第12話 必要としないことで、守っているもの (恒一視点)
高瀬里緒が、
自分を必要としていないことに
違和感を覚えているのは、
分かっていた。
あの表情は、
よく知っている。
戸惑いと、
苛立ちが混ざった顔。
*
俺は、
人を必要としないわけじゃない。
ただ、
必要としてしまうと、
壊す。
*
過去に、
何度もそうだった。
頼る。
甘える。
期待する。
その瞬間は、
少し楽になる。
でも、
必ず後で
返せないものが増える。
*
金。
時間。
約束。
返せないと分かっているのに、
受け取ってしまう。
それが、
一番の失敗だった。
*
だから、
最初から線を引く。
必要としない。
期待しない。
頼らない。
そうすれば、
相手の人生を
巻き込まずに済む。
*
里緒に対しても、
それは同じだ。
彼女は、
自分の足で立っている。
世界も、
選択肢も、
俺よりずっと多い。
*
そんな人に、
必要とされる立場に
俺が立つべきじゃない。
立った瞬間、
崩れる。
*
だから、
価値を提示しない。
将来の話もしない。
希望も、
可能性も、
語らない。
*
それは、
冷たさじゃない。
俺なりの、
責任の取り方だ。
*
彼女が言った言葉を、
思い出す。
「私と会うメリットって、
あまりないと思いませんか」
あれは、
本音だった。
*
俺は、
正直に答えた。
そうかもしれない。
それでも、
会わない理由には
ならなかった。
*
それ以上の言葉を
足さなかったのは、
逃げじゃない。
誤魔化したく
なかっただけだ。
*
里緒が、
何を求めているのかは、
正確には分からない。
でも、
少なくとも
「救済」じゃないことは
分かる。
*
彼女は、
誰かを支えるために
ここにいるわけじゃない。
自分の判断を、
自分で下したいだけだ。
*
俺が
必要としないことで
守っているのは、
彼女の自由だ。
――そう思っている。
*
もちろん、
それが正しいかどうかは、
分からない。
独りよがりかもしれない。
*
でも、
俺はこれ以上
誰かの人生に
借りを作りたくない。
返せないものを
受け取るくらいなら、
最初から
何も持たない。
*
必要としない。
それは、
俺にとって
一番安全な距離だ。
里緒にとって
どうかは、
分からない。
分からないまま、
静かに待つしかない。
彼女が、
どんな判断をするのかを。
俺は、
それを尊重するつもりだ。
少なくとも、
取りに行くことは
しない。
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