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こんな良い女、現実にいるわけがない  ―詰んだ中年男が「取りに行かない恋」で人生をやり直すまで  作者: 早乙女リク


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第13話 必要とされない側でいることを、選ぶ (里緒視点)

 帰り道、

 私はすぐに結論を出さなかった。


 切ることも、

 続けることも。


 どちらも、

 今の自分には

 しっくりこなかった。



 神崎は、

 私を必要としていない。


 それは、

 もうはっきりしている。


 誘わない。

 縛らない。

 期待しない。


 どの行動も、

 一貫している。



 普通なら、

 ここで離れる。


 必要とされない関係に、

 意味はない。


 少なくとも、

 これまでの私の基準では。



 でも、

 今日は少し違った。


 必要とされないことで、

 私は何も失っていない。


 軽く扱われたわけでも、

 否定されたわけでもない。


 ただ、

 役割がない。



 それが、

 思ったより

 静かだった。



 私は、

 これまでの自分を思い返す。


 仕事では、

 常に役割があった。


 判断する側。

 決める側。

 責任を引き受ける側。


 恋愛でも、

 どこかで

 同じ立場に立っていた。



 必要とされることで、

 関係は整理できる。


 でも同時に、

 逃げ場がなくなる。



 神崎との関係には、

 それがない。


 頼られない。

 期待されない。


 その代わり、

 何も背負わなくていい。



 私は、

 ふと気づく。


 私は、

 「必要とされない側」で

 いる経験が、

 ほとんどなかった。


 それは、

 強さでもあるし、

 弱さでもある。



 この関係を続けるとしたら、

 私は

 何者かである必要がない。


 支える人でも、

 選ばれる人でも、

 救う人でもない。


 ただ、

 そこにいる。



 それは、

 不安定だ。


 でも、

 嘘がない。



 私は、

 自分に問いかける。


 私は、

 何を守りたいのか。


 プライドか。

 安全か。

 正解か。



 答えは、

 意外と簡単だった。


 私は、

 自分で選んでいる

 感覚を守りたい。



 神崎は、

 私を必要としない。


 でも、

 私が彼を

 「必要としない側でいる」

 ことを

 拒んでもいない。



 それなら、

 選択肢は一つだ。


 必要とされない側でいることを、

 自分で選ぶ。



 それは、

 我慢じゃない。


 諦めでもない。


 立ち位置の変更だ。



 私は、

 次に会う約束を

 自分からはしないことにした。


 切る連絡もしない。


 ただ、

 距離を固定する。



 期待しない。

 役割を持たない。

 判断を急がない。


 この状態で、

 何が起きるのかを

 見てみたい。



 それは、

 恋愛としては

 とても不安定だ。


 でも、

 人としては、

 正直だと思った。


 私は、

 神崎を

 試しているわけじゃない。


 自分の立ち方を、

 試している。


 必要とされない側で

 いられるかどうかを。


 今は、

 それでいい。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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