第16話 動かないことが、初めて不安になる (恒一視点)
高瀬里緒から、
相変わらず連絡は来なかった。
それ自体は、
特別なことじゃない。
今までも、
そういう時間は何度もあった。
*
俺は、
動かないことに慣れている。
仕事が止まる。
話が進まない。
返事が来ない。
どれも、
珍しくない。
だから、
今回も同じだと思っていた。
*
でも、
どこかが違う。
理由ははっきりしない。
ただ、
胸の奥に
小さな引っかかりが残る。
*
今までの「何も起きない」は、
放置だった。
誰も動かないから、
そのまま時間が過ぎる。
俺も、
相手も。
*
でも、
今回の沈黙は、
少し質が違う。
里緒は、
動けない人じゃない。
判断しない人でもない。
*
だから、
連絡がないことを
「忙しいから」では
片付けられない。
*
俺は、
自分が今まで
どんな沈黙に
身を置いてきたかを
思い返す。
逃げるための沈黙。
面倒を避けるための沈黙。
時間が解決するだろう、という
甘え。
*
里緒の沈黙は、
そのどれでもない気がした。
*
俺は、
初めて考える。
――これは、
選ばれていない沈黙かもしれない。
*
胸の奥が、
少しだけざわつく。
不安、
というほど強くはない。
でも、
無視できるほど
小さくもない。
*
俺は、
自分から動かないと決めている。
取りに行かない。
追わない。
それは、
誠実さでも、
覚悟でもなく、
癖に近い。
*
でも、
癖で続けてきたことが、
初めて
裏目に出るかもしれない。
そんな予感がした。
*
それでも、
すぐに連絡する気には
なれなかった。
理由は簡単だ。
何を言えばいいか、
分からない。
*
会いたい、と言うほど
素直じゃない。
元気?と聞くほど
軽くもない。
理由もなく連絡するのは、
今までの自分が
一番避けてきたことだ。
*
それなのに、
頭の片隅で
一つの考えが
離れない。
――もし、
このまま何も言わなければ、
本当に終わるかもしれない。
*
それは、
当たり前のことだ。
でも、
今までは
当たり前で済ませてきた。
今回は、
少しだけ違う。
*
俺は、
スマートフォンを手に取る。
画面を見て、
すぐに伏せる。
また、
同じことを繰り返す。
*
動かないことが、
初めて不安になる。
それは、
俺にとって
あまり良い兆候じゃない。
今までの生き方が、
試されている気がした。
*
それでも、
まだ動かない。
理由を作れないまま、
動く勇気もない。
俺は、
この静止の中で、
初めて
自分の選択を
意識している。
動かないことが、
逃げなのか、
覚悟なのか。
その答えは、
まだ出ていない。
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