 どれを取っても、

 「次はない」と判断していい。



 それでも、

 私の中で一つだけ、

 処理できていない点があった。


 神崎は、

 私を測りに来なかった。



 異業種交流会では、

 ほとんどの人が測る。


 私が何者か。

 どれくらいの価値があるか。

 使えるかどうか。


 露骨じゃなくても、

 空気で分かる。



 神崎は、

 その動きを一切しなかった。


 近づこうともしない。

 評価しようともしない。


 だからといって、

 軽んじている感じでもない。



 それが、

 一番、気持ちが悪かった。


 測られない、というのは、

 楽でもあり、

 同時に不安でもある。


 こちらの立ち位置が、

 決まらない。



 私は、

 自分の中の本音に気づく。


 ――私は、

 放っておかれる側じゃない。


 それは、

 自惚れでも、

 勘違いでもない。


 これまでの経験が、

 そう教えてきた。



 だからこそ、

 神崎が最初から

 距離を取ったことが、

 引っかかる。


 拒否でもない。

 選別でもない。


 ただ、

 最初から外した。



 私は、

 名刺を指で挟み、

 一度だけ裏返した。


 書いてある情報は、

 少ない。


 肩書きも、

 誇れるものじゃない。


 なのに、

 嘘はなかった。



 私は思う。


 神崎は、

 「取りに行かない男」なのではなく、

 「最初から諦めている男」だ。


 それは、

 誠実とも言えるし、

 同時に、とても不器用だ。



 恋じゃない。


 惹かれてもいない。


 ただ、

 判断が終わっていない。


 それだけのことだ。



 私は、

 名刺を元の場所に戻した。


 連絡をする理由は、

 まだない。


 でも、

 「なかったこと」にするには、

 少しだけ早い。


 そんな気がした。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


次の投稿からは、1日1回の更新になります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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