第15話 動かない人の前で、動かないこと (里緒視点)
神崎から連絡が来ないことを、
私は予想していた。
驚きはない。
落胆も、ほとんどない。
むしろ、
その沈黙が
彼らしいと思った。
*
私は、
自分からも連絡しなかった。
これは、
我慢ではない。
様子見でも、
駆け引きでもない。
ただ、
動かないことを
自分で選んだ。
*
これまでの私なら、
どこかで動いていた。
確認の連絡。
区切りの言葉。
次につなげる一言。
どれかを入れて、
関係に意味を与えていた。
*
今回は、
それをしなかった。
意味を与えないまま、
時間を流す。
それが、
どんな感覚になるのかを
知りたかった。
*
仕事は、
相変わらず忙しい。
判断することも、
決めることも多い。
誰かに委ねる場面は、
ほとんどない。
*
そんな日常の中で、
神崎との関係だけが、
宙に浮いている。
終わっていない。
始まってもいない。
*
私は、
その状態を
意識的に保っている。
切らない。
進めない。
ただ、
固定する。
*
これは、
彼に合わせているわけじゃない。
彼の静止に、
自分の静止を
重ねているだけだ。
*
動かない人の前で、
動かない。
それは、
意外と難しい。
沈黙に耐える必要がある。
*
私は、
自分に問いかける。
私は、
この関係に
何を期待しているのか。
答えは、
すぐには出ない。
でも、
一つだけ分かることがある。
*
私は、
彼を動かしたいわけじゃない。
追わせたいわけでも、
振り向かせたいわけでもない。
もし、
そういう気持ちがあるなら、
今すぐ終わらせた方がいい。
*
私は、
神崎と
同じ場所に立ってみたい。
期待しない。
役割を持たない。
価値を交換しない。
その状態で、
関係がどうなるのかを
見たい。
*
それは、
恋愛としては
かなり不安定だ。
でも、
人としては、
正直だと思う。
*
動かない人の前で、
動かないこと。
それは、
相手に合わせることでも、
試すことでもない。
自分の姿勢を
揃えることだ。
*
もし、
このまま何も起きなければ、
それはそれでいい。
それは、
私が選んだ結果だ。
*
私は、
スマートフォンを伏せる。
通知がないことを
確認するためじゃない。
触らないと決めたからだ。
今は、
この静止の中に
身を置く。
それが、
私の選択だ。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




